霧島〜九州脊梁山地 山々を繋いで歩く1週間
社是としてスタッフには「ハイキングに行くこと」が課され、山休暇制度のある山と道。願ったり叶ったり! と、あちらの山こちらの山、足繁く通うスタッフたち。この『山と道トレイルログ』は、そんな山と道スタッフの日々のハイキングの記録です。
今回は山と道スタッフではありませんが、大阪のアウトドアショップ谷ノ木舎店主にして山と道HLC関西アンバサダーを務めていただいている中川裕司さんが、友人の小川裕史さんと山と道HLCディレクターの豊嶋秀樹さんと毎年恒例で出かけている1週間の山旅のレポートを寄せてくれました。
毎回ちょっとエクストリームなこの3人での山行は、昨年もこのJOURANLSで紹介しましたが、前回の台湾の北一段縦走に続いて彼らが選んだ旅先は九州。鹿児島県の霧島から熊本と宮崎の県境に沿ってのびる九州脊梁山地を繋ぐ計画を立てました。
ともあれ、その行程をすべてトレイルを繋いで歩くことは不可能なので、結果的に旅は山から街に降り、また山に入るような、山と街を繋ぐものになったといいますが、逆にそれが、旅の形としてとても新鮮だったとか。
歩く旅と言っても、高峰やロングトレイルを目指すばかりがそのすべてではないはず。ときにはこんな旅もどうでしょう?
TRAIL LOG
毎年恒例のヒデキさん(豊嶋秀樹)とボマちゃん(小川裕史)と僕での1週間のロングハイク。去年は台湾で濃密な旅をしたのが、それはもういろんな意味で懐かしい。
日程は年初から決まっているが、行き先はギリギリまで決めきらず、当日早朝まで変更アリってスタイルでもう5年目。今年は熊本と宮崎の県境に沿ってのびる九州脊梁山地を絡めたロングハイクをするという、大まかなプランが持ち上がったのが出発の2〜3週前のことだった。 それを化粧する形で、八代海から太平洋までつなぐ「SEA to SEA」だの、霧島から阿蘇山をつなぐ「火口to火口」だの、面白そうな一筆書きをメンバーのSNSのグループスレッドで模索していく。
今回は1週間の日程をめいいっぱい歩く旅にしたかったが、ひとつの山域ではそれは難しく、結果的にまず鹿児島に入り、霧島から九州脊梁へと山々を繋ぐ旅をすることになった。もちろん、ずっと山道を歩けるわけではなく、山を越え、街を歩き、また山に入るのだが、振り返るとその繰り返しが新鮮で面白い旅になったと思う。今回、山と街を繋ぐことで、九州の方々の人の良さや優しさや豊かな自然環境も、より一層垣間見ることができた気がする。
【Day O】
鹿児島市
2020年の11月7日、鹿児島市内のゲストハウスにチェックインし、ご当地行動食を調達がてら天文館付近を散策してから、「前夜祭」と称して鹿児島在住のハイカー仲間たちと合流して楽しいお酒を酌み交わす。想定通りのはしご酒となり、想定通りの寝不足、想定通りの二日酔いからのスタートとなったのは言うまでもない。
泥酔し、いちゃつきながらゲストハウスへ帰るヒデキ氏とボマ氏。
【Day 1】
霧島・韓国岳〜えびの
高千穂峰側から歩き出すか、韓国岳側から歩き出すか、昨夜の宴の中ではまだ議題に上がっていたが、近年の地震や水害の影響で崩落していることも予想される上、繋がりきれていないルートもあったので、序盤はひとまず距離も短くなるだろう韓国岳側から入山することにした。
えびの高原のミュージアムセンターに荷物をデポして、10時頃から二日酔い抜きがてらに韓国岳を2時間少々でループハイク。その後、いよいよ北に向かって歩き始めた。
韓国岳山頂から新燃岳を望む。
大浪池方面へループをして下山。
そこいらにさまざまな種の巨木が立つ森を抜けると、林道に出た。その日はそこから『えびの飯野駅』までロードを下り、駅前の中華料理店で夕飯を食べ、明日から入る山域の麓の林道で野宿することにした。麓に着いた時には21時をまわっていた。
しばらくは木道の遊歩道が続き観光客が多く見られたが、先に進むと人影は消え、森はワイルドになっていった。
山を下りても延々と林道を歩き…
さらに車道を何キロも歩いた。
牛舎や牧草地帯、畑などが続くのは食料自給率の高い九州らしい風景だ。
【Day 2】
えびの〜白髪岳〜あさぎり
クルソン林道から入山し、地形図を見ながら名も無い山々を繋ぎながら歩いた。実線の道も先の令和2年7月豪雨の影響か寸断されている箇所もあるし、場合によってはその迂回もできない崩れ方をしている箇所もある。急なトラバースや急登をこなし、尾根伝いに歩ける国見山まで登りきるまでが難所だった。
昨今の自然災害の影響で崩落している林道が非常に多い。
地形図を読みながらヤブの少ない緩やかな谷筋を直進。
国見山からは不明瞭ながらもトレイルがあり、歩きやすかった。白髪岳のあたりのブナの原生林は非常に美しく、あんまり気持ちよかったので、はじめてしっかりとした休憩を取り、みんなでカレーを食べた。
白髪岳山頂付近の巨大ブナの前で記念撮影。
白髪岳からはしっかりした登山道があって、ルートに気を使うこともなかったので、小走りで登山口まで一気に下りきった。
林道から見えるあさぎりの町並みが美しく、牛舎や牧草地帯を眺めながら歩くみちはローカル感がにじみ出ていて、退屈に思う事がなかったが、ルートを選びながら山を20km以上歩いて、下山後に舗装路を20km以上歩くのは、なかなか足にきた。
林道からあさぎり町の街並みを望むヒデキさん&ボマちゃん。
翌日から九州脊梁山地に入ると食料調達ができなくなるので、あさぎり町のスーパーで3泊4日分の食料を買い込んだ。
以前から、発酵食品を利用した保存食を試していて、鶏ムネ肉を4kg購入し、ジップロックに熊本の田舎味噌と漬け込む鶏みそ鍋を3日間の晩餐のメニューに提案すると、2人ともふたつ返事で了承してくれた。
生鮮野菜と球磨焼酎もたっぷり買い込んだので、ザックが異常に重くなった(笑)。
【Day 3】
あさぎり町〜高塚山登山口
野宿していた湯前駅付近から脊梁のトレイルヘッドを目指したが、思うように道が繋がらない上に崩落もあって、なかなか辿りつかない。林道から名も無き山に出たり入ったりしながら、急な尾根道を這い上がったりもあった。
その週にちょうど、OMMレースがあったので、メンバーで「俺たちのOMMやな」なんて言いながら盛り上がっていたものの、朝6時のその日の出発前には遅くとも正午くらいには脊梁に入山できるかと思っていたのが、最南部の登山口となる白蔵峠登山口に到着したのは16時をゆうに過ぎていた。
球磨川に出た朝霧
崩落した林道。ここはやむなく引き返した。
キレイに結ばれていた蔓。とボマ氏。
直前に水場があり豊富に水もあったので、どこでビバークすることになっても大丈夫なのでひとまず行こうとしてみたものの、スタートから笹ヤブが続いた。20分程ヤブ漕ぎして進んでみたものの、100m程度しか進まない始末。
白蔵峠登山口に到着し、ホッとしたのもつかの間…
すぐに笹ヤブ帯が始まった。泳ぐように行くが全く進まない(笑)。
もうすぐ日も沈み、暗くなる寸前だったので、引き返して登山口に戻り、並走する林道を歩くことにした。次の登山口となる高塚山登山口に着いた時には、もう真っ暗になっていた。
登山口の駐車スペースでシュラフとマットを引っ張り出して野宿したが、夜は寒く、5℃を優に下まわっていた。
高塚山登山口に向かう林道でみた夕焼けがとても綺麗だった。
【Day 4】
高塚山登山口〜烏帽子岳〜五勇山付近
朝から歩きやすい道が続いた。とはいえ、この山域は道標やテープが少なく、気を抜くと道迷いをしてしまうケースが多いらしいので、気をつけながら歩いた。
台風が多い九州の山深い稜線はさすがに倒木が多いが、威風堂々とした巨木や原生林の風景には特有の美しさがあり、しばらく眺めたり、写真を撮ってはふたりの後を追いかけた。
差し込む朝日の木漏れ日がなんとも美しかった。
ため息が出るような美しい植生のトレイルに自然と足が止まってしまう。
烏帽子岳と五勇山を越え、その日はキャンプ適地を見つけてビバーク。この旅で初めて幕の無いカウボーイ式ではなく、持ってきたタープの下で寝た。
日が落ちると気温は一気に低くなる。 写真提供:豊嶋秀樹
夜露にやられたシュラフを乾かしながら歩くヒデキさん、クライミングルートを練るボマちゃん。
地図上でビバークポイントの候補をあげたり、今後の行程を試算したり。
【Day 5】
五勇山付近〜国見岳〜小川岳付近
朝日を見ながら出発して、程なく脊梁山脈最高峰の国見岳(1739m)に到着した。山頂からは見晴らしもよく、歩いてきた霧島や大分県の九重連山、遠く長崎県の雲仙岳なども確認できた。あまりにも気持ち良かったので、夜露で濡れていたタープを干しながらしばらく休憩をとった。
毎朝、朝日が神々しかった。
国見岳山頂からの眺望。
午後も水を思惑通りに補給できたり、スムーズに行程を進めることができた。日本最南端の五ヶ瀬スキー場を越えて、小川岳を少し過ぎたコルでその日はビバーク。みそ漬けにした鶏肉の食感がぐっと良くなり、美味くなっていた。
タープを干す筆者。 写真提供:小川裕史
トレイルに落ちていたバッジ。この旅で実際に自然の猛威を見て「コレをつけて歩ききるばい!」と、左胸に。
名字が小川のボマちゃん、疲労もそっちのけでテンションアップ。
ビバーク地。この日もボマちゃんと筆者は野宿スタイル
【Day 6】
小川岳付近〜黒峰〜弊立神宮
最終日は、行程自体は短いが終盤に破線箇所があったので、気を引き締めてスタートした。ガレた急勾配のトンギリ山を越え、黒峰のピークに立つと、そこには阿蘇の全貌が広がっていて、雄大な九州の地形のパノラマが広がっていた。旅の終わりが近づいているのを実感した瞬間だった。
最後のピーク、黒峰から阿蘇山を望む。
またルートファインディングを怠らずに進むと、午前中のうちに今回のゴールに設定していた弊立神宮に到着した。無事に踏破できたお礼の参拝を済まして、僕たちの5泊6日、190kmの山旅は終わった。
最後に参拝。
スタートとゴールを自分で決めて山々を繋ぐ旅は、昨今の相次ぐ自然災害の影響もあって、地形図を見ながらネットで調べても定かな行程はなにも決まらない。
長い旅の中ではアスファルトを20km以上も歩くこともあったけど、退屈には思わなかった。それはきっと思惑通りがひとつもなく、常に冒険心がくすぐられてるからなのかな。
こんなコロナ渦の中なのに、街で人と関わりを持てば持つほど、優しさやおもてなしをありがたく頂戴できて、ローカルの空気感をたっぷり感じることができました。
鹿児島で前夜祭を共にしてくれた友達も、霧島まで送ってくれた友達も、えびのの街で優しくしてくれた人も、あさぎり町で関わってくれた人も、山都町でおもてなしてくれた人も、熊本の夜も、帰り際に博多で出迎えてくれた友達も、楽しい旅を与えてくれてありがとうございました。そして、どんな状況も笑い絶えずやり通せる仲間にもありがとう。
旅を終えると、いつも感謝しか出てこない。
旅は準備や予習はたくさんして、そのプロセスごと楽しむ事も大切だと思うけど、自分たちの国だからこそある安心感に委ねて、ローカルに甘えてみたり、行き当たりばったりを楽しんでみるのもいいもんです。そんな風に思わせた1週間の旅でした。
GEAR LIST
Base weight: 3,224g
*ベースウェイトは食事・水・燃料などの消耗品を除く装備の重量です。
装備一式。
NOTICE
- 履き込んだ薄底のシューズ(ゼロシューズのメサトレイル)を長距離ハイクで試験的に使ってみたが、長い林道の下りでふくらはぎに痛みが出た。面白い靴だがロングに選ぶべきではなかった。
- 携帯電話の地形アプリを使う時間が多いなか、モバイルバッテリーの容量が少なすぎた。こういうスタイルの場合は余裕をみてもっていくべきと反省した。
- 山と道オンリーフードが山と街を繋ぐ中で大活躍だった。常に首に置いていたが、山での用途は言うまでもなく、街では口を覆って使った。
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