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山と道ラボ レインウェア編

#4

独自検査法による透湿性能試験
文責:渡部隆宏/三田正明
2018.01.17
山と道ラボ レインウェア編

#4

独自検査法による透湿性能試験
文責:渡部隆宏/三田正明
2018.01.17

現在、レインウェアという伏魔殿の奥の院へと歩みを進めている山と道ラボ。

これまでのレポートで、レインウェアの機能の根幹である防水透湿メンブレンの素材にはePTFE(テフロン)系、PU(ポリウレタン)系があり、素材の特性には親水性のものと疎水性のものがあり、その表面構造には多孔質と無孔質があり、それらの組み合わせによりそれぞれの防水透湿素材の特徴や個性が生まれているのだということは、少しづつ理解が深まってきたのではないでしょうか?

#4となる今回は、遂にデスクリサーチの枠を超え、実際に主要な防水透湿素材を独自に考案したテストを行うことで、カタログデータのその先へ、伏魔殿のさらに奥へと歩みを進めていきます。

そこでわかったことは、これまでの推測通りだったこともあり、まったく想定外のこともあり…。

試験結果は山と道ラボ#2で圧倒的なレポートを作成し、今回も独自の透湿試験方法を考案した渡部研究員がまとめ、最後にそこから導き出されることと今後の展望を山と道ラボ・クルーによる鼎談という形で構成してみました。

『山と道ラボ』とは

山道具の機能や構造、性能を解析する、山と道の研究部門です。
アイテムごとに研究員が徹底的なリサーチを行い、そこで得られた知見を山と道の製品開発にフィードバックする他、この『山と道JOURNALS』で積極的に情報共有していくことで、ハイカーそれぞれの山道具に対するリテラシーを高めることを目指します。

独自検査法による透湿性実験報告
/渡部隆宏(山と道ラボ)

疑問〜なぜ透湿性の検査方法はバラバラなのか?

山と道ラボ「#2レインウェア・マーケット分析」のリサーチを進めるなかで、最もわかりにくかったのは透湿性の指標についてです。

山で着用するレインウェアに求められる基本的な機能は、防水性と透湿性ですが、防水性については「耐水圧」というシンプルな指標があり、明確にウェア・素材間で比較ができます。

ところが、透湿性となると、「山と道ラボ「#3 透湿試験とメンブレンの解説」にもありました通り、指標・検査の方法が複数存在しています。

たとえば、ある素材は「RET<4」、ある素材は「15000g/m2/day (JIS A-1法)」、またある素材は「30000g/m2/day (JIS B-1法)」、といった具合です。検査方法が異なる指標同士であれば、「こちらの素材がこちらよりも透湿性能が上だ」という比較が難しくなります。

また、われわれユーザーの立場からすれば、最も知りたいのは実際に山で着た場合の透湿性能・快適性能ではないでしょうか。

前回「#3 透湿試験とメンブレンの解説」によりますと、例えばJIS A-1法は衣類内が蒸れて外気が高温かつ乾燥しているような環境を想定しているようですが、実際に雨がふった場合、衣類外部の湿度は100%に近いはずです。行動量が多ければ、レインウェアの内部も発汗し、蒸れているために衣服内外がともに湿度100%近い状態となります。しかし、既存の検査方法はどれもそのような条件を想定していないようです。

既存の方法がうまくフィットしないのであれば、自分たちでやってみるのがいちばん。山と道ラボでは、実際の雨天の山に近い環境を再現し、透湿性を測る方法を考えることにしました。

同時に、その方法によってレインウェアの代表的な素材・注目素材の透湿性能を比較することにもチャレンジしています。

果たして、どのような条件でも快適な究極の素材はあるのか? この方法で見いだしてみたいと思います。

①オリジナル検査方法を考案する

試行錯誤の末、JIS A-1法およびA-2法をヒントとして、以下のような装置を作りました。

常に汗と蒸気を放出している人体を、体温に近い40度のお湯をはった水槽に見立てます。この水槽を今回検査する防水透湿素材で覆うことで、「レインウェアを着た人体」を再現することとしました。お湯の蒸発量がすなわち透湿量ということになります。

一方で恒温恒湿装置は、温度と湿度を自由に設定できますので、夏の雨天や秋冬などの環境を表すことができます。先ほどの水槽を装置内に入れることで、様々な環境下でどの程度透湿するかを計測することができると考えました。

実験としては多少の粗さがあり、水槽を覆う際の密着度、お湯の温度維持など誤差の要因がありえますが、多くの素材を同一の方法で検査すればなんらかの傾向が出るのではないかと考えました。

②実際の検査

10月某日、ラボの面々で恒温恒湿装置を備えた都内某所の検査センターに集まりました。

検査装置をさらに改良し、一度に2つ素材を検査できるよう小型化。予備実験で恒温恒湿装置の操作方法などをマスターした上で、いよいよ本実験に望みます。

検査は東京お台場にある都立産業技術研究センターで行いました。試験に意気込む一同は、左より夏目所長、松本研究員、渡部研究員。

テストした素材と着眼点:「ePTFE / PU」×「疎水 / 親水」

今回テストした素材は以下の7種類。スタッフ私物や借り受けたもの、生地サンプルなどで行いました。

1. ゴアテックス
2. ゴアテックス・アクティブ・シェイクドライ
3. eVent
4. パーテックスDV(パーテックスブランドのeVent、非現行品)
5. パーテックスシールド(旧称パーテックスシールド+)
6. パーテックスシールドプロ(旧称パーテックスシールドAP)
7. ポーラテックネオシェル

各試験片は以下を使用しました。
1.ゴアテックス=ほぼ未使用のゴアテックス製スタッフサック
2.ゴアテックス・アクティブ・シェイクドライ=アーキテリクス ノーバンSLフーディ
3.eVent=OMM イーサージャケット(2017)
4.パーテックスDV=スワッチ(素材見本)
5.パーテックスシールド=スワッチ(素材見本)
6.パーテックスシールドプロ=スワッチ(素材見本)
7.ポーラテックネオシェル=ティートンブロス ツルギジャケット

この素材選定にあたっては、2つの着眼点がありました。

1つは、レインウェアの素材として2大勢力であるePTFE(テフロン系)とPU(ポリウレタン系)の差異を、複数の素材で比較したいということ。

もう1つは、デスクリサーチやシャワーテストなどで重要なポイントとして浮上した疎水性・親水性素材の差異を比較したいということです。

シャワーテストについて説明します。この実験に先駆け、夏目所長が自宅でレインウェア素材にシャワーをかけ、防水性を比較するテストを行っていました。その中で、親水性素材は濡れこそしないものの裏地に水分が染みてくるという現象を発見しており、透湿性においても疎水性・親水性の違いが出るのではないかと仮説を立てました。

このePTFEとPU、疎水と親水の4つの組み合わせからモレがないように代表的な素材を当てはめ、最終的な検査素材としました。

当てはめた結果は以下の通りです。

注:疎水・親水の区分には仮説を含んでいます。メンブレンが疎水でも素材全体の性質として親水と解釈したものもあれば、シェイクドライのようにざっくりと仮定したものまであります。

テスト環境は以下の2パターンです。

パターン1
衣服内外ともに高温、かつ湿度100%近く。夏の雨天を想定
→衣服外=恒温恒湿装置:温度40度・湿度98%、衣服内=水槽内:湯温50度(水槽内気温37度)、湿度80%)

パターン2
衣服外ともに平均的な温度・湿度。春秋の晴天を想定
→衣服外=恒温恒湿装置:温度20度・湿度50%、衣服内=水槽内:湯温40度(水槽内気温30度)、湿度70%)

パターン1は、既存の方法がどれも試みていない条件です。

普通に考えれば、衣服内外で温度差・湿度差がほとんどなければ、均衡が保たれてしまい透湿のしようがないはずです。事前の仮説では、この場合にはどの素材も透湿せず、素材間の差も出ないのではと考えていました。つまり、何を着ても夏山でたくさん汗をかけば蒸れるのではないかと。そのことをきちんと実験で示してみたいということがパターン1の目的です。

パターン2は既存のJIS A-1法やRET法(発汗ホットプレート法)に比較的似た条件です。こちらではカタログ値に近い結果が出てくれると期待できます。また、ネオシェルのように透湿性スペック非公開の素材について、その実力を測定できるのではないかと期待できます。

さて、検査装置をセットアップし、一日かけた長い長い実験が始まりました。

こちらが今回用いた恒温恒湿装置です。内部に手を入れて装置を操作できます

検査室内の温度と湿度を変更できるので、異なる条件下での透湿性を検査できます

検査室内部に手を入れて装置を操作することができます。検査装置に検査片をセットする夏目所長

あとはひたすら待ちます…

検査が終われば、素材を通して蒸発した水分量を測ります。午前中に始まった実験は結局センターの閉館時間ギリギリまでかかってしまいました。

③検査結果

素材ごとの結果一覧
*蒸発量(g)は1平方メートル・24時間換算してあります。

まず、事前の仮説とは異なり、パターン1の夏山を想定した高温・高湿環境でも透湿する素材がありました。具体的にはゴアテックス・アクティブ・シェイクドライ、パーテックスDV、ポーラテックネオシェルです。いずれも疎水性素材です。

一方でゴアテックス、eVent、パーテックスシールドは透湿値ゼロでした。パーテックスシールドプロについては、なんと検査前後で槽内が重くなっています。つまり、素材外から蒸気が逆流しています。パーテックスDVとeVentはほぼ同じ素材と考えていましたが、結果が異なることも予想外でした。

パターン2の春・秋山想定環境ではすべての素材が透湿しました。透湿量が多い順にパーテックスシールドプロ、eVent、ゴアテックス、パーテックスDVとパーテックスシールド、ゴアテックス・アクティブ・シェイクドライ、ネオシェルとなっています。なんと、ゴアテックス・アクティブ・シェイクドライとネオシェルについてはパターン1の透湿量がパターン2を上回っています。

この結果ですが、事前の仮説と異なる部分がありました。

実際には、今回の検査には以下のように測定誤差が入り込む余地があり、この誤差が影響したことは否定できません。

●一定の温度・湿度状態になるまで、恒温恒湿装置の稼働時間・アイドリング時間がばらついていた

●恒温恒湿装置内の温度・湿度調節のために内部でファンが回っている場合、回っていない場合があり、ファンの強度もばらついていた

●検査前後で測定する秤(はかり)の精度が粗かった

●水槽内の温度、水量、検査素材の密閉度合いなどにバラつきがあった(湯温も冷めていき維持できなかった)

以上から、今回のオリジナル調査はより厳密性を追求していく必要がありますし、この測定結果をもって個々の素材の透湿性評価とするには無理がありますが、一方、今回の主目的である、ePTFEとPU、疎水と親水という素材性質ごとの違いについては何らかの傾向を導くことができるのではないかと考えました。

その結果は以下の通りです。

・いずれのパターンでも透湿性はePTFEがPUを上回った。とくにパターン1の高温・高湿環境にて差が大きく、一方パターン2ではあまり差が現れなかった。

・親水性・疎水性の透湿性の比較では、疎水性メンブレンの方が上回った。

以上を総合すると、透湿性においてもっとも有利な素材はePTFEかつ疎水性の素材であると思われる。該当するものはeVent(パーテックスDV)、ゴアテックス・アクティブ・シェイクドライ。ゴアテックスについてはシェイクドライだけでなく、コーティングの薄いゴアテックス・アクティブやゴアテックス・プロも同等の性能である可能性が高い。

④試験結果を受けての対話

さてさて、今回の結果をどのように解釈し、課題を整理し、製品開発につなげていくか…。

正直、実験を取り仕切った渡部としては事前の仮説と異なる結果も多々あり、頭を抱えてしまったのですが、夏目所長は納得がいった様子でした。

その理由も含め、後日、夏目所長と渡部研究員、編集担当の三田正明が鼎談を行いました。(鼎談構成:三田正明)

ILLUSTRATION:KOH BODY

予想通りだったことと違かったこと

渡部 今回の実験結果を受けて、私の方から所見を述べさせていただきます。まず、そもそもなぜこういう実験をしたかというと、従来の透湿実験は山で人がレインウェアを着た時の状況をあまり反映していないのではという疑問があったんです。それはデスクリサーチを進める中で感じたんですが、防水透湿素材について検索すると、アウトドア用途は全体のごく一部で、多くは実は住宅用建材とかなんですよね。

三田 ゴアテックス社も実は人工血管とかの医療用途がメインだっていう話を聞いたことがあります。

渡部 なので、そういった素材の防水性や透湿性を測る指針としてはJIS法など既存の検査法は適しているのかもしれないですけれど、身に付けて行動するレインウェアにもそれを適用するのは無理があるのではないかと。それで今回、独自の測定法を考案して、実験を行ったのですが、結果としては概ね事前に考えていた仮説通りだった部分と、事前の予想とは違っていた部分がありました。それが誤差の範囲なのか、試験方法の未熟さに起因するのか、あるいは素材が本当にそういう素材なのかは、正直、たった一回の実験では結論は出せないというのが実感です。その辺は次回以降の反省点ですね。

三田 とにかく正確なデータを得るには厳密な検査を何度もやる必要があるということだけは今回わかりましたね。

渡部 事前に考えていた仮説通りだった部分としては、パターン1の高温・高湿環境下では多くの素材が透湿がほとんど生じないという結果になりました。いかに透湿性が高い素材だとしても、衣服内外がともに高温・高湿であれば均衡してしまい、透湿が生じないと考えられますね。ただし、パーテックスDV、ネオシェル、シェイクドライでは高温・高湿のパターン1の透湿量がパターン2を上回るという結果になりました。検査方法に起因する誤差ということも考えられますが、これらの素材は通気するために恒温恒湿装置内にあるファンが生み出す対流が素材を通過し、蒸発を促進した可能性も考えられます。そもそも疎水性多孔質素材はメンブレンに孔が開いているため、表地が濡れた場合や厚い裏地のコートなどでブロックされない限り、一定の通気性があると考えられます。つまり、パターン1の方がファンの回り方が激しかったために、蒸発量が多くなったという可能性です。ただ、大きく言えるのは、現在の防水透湿メンブレンの素材には大きく分けてePTFE系とPU系があって、さらに親水性素材と疎水性素材に分かれているんですが、ePTFE系の疎水性素材が透湿性に関して有利であるのは間違いないのではないでしょうか。

三田 テフロン系の疎水性素材というとeVentとかシェイクドライとかですね。

渡部 検査結果が正しいとした場合、ネオシェルとシェイクドライは高温・高湿条件でも透湿性が高く、蒸れにくいと期待できます。しかし、パターン2の結果がふるわず、どのような条件でも快適と立証することはできませんでした。また、これらの素材が通気するとした場合、外気の湿度が高ければ衣類内に湿った空気が逆流することも考えられます。通気することはメリットばかりではなく、保温性や防風性が犠牲になります。風の強い稜線上とか残雪期の夜間行動、厳冬期などには向かない可能性があります。そうしますと、ゴアテックスのように寒冷化でも一定の保温性を保ってくれる素材の方が安全といえるかもしれません。

「蒸れない」は、いつどんな時も正義なのか?

夏目 今回は誤差があったにせよ、ある程度は夏場の蒸した低山の環境と冬場の乾燥した環境というのを想定して実験できましたよね。疎水性のネオシェルやeVentはあれよあれよという間に通気して、水槽の中の湿度が外部環境とほぼ同じになったというのが、当たり前といえば当たり前なんだけど、やっぱりそうなんだと思いましたね。つまりeVentとかネオシェルは外が寒ければ中も寒いんだなというのが明確に見えたんですよ。でも、ゴアテックスは水槽の中の湿度が変わらなくて、つまりずっと中は暖かい。確かに透湿性だけを取り出せば疎水性素材が良いのかもしれないですけれど、気温の低い状況下での安全性を考えるとゴアテックスにも意義がある。そのバランスをどこに置くのか、そのウェアがどういった目的で使われるかを明快にすることが大事なんだっていうことが今回のテストで見えてきました。

渡部 ただ一方で、まだゴアテックスでわかっていない部分がありまして。ゴアテックスの素材であるテフロンのメンブレンは疎水性の多孔質なんです。でも、その裏地に親水性のコーティングをしていると推測されるんですよ。

三田 ゴアテックスはコーティングが親水性でメンブレンが疎水性っていう組み合わせ?

渡部 テフロンは素材そのものが疎水性なんでそう推測しています。テフロン加工のフライパンも水を弾きますよね。 ただ、親水性のポリウレタンは山と道ラボ#3の松本さんのリサーチによると無孔質(穴が空いていない)ですから、保温だけを考えるとそれがいちばんいいはずですよね。現状だとパーテックスシールドなどの素材であるポリウレタンは無孔質で(穴が空いていないぶん)強靭だから薄くできる=軽くできることが強みになっていますけど、保温性という観点でも注目しても良いのかも。

三田 現状はパーテックスシールドは軽量シェル専門素材というイメージですけど、実は厚手のシェルにも良いのではということ?

渡部 同じような厚さの生地を使ったシェルなら多孔質のゴアテックスより無孔質のパーテックスシールドのほうが暖かいのかも。ただし、通気性は低いのかもしれませんよね。ゴアテックスはどんな状況下でもある程度機能するという意味で、いいところをついてるのかも。

三田 ただ、ゴアテックスが「暖かい」って、つまり常にちょっと蒸れてるから暖かいっていうことですよね。それを良しとするかどうかは、アクティビティにもよるし、状況にもよりますよね。蒸れすぎてウェア内部が湿ってしまったら汗冷えの可能性もある。

夏目 そうなんですよね。で、やっぱり蒸れるのが嫌だからネオシェルとかeVentみたいな通気性が高い素材が注目されたわけじゃないですか。それも当然のことだと思うし、そういった通気性の良いシェルが単体で保温性が低いとしても、レイヤリングでカバーすることも可能なわけで。

渡部 確かに。今回は素材の検査でしたけど、そもそもレインウェア全体として考えた場合、衣類内の蒸れを防ぐ機能は素材の透湿性とか通気性だけでは決まりませんからね。ベンチレーションなどデザインの果たす役割も重要だし、保温性も、素材の厚さやレイヤリングで容易に変わる。

夏目 そういった知識や経験のない人が、山での安全性だけを取るんだったらネオシェルやeVentより俄然ゴアテックスの方がとりあえずベターではある。ただ、さっき渡部さんがおっしゃったように無孔質のポリウレタンの厚手のシェルがあった時に違いがどうなるかは気になる部分ではありますね。

渡部 そういう製品ってあるんですかね?

夏目 OMMの新しいカムレイカ(2017年モデル)とかはそういう素材なんじゃないかな? あれはおそらく無孔質のポリウレタン素材で、かつウェア内部が37.5℃以上になると透湿が始まるっていう触れ込みの「37.5テクノロジー」っていうので安全性=保温性と透湿性をハイブリッドした場所を狙ってるのかなって。

渡部 着用して実験してみたいですね。山でずっと行動し続けることを前提とするならば蒸れないことのメリットの方が大きんでしょうし、逆に気温が10℃を下回るような状況では保温性も大事になってきますし。そこをレイヤリングで解決できるような知識と経験のある方なら軽量性に割り切ったものの方が機能的なのかもしれないし。ユーザーもそこをわかった上で使うべきだし、メーカーもそれを周知することが大事ですよね。そこが現状では曖昧にされているし、メーカー側も「どんな時でも快適です」「蒸れずにドライです」的なアピールをしすぎいてるかなって思います。

三田 ひとくちに防水透湿素材と言っても、そこには様々な素材やテクノロジーがあって、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあるのに、そこは全然説明されないで、とにかく「濡れない」「蒸れない」ということばかり強調されている。

渡部 防水性も透湿性も数字で示されているんで、数字が高ければスペックも良いだろうという、ユーザーもそういうところで判断せざるをえないんだろうと思うんですけど、今回の実験やリサーチを進めてきた中でわかってきたことは、単純な数値だけじゃなく、各防水透湿素材ごとに状況やユーザーの知識も踏まえた棲み分けがある

レインウェアは『ドラゴンボール』でなく『ジョジョ』

三田 これからリサーチを進めていくことで、こういうシチュエーションはこの素材、このシチュエーションはこの素材というように、そのマッピングがよりクリアになっていくと良いですね。

渡部 レインウェアの世界って、マンガで例えると『ドラゴンボール』の「戦闘力9000」みたいに数値でそれぞれの強さがわかる世界じゃなくて、『ジョジョの奇妙な冒険』みたいにそれぞれに特性や特技があって、そういうキャラ同士が頭を使って戦う世界な気がしますね。この状況ならスペックに関わらずこっちの方が機能的だよ、とか。

三田 「最強の一着」ってのはないってことですよね。適材適所でしかない。

渡部 レイヤリングと総合してこの状況ならこれがベストっていうのは出ると思うんですけど、レインウェアだけを取り上げてこれがベストっていうのは言えないと思いますね。

夏目 僕としては今回、「蒸れているのは必ずしも悪いことではない」ってことが見えたことが素晴らしい発見だったんですけど、今後のテストで、透湿がすぐ始まる素材なのか、ある程度蒸れてから透湿が始まる素材なのかってことも、ちゃんと整理してテストできたらいいなと思っています。新しいカムレイカのテストも兼ねて、透湿が何度で始まったり、変わるのかってこともわかるようなテストができたら良いですね。例えばカムレイカが言ってる通りウェア内部の気温が37.5℃以上で透湿するっていうなら、37.5℃以下ならある程度蒸れてた方が暖かいし、それ以上になったら透湿して通気した方が快適だし。あとは各防水透湿素材が出している数字の検査方法がバラバラなので、同じ検査方法ですべての生地をテストする。

渡部 それは是非やりたいですね。B-1法でしか透湿性スペックを公開していない素材や、そもそもスペック非公開の素材もありますからね。同じJIS A-1法やRET法で透湿性を検査して比較することにも大きな意味があると思います。今回わかったこととして、既存のJIS法などはやはり厳密で、当然ですけどよく考えられている。測定機器や容器内の条件を維持することが予想以上に困難で、実際の山・フィールドをそのまま再現するような厳密な実験は、かなり難易度が高いのではないかと感じました。そもそも疎水性や親水性の区別が不明な素材もありますし、電子顕微鏡テストなど、より厳密に素材の性質をつかんだ上で検査を行う必要もありそうです。

三田 次回は電子顕微鏡で各素材を見ていきますから、それでもさらにいろんなことがわかりそうですね。引き続きよろしくお願いします!

(文責:渡部 隆宏/三田正明)

注:本稿は2017年8月から10月にかけて行ったリサーチャー、およびラボメンバーの独自研究をまとめたものであり、一部に推定もしくは主観的な判断を含みます。本稿は内容の完全な正確性・妥当性を保証するものではなく、本内容を利用する事によって生じたあらゆる不利益または損害などに対して一切の責任を負いかねますのでご了承下さい。引用は著作権法にもとづいた適正な範囲でお願いします。

渡部 隆宏

渡部 隆宏

山と道ラボ研究員。メインリサーチャーとして素材やアウトドア市場など各種のリサーチを担当。デザイン会社などを経て、マーケティング会社の設立に参画。現在も大手企業を中心としてデータ解析などを手がける。総合旅行業務取扱管理者の資格をもち、情報サイトの運営やガイド記事の執筆など、旅に関する仕事も手がける。 山は0泊2日くらいで長く歩くのが好き。たまにロードレースやトレイルランニングレースにも参加している。