誰にでもある、思い出の道具やどうしても捨てられない道具、ずっと使い続けている道具。
この『HIKERS’ CLASSICS』は、山と道がいつも刺激を受けているハイカーやランナー、アスリートの方々に、それぞれの「クラシック(古典・名作)」と呼べる山道具を語っていただくリレー連載です。
第3回目となる今回の寄稿者は、東京岩本町にあるムーンライトギアで店長を務める服部賢治さん。その豊富な商品知識はムーンライトギアを訪れた方ならご存知のはずですが、服部さん自身もマウンテン・ランニングやクライミング、バックカントリートリップやバイクパッキングなど、ジャンル横断的にアクティブに遊ぶ、正に現代のアウトドアマンです。
NOTE
ムーンライトギアの服部と申します。今回、この『Hikers’ Classics』のご依頼をいただき、大先輩の方々を前にして自分が書くのは気が引けるのですが、自分らしい山での遊び方や精神的な部分をお伝えできたらと思い、お引き受けしました。どうぞお手柔らかにお付き合いいただければ幸いです。
「荷物が軽い = 自然とより密接に付き合え、より深い経験を積める」
山歩きを始めた頃から、軽量化は僕の永遠のテーマだ。物心つく頃から親の趣味に付き合わされ、山歩きをしていた。先日、自分の結婚式用のムービー作りで小さい頃の写真を見返していると、山歩きかスキーかサッカーの写真しかなく、親には週末ごとにどこかに連れ出されていた。
その頃から山は好きだったし、テントで寝るのも好きだったけれど、重い荷物を背負うことに対する嫌悪感は今もよく覚えている。僕は他の小学生に比べて体が小さく、60Lのフレームザックを背負っているとよく「カバンが歩いているみたい」と言われた。子供ながらにどうやったら荷物を軽くできるかということはその当時からずっと考えていた。
だが、小学生の自分がウルトラライト・ハイキング(UL)なんて知るわけもなく、基本的に親に山道具を借りていた自分にとっては「選択」と「改造」という2点がとても重要だった。フレームザックからフレームや雨蓋やタグを取り除いて軽量化してみたり、今でいう「MYOG」や「セルフリペア」の精神を実践していた。自分の身体や山行スタイルに合った道具を自分で作ったり改造するという精神はとても大事だと僕は思っている。作ったものには愛着が湧くし、ものを大事にするという精神が生まれるからだ。
小学生の頃、琵琶湖を自転車で一周する旅に出た。その際。少しでも荷物を軽くしたい(ママチャリのカゴに全ての荷物を入れたい)と思い、親に借りてツエルトを使ってみた。もちろん、当時のものなのでまだまだ重く、1kgはあったと思うけれど。その旅の後半、天気の良く夜にマットと寝袋だけで星空を見ながら寝て、朝日を見たとき、なんとも言えない感動に襲われた。今でも琵琶湖の向こうに見えたその朝日をよく覚えている。よりシンプルな野営をすることにより、自然をより身近に体感できたのではないかと思う。
そして大学生になり、サッカー部のトレーニングで裏の山を走ったのをきっかけにマウンテン・ランニングにハマった。なんて自由で身軽なんだと衝撃を受けた。色々調べるうち、兵庫県の芦屋にヤバいショップがあると知った。スカイハイ・マウンテンワークスの北野拓也さんとの出会いだった。北野さんはじめとしたスカイハイのランニングチーム(Mt. Rokko Hardcore)の方々との交流を通じてより軽く、より早く、より自由に山を駆け巡ることに目覚めていった。
そして今、ULギアはアルパインクライミング、バックカントリースキー、沢登り、バイクパッキング、マウンテンランニング(ファストパッキング)など様々なアクティビティの垣根を越えたクロスオーバーを生んでいる。それは「ライト&ファースト」という理念を生み、使う人の技術によってはより自由に、より安全に山で遊ぶことを可能にする。自らの経験値をもとに自然のなかで遊ぶことを通じて、「自分とは何者か」を探求すること。軽量でシンプルなギアは、その手助けになってくれる。