誰にでもある、思い出の道具やどうしても捨てられない道具、ずっと使い続けている道具。
この『HIKERS’ CLASSICS』は、山と道がいつも刺激を受けているハイカーやランナー、アスリートの方々に、それぞれの「クラシック(古典・名作)」と呼べる山道具を語っていただくリレー連載です。
第2回目となる今回の寄稿者は、『UL Ski Hiker』名義でブログやSNSでの情報発信を行っている野上建吾さん。ATスキーを履いて誰もいない低山を旅する独特なハイキングスタイルに加えて、道具の改造や独自の使いこなし術、オリジナリティ溢れる食料計画やハイキングレシピなど、その世界観は注目に値します。挙げていただいた今回の『CLASSICS』も、すべて野上さんの手が加えられたもの。思わず「そんな発想あったんだ!」と言いたくなる回になりました。
NOTE
『山と道JOURNALS』読者の皆さんこんにちは! 私はULスタイルに傾倒して9年目、新潟県に住む素人ハイカーです。インターネット上ではUL Ski Hikerとして自分のスタイルを情報発信しています。素人が素人なりに、この文化に対して魂を燃やしてきました。それなりに長くやっていると、こんなお題で好きに語れる機会を与えてもらえるので、ありがたいことだなーと感じています。
実は今回のテーマ、『HIKERS’ CLASSICS』は自分のブログに連載しようと温めていた企画でもありました。今回お話を頂いて丁度良くタイミングが合ったため、自分なりに思うことをこちらで表現してみます。以下、いつもの私の文体で推し進めますので、ずいぶんと偉そうではありますが、しばしお付き合いください。What is classics?
定番とは何か?
ひよっこハイカーが一人前になり、更にベテランハイカーへと成長する過程において、ギアに対する要求や必要な機能はフェーズごとに変化する。そのつどリクエストを満たした新しいギアに買い替えることも正解への近道ではあるが、最新のギアを買うことだけが「先鋭的」で「新しい」ことではない。
定番(CLASSICS)とは、古典落語やジェームズ・ブラウンのドラムブレイクがそうであるように、使い手の発想次第で繰り返し形を変え、時代を超えて再生可能なモノ(事)を指す。
あなたが何か新しいスタイルに挑戦しようとして、ベースウェイト(ハイキング装備を詰めたバックパックから、水・食料・燃料を抜いた総重量)の壁にぶつかったとき、新しい道具を探すのではなく、手持ちの定番ギアに最注目してみよう。余分な機能を取り外す、新たな機能を付け足す、組み合わせを変えて対応幅を広げる。自分のスタイルごとギアに合わせて変化させる。様々な創意工夫で道具と向き合い、ときに喧嘩し、落胆し、それでもひとりの女性を口説き続けるように、根気強く接してみる。最後に自分のものにしたときに、あなたのハイキングは次のフェーズへと移行する。
ハイカーは旅の中で実践したアイデアを自宅に持ち帰り、更に工夫をしながらひとつのギアを色々なパターンで使ってみる。何度も何度も繰り返し、山と自宅の間で試行錯誤する。変化に対応できる汎用性を備え、時の審判に耐えうる恒久性を持ち、何度でも生まれ変われることが「定番」の「定番」たる所以である。
手を加え、工夫を凝らしたギアを見返してみよう。自分のこれまでの変化や成長のプロセスを眺める良い機会になるはずだ。
私の場合
きっかけは何だったかな? そう、たしか手持ちの寝袋にダウンを追加で増量したいと行きつけの店の店主に相談したときだった。丸眼鏡をかけ、アルプスの岩山に立つ山羊のようなひげを蓄えた店主だった。
そのとき、自分の頭で考えて提案したことをすごく褒めてもらったことがとても嬉しかった。ひよっこハイカーが一人前になれた気がした。ギアを改造すること、思い切った発想に身をゆだねること、その気持ちよさに目覚めた瞬間だった。思えばそれ以降、道具を買い替えることよりも、創意工夫で道具と向き合うことを優先に考えるような体質に自然となっていったのかもしれない。
今回ご紹介するギアたちは、どれもハイキングを始めたての1年生のころに買い揃えたギアたちだ。成長の過程で一度は使わなくなった時期もあるが、あの手この手で再生させ、9年たった今でも全員が一軍メンバーに名を連ねている。
だがしかし、注目してもらいたいのは個々のギアではない。自分のハイキングと真摯に向き合う行為そのもの、創意工夫こそがハイキングカルチャーの本質である。他人のアドバイスや方法論は必要ない。自分のハイキングに責任を持つ。その尊い姿勢こそ我々が手にする最も重要なギアである。