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山と道の道具の考え方、その根底にあるウルトラライトハイキングat morimori(香港)

文:夏目彰(山と道代表)
2024.08.14

山と道の道具の考え方、その根底にあるウルトラライトハイキングat morimori(香港)

文:夏目彰(山と道代表)
2024.08.14

山と道の代表である夏目が、ブランドの成り立ちから山と道を伝えるプレゼンテーションを、香港のウルトラライトハイキングショップ「morimori」で行いました。その内容を公開し、山と道の理解を深めるための記事としてまとめました。これから「山と道」の製品を使う方、すでに使っている方にも、ぜひご覧いただきたい内容となっています。

中国語(繁体字)verの記事も公開中。
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山と道代表の夏目です。今日の日を楽しみにしていました。 ​

山と道の道具への考え方、山と道の根底にあるウルトラライトハイキングについてお話します。

ウルトラライトハイキングは必要最低限な装備だけで自然に溶け込む方法論です。徹底的に装備をシンプルに軽量化していきます。

日本ではウルトラライトをULと略して、ULハイキングとも呼ばれています。僕はそんなウルトラライトハイキングに大きな影響を受けて、2011年に夫婦で山と道を創業しました。

写真は山と道を立ち上げる前、夫婦で行ったアメリカのJMTの写真です。

その当時の僕たちは全くの素人で、アウトドア業界とは無縁の仕事をしていました。

僕たちが山と道を立ち上げた当時は、まだウルトラライトハイキングのシーンは今ほど形になっていなくて、ウルトラライトハイキングの道具を作るメーカーもほとんどなく、実践している人も数えるほどしかいなかったと思います。

山と道も最初は鎌倉の自宅で始めました。

決して広くはないマンションの一室で、リビングが工場で、ベッドの上が倉庫。キッチンで事務という感じでした。

今年で山と道は13年目になります。今では50人くらいのスタッフが働いています。

僕たちは過度な成長を追い求めることなく、自分たちのコミュニティを大事にしながら、山と道は少しずつ成長しています。

私たちの目的は、ウルトラライトハイキングを伝えること。

長く快適に歩き続けるために、ウルトラライトハイキングの考え方から最高の道具をつくりだすことです。

ウルトラライトハイキングは長い距離を歩き続けるために発展した技術ではありますが、僕は技術的なスキル以上に、ウルトラライトハイキングが持つ思想性に惹かれています。

山と道が考えるウルトラライトハイキングは、​

  • シンプルイズベストを追求する​
  • レス イズ モア(少ないことはより豊かである)と考える​
  • 足るを知る。を志す​

この3つです。

ウルトラライトハイキングを通じて、自分が背負う価値を見極めていくのです。​

多くの物を求めても、背負える限界があります。

ウルトラライトハイキングは、はじめに自分の背負う荷物を測り、ギアリストを作成します。ダイエットも自分の体重を測ることから始まります。

自分の荷物の重さを知ることで、自分が何を背負っているのかを理解できます。使っていない道具がたくさんあることや、使わないのに重く、背負って歩き続けていたことを知るのです。

そして、何が必要か、何がいらないかを考えるのです。

これは僕のギアリストです。ベースウェイトは2211g。これぐらいだと、持っていることも忘れるような軽さです。

ベースウェイトとは、食料や燃料、水などの消耗品をのぞいたバックパックの総量です。衣食住に分けて道具を測り、自分が何を背負っているのかを数値で理解します。その行動を通して、その道具は背負う価値があるのかを自らに問うのです。

そして、徹底的に本当に必要な道具は何なのか?を考えます。

もちろん山と道の道具も多く入っています。最高のハイキングをしたいから作ってきた道具の数々です。

この数年、大きな装備に変更はありません。もしあるとしたら、自分がこの装備を超えるような道具や衣類を作ったときか、他のメーカーが新しい道具を作ったときでしょう。

ウルトラライトハイキングの道具の考え方にはいくつかのキーワードがあります。

1つ目は「超軽量」
同じ機能があるなら、少しでも軽い道具を選ぶ。

2つ目は「多機能性」
一つの道具で複数の用途をこなせることで、持ち物を減らす。

3つ目は「シンプル」
必要最低限の装備。複雑な機能や不要な装備を避け、シンプルで使いやすい道具を選びます。

4つ目は「トレードオフ」
例えば、軽量化を追求すると耐久性が犠牲になるなど。ウルトラライトハイキングでは、このバランスを見極めることが重要です。

5つ目は「MYOG」
自分で道具を作ることを意味します。無い物は作る。不要な機能や装備を取り除いて、自分用にカスタマイズしていくことも「MYOG」の精神です。

山と道はウルトラライトハイキングのために道具を作っています。バックパックだけでなく、衣料品も道具として考えて作ってきました。

超軽量でシンプル、長所と短所を併せ持つ尖った道具ばかりです。使い方をミスれば痛い目に遭うけれど、その意味を理解して使えば、他には無い機能性、使い勝手、気持ちよさを感じてもらえると思います。

山と道の道具は100%機能性でできています。ファッションや見た目、ただ売るためだけに作った道具は一つもありません。

スタッフの言葉でとても印象的な言葉がありました。山と道の製品を使い始めてから、タンスの量が半分になったと言うのです。山でも街でも使えるから、無駄な服が減ったというのです。

これも山と道の道具がシンプルで多機能だからではないでしょうか。

山と道はウルトラライトハイキングの考え方をもとに、これまで多くのユニークな製品を生み出してきました。では僕たちが作ってきた道具とオリジナリティを改めて紹介します。

設立当初に山と道のはじめての製品「UL Pad 15」を発表しました。

その当時はスリーピングマットに使われていなかったXLPEフォームを使用し、同じ保温性を持つマットと比較して約半分の重量、世界最軽量のスリーピングマットを作りました。

同年に最初のバックパック「ONE」を発表。

荷重を自在にコントロールできるカーボンのXフレームを搭載し、その当時のULバックパックとはデザインも構造も違う形になりました。特にフロントポケットの上の大きなポケットはその当時にはなかったデザインです。

同じく同年に、Yamatomichi Sacocheを発表。

Yamatomichi Sacocheも発売当初は完全受注生産で、カラーも自由に選べるカスタムオーダーを行っていました。​

急な坂を登っているときに足にあたらないように、簡単に上げ下げできる構造をデザインしました。テントに使われるパーツを使って、こういった小さなパックを容易に上げ下げする構造を形にしたのも山と道が最初だと思います。

2013年に、初のクロージング製品「5-Pocket Shorts」を発表。

その当時無かった、スマートフォンをしっかりと収納できるアウトドア用のボトムスをはじめて形にしました。

スマートフォンを入れていることを忘れるような装着感。今では様々な素材で5-Pocketのボトムスシリーズを展開しています。

左のポケットにはペットボトルも入れることができ、ちょっとしたハイキングであれば、このショーツだけで楽しむことができます。

2016年からメリノウール100%のシリーズを展開しています。

耐久性や生産安定性を高めるために、化繊を混ぜたメリノウール製品が多かった時代に、あえて、メリノウールの機能を100%感じるために、天然のメリノウール100%にこだわった生地開発、製品作りを行っています。また、乾燥機が使えるメリノウール製品を出しているメーカーはほとんどないと思います。

2019年にUL Shirtを発表。

首元の台襟をなくし、動きやすいトレイルシャツというカテゴリーを作りました。

従来の多くの軽量のウインドシェルが通気性がなく、行動するとすぐにヒートアップするのに対して、UL Shirtは適度に通気して、快適に行動できるウインドシェルとして活躍します。

2020年にOnly Hoodを発表しました。

行動中に風が吹いて寒くなったときに、ウインドシェルをバックパックから出さなくても、Only Hoodを被れば行動し続けることができます。

超軽量のフードを持ち歩く、というこれまでにないデザインを形にしました。

2021年にUL All-weatherシリーズを発表。

全天候型の行動着というコンセプトを打ち出しました。この製品シリーズの特徴は行動着としてどんな天候でも活躍することです。

従来であれば、ウインドシェルとレインウェアの両方をもっていくところを、これ一枚で機能します。

山と道の一部の製品を紹介しました。

僕たちは一つの製品を作るのに、数年がかりで、自分たちが最高だと思えるまで、テストと試作を繰り返して、時間をかけて道具を形にしてきました。

長いもので、すでに5年かけてテストと試作を繰り返している道具もあります。

私たちは、ただ軽いだけでなく、気持ち良く、歩き続けられる道具を求めています。

最高のハイキングをするために、最高の道具を求めて、無いから作る。

誰かの道具をただコピーするなんてつまらないことはしません。

しかし、ハイキングで最高を追求するためには、道具だけでなく、自分自身の経験や知識も重要です。だから僕たちはハイキングに行きます。

ハイキングを通じて感じた、本当に必要な道具を形にしていくのです。

山と道の道具に限らず、良い道具を使いこなすには経験が必要です。ただ軽い道具を集めるだけでは、快適なハイキングはできません。

ハイキングはコンビニエンスな行為ではなく、情報化が進み、何でもあるようで、ないような、からっぽにも感じる消費社会に対して、自分を取り戻していく行為であり、自分自身の経験と感覚、意思がとても重要です。

ウルトラライトハイキングは、生活実験といえます。普段の生活を変えるのは大変だけど、ハイキングなら可能です。

経験を積み、道具を選び、少ない道具で快適に歩く生活を手に入れるウルトラライトハイキングは、社会の生き方を変えていくようなオルタナティブなライフスタイルとも言えます。

山と道ではウルトラライトハイキングを学ぶためのコミュニティ、山と道HLCを日本で7か所と、台湾で開催しています。

JOURNALSというメディアもつくり、定期的に記事を発信しています。」日本語と英語での発信になりますが、ぜひご覧になってください。

最後に、19世紀の思想家ヘンリー・デイヴィッド・ソローの言葉を紹介します。

余分な富をもてば、余分なものが手にはいるだけである。

資本主義の消費文化に対抗し、本当に必要なものだけに焦点を当て、所有物を最低限に抑えることで、精神的な豊かさを追求できると説きました。

私たちもウルトラライトハイキングを通して、自分が求める暮らしとは何かを見つけていきましょう。

皆さま良いハイキングを楽しんでください!

あとがき

ウルトラライトハイキングにはまる前に、僕はヘンリー・デイヴィッド・ソローにはまっていた。ソローの『森の生活』を肌身離さず持ち歩き、常に『森の生活』からインスピレーションを受ける生活をしていた。ヘンリー・デイヴィッド・ソローの『森の生活』には、これからの世界をどう生きるのか、その手助けになる言葉が溢れている。機会があればぜひ読んでほしい。

ソローの「人間らしい豊かな暮らしとは?」という問いはウルトラライトに通じる大きなテーマだと感じているからだ。

少し読み進めるのが難しい本なので、読むコツとしては、最初から最後まで通して読むのではなく、気が向いたときに適当にページを開いて読んでみるのがいい。4ページも読めば、心がいっぱいになるくらい、良いメッセージを受け取ることができるだろう。

そんな僕はウルトラライトハイキングに出会い、これがソローの『森の生活』を体現するものだと理解した。ソローのように自給自足の実験生活を行うことは大変な挑戦になるけれど、ウルトラライトハイキングは遊びながらその体験ができる。そして、気がつけば、僕は『森の生活』を持ち歩くこともなくなっていた。『森の生活』に影響を受けて、ただ、本を読むだけでなく、山と道を立ち上げることにしたのだ。

情報化が進み、さまざまな学びをインターネットから簡単に得ることもできる。山と道もこの時代だから僕たちは立ち上げることができたのだと思う。

ワークスタイルもライフスタイルも多様的に変化している。自由が広がっているからこそ、作り手も受け手側も「どう生きるのか?」は大きなキーワードになるのではないだろうか?