0123456789 ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ abcdefghijklmnopqrstuvwxyz あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわをん アイウエオカキクケコサシスセソタチツテトナニヌネノハヒフヘホマミムメモヤユヨラリルレロワヲン
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Make Your Own Hike

#1

裏岩手ONSEN PILGRIM TRAIL
文/写真:佐藤大祐
2018.03.09
Make Your Own Hike

#1

裏岩手ONSEN PILGRIM TRAIL
文/写真:佐藤大祐
2018.03.09

INTRODUCTION

ハイキングは自由だ。どこに行って、何をしたっていいんだ。

『Make Your Own Hike』はお決まりのルートガイドから離れて、ハイカーが独自の視点で”Make”したハイキングの記録を紹介する投稿コーナーです。

記念すべき第1回目の寄稿者は、山と道とも親交の深いハイカーの佐藤大祐さん。周囲に10箇所を超える温泉地が点在する裏岩手連峰縦走路を、気の置けない仲間と温泉と酒を目指して巡礼して歩いた、4日間のハイキングの記録です。

OUTLINE

裏岩手ONSEN PILGRIM TRAIL

【山行日】 
2017年11月03日〜11月06日

【行程】 
Day1:茶臼岳〜八幡平湿原〜八幡平避難小屋(避難小屋泊)/5.7㎞
Day2:八幡平避難小屋(避難小屋)〜裏岩手連峰登山口〜諸桧岳〜大深山荘〜松川温泉(キャンプ泊)16.8㎞
Day3:松川温泉〜三石湿原〜滝ノ上キャンプ場(休止中)〜滝ノ上温泉〜白沼〜乳頭山〜乳頭温泉(キャンプ泊)/15.7㎞
Day4:孫六(温泉)〜一本松温泉跡(野湯)〜黒湯(温泉)/2.8㎞

総距離 40.72㎞
行動時間 Day1/4時間 Day2/7時間 Day3/10.5時間 Day4/3時間

最高標高 1613m
累積標高 2235m

HIGHLIGHTS

・トレイルの各所に点在する温泉
・小乳頭からの秋田駒ヶ岳と乳頭山へ至るフラットな縦走路
・薪ストーブ付きの避難小屋
・季節を選べばほぼ人に会わない
・野生動物(野兎・テン)にたくさん会える(こともある)

DAY1-1

裏岩手への旅は、道の駅などで最後の補給をしつつ駅周辺に車をデポして始まった。盛岡駅から八幡平頂上まではバスが出ており、途中の温泉地や、ワンウェイルートを選んで秋田駒ヶ岳から下山する場合も麓からバスを使うことができ、トレイルとターミナルをつなぐ交通のアクセスは非常に良い。盛岡までは僕らのようにクルマで行くのもいいが、高速バスなどの公共交通機関の利用もオススメだ。

DAY1-2

八幡平頂上へは昼前がバスの最も早い到着時間となるため、初日は歩けても八幡平の先の藤七温泉か八幡平を超えた蒸ノ湯温泉まで。バスの窓から素敵な風景が見え、急遽少し手前の茶臼岳から歩き始めることにした。右手に安比高原が広がり、木道が続く黒谷地湿原は黄金色に輝き、遠くには岩木山が見えた。陽が陰り始めるころの八幡平湿原のどこまでも広がるような空間に僕たちはとても感激した。

DAY1-3

夕暮れが迫り、今日のハイクをどこで終えようかと思案していると、八幡沼のほとりにたたずむ避難小屋を見つけた。扉の窓から覗けば暖炉付きではないか。温泉を目指して蒸ノ湯温泉まで進むか随分迷ったが、よく考えれば薪ストーブ付きの避難小屋で過ごす経験なんてそうあるものでもない。この時期にはほぼ人が訪れることもないため、夜はこの薪ストーブ付きの避難小屋を貸切り状態で過ごすことに決めた。

DAY1-4

この陵雲荘(避難小屋)は中央に薪ストーブを備えトイレ付き。壁際に配置された2段のエリアは快適に過ごすに十分な広さ。水道が通っておらず、近くの雪解け水か八幡沼などの水場から汲む必要があり、浄水器が必須だ。調べると20分も歩けば八幡平レストハウスへも行けるため初日にも関わらずお酒を追加して宴会モードへまっしぐら。窓の外には夕闇と共に深い霧が立ちこめ、暖炉の炎が揺れるのを見ながら夜は更けていった。

DAY2-1

仲間のひとりの脚の調子が悪く、僕たちは当初目標にしていた秋田駒ヶ岳を越えるスルーハイクを諦め、東北のトレイルをじっくりと楽しむことに決めた。旅は柔軟であれ。この日の目標を「今日こそ温泉!」に定め、鼻息荒く山を越えた麓の松川温泉を目指した。ちなみに冬期休業中で僕らは断念したが、レストハウスから車道を少し下った藤七温泉にも訪れたかった。外湯だけでも5ヶ所の泥の混浴温泉があり、湯船からは絶景が楽しめるとのことだ。

DAY2-2

小雨まじりの曇天の中を八幡平縦走路登山口からスタートしてミストハイクを楽しんだ。山は晴れもいいが、霧もいい。まさに雲の中を歩いている気分だった。松川温泉までは標高1500m前後のトレイルが続き、諸桧岳を越えれば概ね下り基調となる。また、松川温泉への途中にも大深山荘という避難小屋があり、何かあってもここで身の安全を守ることができる。足下には落ち葉の絨毯が敷かれ、霧の晩秋を存分に味わった。

DAY2-3

昼過ぎに松川温泉に到着し、無理せずこの日はここでハイクを終了。あとは昨日からの疲れた体を癒すだけ。そう、僕たちは求めていた。温泉を! ここ松川温泉には古くは約270年を越えて開湯している宿もあり、偶然入った峡雲荘は秘湯マニアにも人気だとか。お湯は乳白色でぬるっとしており、じんわりと体が溶けるような気持ち良さだった。これは「山を歩いた後の温泉」でしか味わえない快感のひとつだ。

DAY2-4

温泉とビールでいい気分になった僕たちは、今夜の宿を見つける必要があった。宿の人にキャンプ場を探しているというと、この宿が管理をしている冬季閉鎖中のキャンプ場の使用許可を特別に頂けた。この辺りの宿は一部を除いて10月中には閉まってしまうとのこと。夕暮れの誰もいないキャンプ場にテントを張り、夜は小さな焚火を囲んでお酒を飲み、翌日の幸運を願った。

DAY3-1

相談した結果、岩手山へ向かうのはやめて、ひとりは車をピックアップ、あとのふたりは乳頭山に登る計画に変更した。残るひとりに後で会おうねと手を振り、目標を乳頭温泉郷に定めて小雪舞う中を歩いた。ハイクアップしていくと足元は5㎝程のスノートレイルとなり、周囲の枝にも薄らと雪が積もり、気温は-2℃程。昨日までの秋の様相から、辺りは初冬の景色へと変わっていった。

DAY3-2

スノートレイルでの密かな楽しみのひとつは野生動物の足跡に出会えること。トレイルでは白い野兎と黄金色の貂の命がけの追いかけっこに遭遇し、足下を二匹が駆け抜けていくという貴重な体験もした。また、見るからにさっき踏んだような(時間の経過は雪の具合でわかる)熊と思われる足跡を見かけた時はびっくりした。僕は嬉しくて思わずにやけてしまったが、友人はきっちり気を引き締めて周囲に注意を払い歩いていた。

DAY3-3

途中の三ツ石湿原にも無人避難小屋があり、ここも薪ストーブ付きだった。中へ入ると地元の方々が朝から宴会をされていて、僕たちも休憩させてもらいながら小屋の薪の話になった。どうやらあの薪は小屋の使用者が登山口などから歩荷したものが多いのだとか。薪を運ばずに使用させてもらった僕たちは、薪を運ぶためにもまたここに来なければねと話しながら先へ向かった。

DAY3-4

小乳頭を過ぎると空から小雪が舞ってきた。気温は-5℃まで落ち、風速20mの暴風に見舞われた。見回すと雪が積もって緑と白が混じったような美しい色合いをした秋田駒ヶ岳を望むことができた。やっと辿りついた山頂で空をふと見上げると、太陽が雲間から顔を出し、20km先の田沢湖が「天使の梯子」の光を受けて輝いていた。その風景には言葉には表せない感動があった。

DAY3-4

麓への到着は陽も落ちた夕刻になってしまった。乳頭温泉郷でもうひとりの仲間と無事に合流することができ一安心。まずはともあれ、僕たちは温泉でこの冷え切った体を思う存分溶かす必要があった。その後、本日の宿となるキャンプ場を探したが、やはり冬期で既に閉場しているという。仕方なくこの日は人と野生動物に迷惑をかけないよう再び森に分け入り、いわゆるステルスキャンプをすることにした。

DAY4-1

4日目。どうやらそれぞれ調子も悪く、秋田駒ヶ岳へ向かうのはやめて温泉巡りをすることにした。実は昨日の下山途中にトレイル脇に偶然野湯を見つけたのだった。そこへ入ってみたくてもう一度行くことにしたのだ。乳頭温泉郷には、僕たちが入った孫六、後で入った黒湯の他にも、野湯を含めれば6ヶ所の温泉場があり、日帰り湯のできる宿が充実していて、すべてが徒歩圏内(鶴の湯は若干距離がある)にあるのが素晴らしい。

DAY4-2

なかでもトレイルを30分も歩けば到着できる一本松温泉には是非トライしてもらいたい。現在は野湯になっていて、先人達があとから来た人のために湯船を掘ってくれており、近くの岩の間から硫黄臭のする湯が滲み出している。湯温が高い場合は川の水をひき入れるという野趣溢れる温泉だ。ここは脱衣所もなく女性にとってはなかなか人目が気になるかもしれないが、このプリミティブな野湯を僕たちはとても気に入った。

DAY4-3

この日合計3ヶ所の温泉を巡った我々はそろそろ旅を終えるべきじゃないかと感じていた。まずは腹ごしらえをして考えようと選んだのは、その名も「ジンギスカン食堂(みどり荘)」。店の昭和レトロな風貌も含めて最高だった。久しぶりの下界の味に触れたときに、なぜかやっと僕たちの温泉ハイクは終わった気がした。

DAY4-4

この裏岩手エリアには、山中、麓を合わせれば10箇所を超える温泉地があり、そのそれぞれの温泉地に複数の温泉が存在する。僕たちが体験したのは全体のほんの一部だったかもしれないが、それでも歩き疲れて入る温泉に十分満足できたし、ハイキングと温泉の素晴らしさを改めて感じ、帰りの車中で既に裏岩手を懐かしんでしまうくらいだった(笑)。自由なハイキングと温泉は本当に最高だった!

DAY1-1

裏岩手への旅は、道の駅などで最後の補給をしつつ駅周辺に車をデポして始まった。盛岡駅から八幡平頂上まではバスが出ており、途中の温泉地や、ワンウェイルートを選んで秋田駒ヶ岳から下山する場合も麓からバスを使うことができ、トレイルとターミナルをつなぐ交通のアクセスは非常に良い。盛岡までは僕らのようにクルマで行くのもいいが、高速バスなどの公共交通機関の利用もオススメだ。

DAY1-2

八幡平頂上へは昼前がバスの最も早い到着時間となるため、初日は歩けても八幡平の先の藤七温泉か八幡平を超えた蒸ノ湯温泉まで。バスの窓から素敵な風景が見え、急遽少し手前の茶臼岳から歩き始めることにした。右手に安比高原が広がり、木道が続く黒谷地湿原は黄金色に輝き、遠くには岩木山が見えた。陽が陰り始めるころの八幡平湿原のどこまでも広がるような空間に僕たちはとても感激した。

DAY1-3

夕暮れが迫り、今日のハイクをどこで終えようかと思案していると、八幡沼のほとりにたたずむ避難小屋を見つけた。扉の窓から覗けば暖炉付きではないか。温泉を目指して蒸ノ湯温泉まで進むか随分迷ったが、よく考えれば薪ストーブ付きの避難小屋で過ごす経験なんてそうあるものでもない。この時期にはほぼ人が訪れることもないため、夜はこの薪ストーブ付きの避難小屋を貸切り状態で過ごすことに決めた。

DAY1-4

この陵雲荘(避難小屋)は中央に薪ストーブを備えトイレ付き。壁際に配置された2段のエリアは快適に過ごすに十分な広さ。水道が通っておらず、近くの雪解け水か八幡沼などの水場から汲む必要があり、浄水器が必須だ。調べると20分も歩けば八幡平レストハウスへも行けるため初日にも関わらずお酒を追加して宴会モードへまっしぐら。窓の外には夕闇と共に深い霧が立ちこめ、暖炉の炎が揺れるのを見ながら夜は更けていった。

DAY2-1

仲間のひとりの脚の調子が悪く、僕たちは当初目標にしていた秋田駒ヶ岳を越えるスルーハイクを諦め、東北のトレイルをじっくりと楽しむことに決めた。旅は柔軟であれ。この日の目標を「今日こそ温泉!」に定め、鼻息荒く山を越えた麓の松川温泉を目指した。ちなみに冬期休業中で僕らは断念したが、レストハウスから車道を少し下った藤七温泉にも訪れたかった。外湯だけでも5ヶ所の泥の混浴温泉があり、湯船からは絶景が楽しめるとのことだ。

DAY2-2

小雨まじりの曇天の中を八幡平縦走路登山口からスタートしてミストハイクを楽しんだ。山は晴れもいいが、霧もいい。まさに雲の中を歩いている気分だった。松川温泉までは標高1500m前後のトレイルが続き、諸桧岳を越えれば概ね下り基調となる。また、松川温泉への途中にも大深山荘という避難小屋があり、何かあってもここで身の安全を守ることができる。足下には落ち葉の絨毯が敷かれ、霧の晩秋を存分に味わった。

DAY2-3

昼過ぎに松川温泉に到着し、無理せずこの日はここでハイクを終了。あとは昨日からの疲れた体を癒すだけ。そう、僕たちは求めていた。温泉を! ここ松川温泉には古くは約270年を越えて開湯している宿もあり、偶然入った峡雲荘は秘湯マニアにも人気だとか。お湯は乳白色でぬるっとしており、じんわりと体が溶けるような気持ち良さだった。これは「山を歩いた後の温泉」でしか味わえない快感のひとつだ。

DAY2-4

温泉とビールでいい気分になった僕たちは、今夜の宿を見つける必要があった。宿の人にキャンプ場を探しているというと、この宿が管理をしている冬季閉鎖中のキャンプ場の使用許可を特別に頂けた。この辺りの宿は一部を除いて10月中には閉まってしまうとのこと。夕暮れの誰もいないキャンプ場にテントを張り、夜は小さな焚火を囲んでお酒を飲み、翌日の幸運を願った。

DAY3-1

相談した結果、岩手山へ向かうのはやめて、ひとりは車をピックアップ、あとのふたりは乳頭山に登る計画に変更した。残るひとりに後で会おうねと手を振り、目標を乳頭温泉郷に定めて小雪舞う中を歩いた。ハイクアップしていくと足元は5㎝程のスノートレイルとなり、周囲の枝にも薄らと雪が積もり、気温は-2℃程。昨日までの秋の様相から、辺りは初冬の景色へと変わっていった。

DAY3-2

スノートレイルでの密かな楽しみのひとつは野生動物の足跡に出会えること。トレイルでは白い野兎と黄金色の貂の命がけの追いかけっこに遭遇し、足下を二匹が駆け抜けていくという貴重な体験もした。また、見るからにさっき踏んだような(時間の経過は雪の具合でわかる)熊と思われる足跡を見かけた時はびっくりした。僕は嬉しくて思わずにやけてしまったが、友人はきっちり気を引き締めて周囲に注意を払い歩いていた。

DAY3-3

途中の三ツ石湿原にも無人避難小屋があり、ここも薪ストーブ付きだった。中へ入ると地元の方々が朝から宴会をされていて、僕たちも休憩させてもらいながら小屋の薪の話になった。どうやらあの薪は小屋の使用者が登山口などから歩荷したものが多いのだとか。薪を運ばずに使用させてもらった僕たちは、薪を運ぶためにもまたここに来なければねと話しながら先へ向かった。

DAY3-4

小乳頭を過ぎると空から小雪が舞ってきた。気温は-5℃まで落ち、風速20mの暴風に見舞われた。見回すと雪が積もって緑と白が混じったような美しい色合いをした秋田駒ヶ岳を望むことができた。やっと辿りついた山頂で空をふと見上げると、太陽が雲間から顔を出し、20km先の田沢湖が「天使の梯子」の光を受けて輝いていた。その風景には言葉には表せない感動があった。

DAY3-4

麓への到着は陽も落ちた夕刻になってしまった。乳頭温泉郷でもうひとりの仲間と無事に合流することができ一安心。まずはともあれ、僕たちは温泉でこの冷え切った体を思う存分溶かす必要があった。その後、本日の宿となるキャンプ場を探したが、やはり冬期で既に閉場しているという。仕方なくこの日は人と野生動物に迷惑をかけないよう再び森に分け入り、いわゆるステルスキャンプをすることにした。

DAY4-1

4日目。どうやらそれぞれ調子も悪く、秋田駒ヶ岳へ向かうのはやめて温泉巡りをすることにした。実は昨日の下山途中にトレイル脇に偶然野湯を見つけたのだった。そこへ入ってみたくてもう一度行くことにしたのだ。乳頭温泉郷には、僕たちが入った孫六、後で入った黒湯の他にも、野湯を含めれば6ヶ所の温泉場があり、日帰り湯のできる宿が充実していて、すべてが徒歩圏内(鶴の湯は若干距離がある)にあるのが素晴らしい。

DAY4-2

なかでもトレイルを30分も歩けば到着できる一本松温泉には是非トライしてもらいたい。現在は野湯になっていて、先人達があとから来た人のために湯船を掘ってくれており、近くの岩の間から硫黄臭のする湯が滲み出している。湯温が高い場合は川の水をひき入れるという野趣溢れる温泉だ。ここは脱衣所もなく女性にとってはなかなか人目が気になるかもしれないが、このプリミティブな野湯を僕たちはとても気に入った。

DAY4-3

この日合計3ヶ所の温泉を巡った我々はそろそろ旅を終えるべきじゃないかと感じていた。まずは腹ごしらえをして考えようと選んだのは、その名も「ジンギスカン食堂(みどり荘)」。店の昭和レトロな風貌も含めて最高だった。久しぶりの下界の味に触れたときに、なぜかやっと僕たちの温泉ハイクは終わった気がした。

DAY4-4

この裏岩手エリアには、山中、麓を合わせれば10箇所を超える温泉地があり、そのそれぞれの温泉地に複数の温泉が存在する。僕たちが体験したのは全体のほんの一部だったかもしれないが、それでも歩き疲れて入る温泉に十分満足できたし、ハイキングと温泉の素晴らしさを改めて感じ、帰りの車中で既に裏岩手を懐かしんでしまうくらいだった(笑)。自由なハイキングと温泉は本当に最高だった!

NOTE

佐藤大祐

極まれに、ハイキングをすることによって欲動とか、衝動といったものを感じることがある。 この感情はずっと言葉にうまく表すことができないでいたのだけれど、最近すこし似ているかもしれないなと思うのは、爆音で大好きな音楽が聴こえてきたときに何かに体を貫かれたような、あの感じかもしれない。それをどんなときに感じるかなどは、いまもうまく整理できないけれど、今回のハイキングでは確かにそんな瞬間があり、そしてこんなに心揺さぶられた山旅は久しぶりだった。

11月初旬の3連休を利用した3泊4日+往復2日(往復車中で朝を迎えた)の旅。岩手県の八幡平から岩手山までを背骨のように繋ぐ「裏岩手連峰縦走路」を歩きながら、その周辺に点在する温泉につかり、お酒を飲み、雪山で暴風にさらされる濃密な時間を素敵な夫婦と過ごしてきた。

当初は八幡平をスタートし、岩手山を経て秋田駒ヶ岳までをワンウェイでスルーハイクするルートを企んでいたけれど、仲間のひとりが体調を崩したため、最終的に茶臼岳、八幡平を歩き、松川温泉を経て岩手山は迂回し、乳頭山の先の乳頭温泉郷へ向かうルート(秋田駒ヶ岳はその先にある)に切り替えた。裏岩手周辺はトレイルの途中に温泉が点在していることも多く、山深いエリアにもかかわらず日帰りのショートルートから4泊を超えるロングルートまで臨機応変にルートを組むことができるのも魅力のひとつだ。

Hikers Express(友人夫婦のクルマ)で東京から片道700 kmをブッ飛ばし、八幡平に到着。どこまでも広がっていくような湿原に感激し、夜は幸運にも薪ストーブ付きの避難小屋を貸切り状態で過ごすことができた。これがまたお酒を飲むのに最高なシチュエーションで、隠し持ってきた自慢の酒とツマミを小出しに見せ合いながら、早い時間から絶好調(笑)。

翌日以降、山を歩くたびに浸かった秘湯では至福を感じ、雨まじりの曇天のミストハイクではなだらかな稜線を歩き、落ち葉を踏みしめて晩秋を存分に味わった。夜は小さな焚火を囲んで酒とアテでその日の自分たちの足跡を讃え、明日の幸運を願った。

乳頭山の山頂付近では風速20mの暴風に見舞われた。頭上には重く暗い雲がかかり、吹雪で顔を上げることもできず、下を向いて一歩づつ踏みしめながら歩いた。

辿りついた山頂でふと見上げると、太陽が雲間から顔を出し、20km先の田沢湖が「天使の梯子」の光を受けて輝いていた。その瞬間、大げさではなく空と山が僕たちを受け入れてくれたように感じて、暴風吹きすさぶ山頂で、僕は感極まって叫び続けた。体中を駆けるこの感覚は一体何なのだ? 音楽のライブ会場でなら分かるけど、山の上でこんな感覚になるなんて! これも僕が山を歩くことをやめられない理由のひとつかもしれない。

僕はいつもはソロハイクで速めのペースで歩くことが多いのだけれど、今回は友人夫妻と普段とは違うペースで歩くことで、耳を澄ませば動物の鳴き声が聞こたり、いつもは通り過ぎてしまうような樹木や植物に目を留めたりすることができたり、トレイルの別の楽しみ方を発見できたことにも感動した。

当初の目標だった「八幡平から岩手山を経由して秋田駒ヶ岳を越える」というスルーハイクはできなかったけれど、東北の温泉の素晴らしさに感動し、タフなハイクもでき、十二分に満足できる旅になった。旅の間中、3人とも笑顔が絶えず、素晴らしいハイクができたのがなにより嬉しかったし、温泉をつないで歩く旅に僕たちは毎日とてもわくわくした。

この旅で入った温泉は計5ヶ所。色、泉質、シチュエーションとそれぞれ違い、そのすべてが最高だった。この裏岩手エリアには、10箇所を超える温泉地があり、それら温泉地をゆるやかに縦走路がつないでいく。トレイルにどこから入り、どのルートをとっても、一日歩けばどこかの温泉地には到着できるんじゃないだろうか?

なかでも現在は野湯になってしまった一本松温泉では、トレイル脇の岩の間から硫黄臭のする源泉が滲み出しており、川から冷水を引き入れて先人の掘ってくれた湯船を継承するという、なんとも野趣溢れる湯に入ることができた。僕たちが体験したのは全体のほんの一部だったかもしれないけれど、それでも、トレイルを歩いて疲れて入る温泉には毎日十分過ぎるほど満足できたし、最高な仲間と共にハイキングと温泉の素晴らしさを改めて感じることもできた。

日本の国土は70%を山岳地帯が占めるという。その狭間には日本中至る土地に温泉が湧き、近くには街もある。世界中見渡したってこんなロケーションは日本特有ではないだろうか? 

素晴らしい!素晴らしい!

さぁ次はどこを繋ぎ、歩こうか? ドキドキするような旅をしよう!

HIKING KIT

Backpack MYOG Backpack

Shelter Locusgear Khufu + Tyvek Grand Sheet
Sleeping Pad Nemo Tensor Insurated 20S
Sleeping Bag + Bivy OMM Mountainraid1.6 + Sol Escape Pro Bivy

Stove Brs-3000T(No Name)
Cook Wear Batchstovez Cookpot 500ml
Canteen Nalgen Cantene1.5L
Water Purifier Sawyer mini
Bowl 山の器
Cutlary Toaks Titanium Spoon

Shell Montain Spector Smock
Mid Layer Yamatomichi Merino Hoody
Base Layer Ibex Men’s OD Henry ss
Pants OMM Kamleika Pants + Ibex Woolies1 bottom
insulation Wear Fethered Friends Herios Jacket + Nanga Portable Downpants + Western Mountaineearing Flash Bootie
Sox point6 & Sealskins

Wood Stove Picogrill 85+Net
Nife Baladeo ‘Papagayo’ Skiny
Belows 風神くん (MYOG火吹き棒)
Umbrella Monbell Sunblock Umbrella
Head Lamp Monbell Power Headlanp
Trekkinng Pole Monbell U.L.Folding Pole113
Emergency Kit

Base weight 5.0kg
Pack weight 10.5kg

MUST KNOW

・ワンウェイのルートをとる場合は盛岡駅周辺に車をデポしてバスでアクセスも可能。

・「裏岩手連峰縦走路」は八幡平からは多少のアップダウンはあるが基本的には下り基調で急登などは特になく、様々なエスケープルートも計画しやすい。

・11月初旬で目安の最低気温は0度~-2度くらい。雪があることも想定した方がよい (標高が上がると変化します)。

・この時期の東京は晩秋でも東北は既に初冬であり、雪のあるところで10㎝程度 (僕らは必要なかったですが心配な方はアイゼンなどを柔軟に計画してください)。

・薪ストーブ付きの避難小屋を利用前提の場合は少しでも薪を担ぐのがローカルマナーと思われる。

・北アルプスのように山小屋は営業していないため基本的には温泉地のキャンプ場やトレイル上の避難小屋を積極的に利用させてもらうと良い。ただし、キャンプ場は冬に入ると閉場しているところもあるため確認が必要。

・季節によっては人があまり歩いていないトレイルもあるため野生動物には注意(僕たちは直前に通った熊の足跡を見つけ、野兎とテンは足下を走り抜けていきました)。

・酒とツマミは程々に!

Make Your Own Hikeでは投稿をお待ちしています。あなた独自のアイデアや視点の入った旅であれば、大きな旅から小さな旅まで、どんな旅でも構いません。興味のある方はCONTACTページから『Make Your Own Hike投稿希望』という題名で、旅のあらましを書いて応募してください。謝礼もご用意しております。奮ってのご参加お待ちしております!

佐藤大祐

佐藤大祐

建築関係の仕事をして東京に暮らすごく平凡なHIKER。釣りばかりしていた頃、ウルトラライトハイキングの魅力にとりつかれて深く傾倒。それ以来ウルトラライトという考え方を通して、季節や使うギア、外遊びのジャンルを問わずに山、川、海のフィールドでの「FUN」をアップデートし、「LIFE」をより豊かにしようと奮闘中。大好きというだけだけれど、BeerとRock'n'Rollにもずっと夢中になっている。