誰にでもある、思い出の道具やどうしても捨てられない道具、ずっと使い続けている道具。
今回から始まるHIKERS’ CLASSICSは、山と道がいつも刺激を受けているハイカーやランナー、アスリートの方々に、それぞれの「クラシック(古典・名作)」と呼べる山道具を語っていただくリレー連載です。
記念すべき第一回の寄稿者は、グラフィックデザイナーの中村モトノブさん。EDIT-design&supply-名義でロゴマークやTシャツ等のデザインを多数手がけている、名古屋のハイキング/ランニング/自転車コミュニティのキーパーソンです。
NOTE
軽いもの、コンパクトなもの、地味なもの
いつから山に行こうと思ったのかは思い出せないのだけれど、僕の地元には鈴鹿山脈があり、おそらく運動不足解消のためとか、当時熱心だったロードバイクやランニングのトレーニングだったりとか、そんな理由だと思う。この山と道JOURNALSにウルトラライト・ハイキングや自分がこれまで使ってきた道具について書くとき、過去の記憶をもう一度思い返してみることは、自分自身のこれまでの歩みを復習する良い機会にもなると思う。
ハイキングを始めた頃、完全に見た目で購入したブラックダイアモンドのRPM。縦長で丸いシルエットが気に入っていて、適当にパッキングして鈴鹿の山を日帰りでウロウロするのが楽しかった。ただ一緒に山に行く友人もいなく、ハイキングの楽しさやTipsに限界を感じていたのも事実。そこで当時参考にしていたのがブログだった。
そこにはどの山岳雑誌にも載っていないようなウルトラライト道具考やTipsがちりばめられていて、リンクをたどって数多くのブログを見てまわった。『山より道具』『できるだけ山』『Beyondx』『blues after hours』…… 枚挙に暇がないのだけれど、なかでも『夜明けのランブラー』のランブラーさん(現在は超軽量のカーボンストックRunblurを制作している千田誠さん)が僕と同じ30リッター程度のRPMで北岳に登ったレポートには衝撃を受けた。「もっともっと軽くできるんだ! 」と、僕のウルトラライト・ハイキングの扉が開いた瞬間だった。それから鈴鹿の山で実践あるのみの日々が続いた。
そうして軽い道具で山を歩くうちに、気づくことがあった。
「あ、山に登るのどうでも良いかも」
僕は頂上を目指すより、森の中を歩いている方が好きなのだ。そして良い場所があれば、ゴロリと寝てしまいたい。ザックに入った必要最低限の道具さえあれば、「これだけで生きていけるんだ」という束の間の森の住人感を味わえる。そんなこんなで、人の少ない鈴鹿の山ならではの楽しさや道具の選び方が身に付いていった。「重いものより軽いもの、大きいものよりコンパクトなもの、派手なものより地味なもの」こんな感じだ。
SNSの爆発的な広がりによってブログの更新頻度が落ちていった代わりに、もっと近場での繋がりもできた。2012年、近くのアウトドアショップで山と道の展示会があるというので勇んで出かけた。そこでSNSやブログをきっかけに声をかけてもらい、山友だちをつくることができたし、近くに同じ趣味をもつ人がいるのがうれしかった。
その後も名古屋の某台湾料理屋でハイカーズミーティング(という名の飲み会)を開いたりして、山友だちの輪はどんどん大きくなっていた。そして現在もOMMやOMM BIKEに参加したりして苦楽を共にしているのである(笑)。
誰かと一緒に行くと他の人の道具を見たり、使い心地を聞いたり、地に足がついた情報を得ることができた。その一方で、SNSを通して膨大な情報が襲いかかってくる。おかげであまり使われもせずお蔵入りになった道具も多くなっていった。「あれ? 道具自体は軽いけれど、モノがいっぱいあるのはウルトラライトじゃなくない? 」と感じるようになり、それから多くの道具を手放した。
厳選した手持ちの道具だけで山に行くことで、気持ちも軽やかになったような気がしたし、妙なこだわりもなくなった。とはいえ、目新しい道具をインターネットで見ると、ソワソワするけど。
ペラペラのザックやアルコールストーブなどのウルトラライト・ハイキングのアイコニックな道具ももちろん大好きだけれど、一周まわってやっと自分にとっての“ちょうどよい道具選び”ができるようになってきたのかもしれない。
そんな愛すべき道具と友人と、また山に行こうと思う。