10月の信越トレイル ドキドキ・ズッコケ・スルーハイク

2020.11.17

社是としてスタッフには「ハイキングに行くこと」が課され、山休暇制度のある山と道。願ったり叶ったり! と、あちらの山こちらの山、足繁く通うスタッフたち。この『山と道トレイルログ』は、そんな山と道スタッフの日々のハイキングの記録です。

今回は、2児のママでありながら山と道屈指のランナーでもあるスタッフ藤田由香里が、信越トレイルを女子2名で2泊3日のスルーハイクをしてきた経験を綴ります。

普段は日帰りのランやレースへの参加が多い藤田にとって、久しぶりの泊りがけハイキングはとても新鮮だったようで、不安のドキドキやズッコケな失敗も、旅のとても重要なスパイスになったようですよ。

藤田のように様々な事情で最近泊まりで山に行けてないという方や、泊りがけのハイキングにはなかなか踏み出せないという女性にも、ぜひ読んでほしいトレイルログになりました!

TRAIL LOG

山と道スタッフの藤田です。普段は鎌倉の山と道研究所ショップで接客をさせていただいたり、電話やメールでお客さまに対応させていただいたり、山と道のメールマガジンを担当したりしています。

2020年の10月16ー18日、2泊3日で信越トレイルをスルーハイクしてきました。

今回は天水山から斑尾山に向かう南下するルートでスルーハイク。1週間前から雨模様の週末の天気予報と睨めっこ。雨は避けられそうもないけれど、そこまで強くもなさそうだ! 久しぶりのハイキングにドキドキと胸を躍らせつつも、慌ただしい毎日に流され、前日深夜にドタバタとパッキングをして、なんとか新幹線に乗り込んだ。

DAY-1(森宮野原駅〜天水山〜野々海高原キャンプ場)

穏やかで気持ちの良い晴天の朝。飯山駅から森宮野原駅へ向かう飯山線の車内からは、のどかで美しい景色を眺めることができ、自然とこれから始まる旅への期待も高まっていく。森宮野原駅もとても趣があり、歩く前からすでに楽しい。

駅の近くにある道の駅できのこ汁と塩むすびをお腹に収めて、いざトレイルへ!

今回の旅のバディはモモコさん。私がトレランを始めたばかりの頃からお世話になっていて、初めて参加するレースやチャレンジングな挑戦をする時はいつも一緒に行動してくれる頼れるお姉ちゃん的存在。今回のスルーハイクも、一緒に山を走っている時に話題に上がり、盛り上がってその勢いのまま決行となった。

穏やかな日差しも相まって、天水山へのトレイルは優しく柔らかい雰囲気。平日のため、すれ違うハイカーもいない。苔やきのこがあちらこちらに生い茂り、「きゃー!たまらん」などと悶絶。落ち葉に覆われたフカフカのトレイルもとにかく気持ちがいい。

入山人数調査のカウンターは「431」。この数字の中にはこの夏に信越トレイルを歩いた山と道スタッフの中村もいるのか〜と想いを馳せながら、歩を進める。

明日からの2日間は1日30km・10時間行動。初日くらいはと、ゆるゆると自然を愛でながらテントサイトへ。

テントサイトは貸切。寒波が近づいているせいか(翌日、関東地方は12月並みの寒さが到来)日が落ちる前から急激に冷え込んできたので、夕食をささっと済ませ、早々に寝袋に潜り込んだ。
久しぶりのひとりの時間。家族の協力があるからこんな時間を過ごせているんだな〜と考えていたら、猛烈に寂しくなってきてしまった。寒波だけでなく、まさかの寂しさも到来! さっきよりも深く寝袋に潜り込むも、寂しさはやり過ごせず……ついに涙が出てきた。日々忙しく過ごしていると、あたりまえの日々のありがたさを忘れてしまいがち。情けないけど、こんなにも家族と過ごす毎日が大好きだったは。

眠れずに、iPhoneでインスタグラムを開くと、山と道JOURNALSで編集長・三田の『ウルトラライト・パッキングのすすめ』が公開されたとのポスト。

「編集長、荷物が重いです!」

バスケがしたかったスラムダンクの三井寿ばりのパンチラインを心の中できめて、スタッフみんなを想ってはまたもや寂しくなり、泣いた。大切な仲間の存在が心の中にこんなにもあることに、改めて気づく。

日々、常に変動する私の感情は忙しい。時々は暗闇に心と身体を預け、大切なものを見失わないようにしなければ。また、忙しい時間や日々はそのくらい眩しい存在だとも気づく。どちらも大切に向き合おう。この感情を忘れないようにギュッと抱きしめ、一緒に眠った。

DAY-2(野々海高原キャンプ場ー伏野峠ー関田峠ー桂池)

雨予報の朝、3時に起床。雨はまだ降っていないが、寒い。お湯を沸かし、コーヒーを飲む。朝ごはんを食べ終わると同時に、ポツポツと大粒の雨。急いで撤収し、2日目の行動スタート。

5時前なのでもちろん視界は真っ暗。野々海高原キャンプ場から舗装路を経て、野々海峠へと向かう。ヘッドライトの灯りを頼りに約3kmほど歩き、標識を発見。野々海峠へ向かっているはずだったのだが…待てど暮らせどトレイルが出てこない…。

ここで今回の私の最大の反省点を述べる。信越トレイルを歩いたことのあるバディに、地図読みを完全に任せていた。いくら信頼のおけるバディとはいえ、自衛を怠っていたことは完全に私の怠慢であった。

話を戻す。歩いても歩いてもトレイルどころか、どんどん山を下っている気がする。景色はすっかり里山。なんだか道が違うような…。とはいえ、バディを信じ進むと、道の途中で足を怪我したカモシカに会った。じっとこちらを見ている。いま思えば「道まちがってますよ」と言っていたのかもしれない…。

兎にも角にも、壮大にロストをしている。道があっているのではと淡い期待も消えるくらい、ロストの文字が濃厚になってきた。バディの背中にも「焦り・苛立ち」が感じられる。「地図見てみましょうか〜」と声をかけるも、先を急ぐバディには届かない…。

ま、まずい…。

電波が入るところで恐る恐る地図アプリを開く。もちろん野々海峠は背後。で、ですよね…。

またバディに恐る恐る声をかける。バディはどんよりと受け入れつつも、すぐに気持ちを切り替え下ってきた道を登り始める。そうだ、間違ったら戻るしかない。でも、1時間半近く下ってきた道のりを戻るには、ゆうに3時間はかかるだろう。テントサイトに着くのは19時を回る。はやる背中に声をかけ、事情を説明しこのまま町まで降りようと提案する。安全にこの旅を終えたかった。

バディは理解してくれ、町へと降りることにした。とにかく、この状況を明るく盛り立てたくて、「ヒッチハイクでもしますか〜。私たち、アメリカのスルーハイカーっぽいですね〜(行ったことないけど)」なんて声をかけて、やり過ごす。失敗は悪いことじゃないし、失敗のない人生なんて。

むしろ、私がきちんと自分でも地図を読んでいればいいだけの話であったに違いない。だからその失敗を取り返すべく、とにかく明るく振る舞った。

すると、人気のない道にまさかの1台のジムニーが。期せぬヒッチハイクチャンス! よく映画で見るような親指を立ててアピールするわけでもなく、かわいく手を振るわけでもなく、身体でクルマを止めに行くような形で「すみません‼︎」と全力でジムニーに助けを求めた。

「これからジムニーでオフロードを攻めに行く」という優しい雰囲気のおじさんに事情を説明。すんなりと受け入れてくれ、こちらが拍子抜けするくらい。本当にありがたい……。お言葉に甘え、トレイルヘッドまで乗せていただくことに。

おじさんは物珍しい状況を楽しむかのように、クルマを思いっきり飛ばしてくれた。さっきまでとぼとぼと下ってきた峠道をぐいんぐいんと攻めていく。揺れる車内。ダッシュボードの上に置いてあったおじさんのサングラスが右へ左へと音を立てて移動する。猫のようにそれを目で追う私。後ろでは完全に車酔いのバディ。なんともカオスな状況に、こんなトレイルログ、Sketch(JOURNALSで連載中の河戸良佑さん)のアメリカでのロングトレイル紀行文で読んだことあるようなと思ったり。

「今の状況はほぼアメリカか。」

そんな妄想をしている間にすっかり雨は止み、窓の外には美しい雲海が広がっていた。素敵なおじさんの協力もあって、あっさり30分程度でトレイルの入り口まで帰艦! 

「本当にありがとうございます‼︎」何度もお礼を伝え、クルマが見えなくなるまで手を振り続けた。

すっかり濃厚な時間を過ごした私たちは、興奮とクルマ酔いでザワザワとした心を整えるようにゆっくりと歩きはじめた。

クルマの力ってすごいよなーと痛感するが、やっぱり足の裏から感じる刺激や感覚は自分らしさを目覚めさせてくれるような気がする。

ぬかるんだパートが多いセクションだったが、トレイル整備の方の気配りで、滑りやすい箇所には細かくステップが作られていたりと、脚にも心にも優しい。

「何から何まで感謝しかない日だ!」

そんな気持ちで一歩一歩ありがたく進んでいると、前方からハイカーが。なんと、山と道研究所にも遊びに来てくださるお客様! とても嬉しくてものすごく元気をもらった。
また、ガイドさんとセクションハイクを楽しまれている方も多く、たくさんのハイカーと話をした。このような状況下でも、皆さん楽しむ気持ちが溢れており、こうやって声をかけあえる喜びを心の底から感じた。

美しい雲海やブナ林に足を止め、思いっきり息を吸い込み、生きていることを実感する。今日はなんて良い日だろうか(朝の失敗をすっかり忘れている)。

桂池のテントサイトではご褒美のような夕焼け。私は本当におっちょこちょいでどうしようもないし、人生はいろいろある。でもどんな時も自分に魔法をかけて行動や考え方を見直せば、見える景色も出会う人すらも変わってくる。今朝の経験を通じて、メソメソしていた昨夜の自分が別人かのように、私の中に溢れんばかりの力が漲っていた。

DAY-3(桂池ー赤池ー袴岳ー斑尾山)

この日も3時に起床。昨日の雨のせいか、濃霧。身支度を済ませ、4時30分に行動開始。

霧のせいでなかなか前方が確認できない。昨日のような失敗をしないために、地図読み・標識を念入りに確認し、進む。比較的なだらかなアップダウンを繰り返し、ペースも良好。すぐに身体が温まってきた。日中が気温が高くなる予報のため、アクティブインサレーションを着用せず、Alpha Haramakiを使用。オーバーヒートしすぎず、身体全体が心地よい暖かさ。脱ぎ着をせずにいられるのも、行動時間短縮にかなり役立った。

木の実の美味しいこの季節は熊がよく出るようで、スルーハイク中、出会う地元の方ほぼ全員に「熊に気をつけて」と言われた。しかもバディではなく、必ず私に言ってくる件。熊に出会いがちな顔なのだろうか…。警戒のため、いつも以上に喋る。さぞかし熊も迷惑であろうなと思いつつも、できればお会いしない方がいいので、賑やかに早朝のトレイルを歩いた。

希望湖周回トレイルを経て、沼ノ原湿原へ。この湿原の雰囲気がとても気持ちよく、これから控えている袴岳・斑尾山への道のりへの息抜きタイムとなった。

沼ノ原湿原を越えると、トレイルランナーにとってはレースで馴染み深い地名が標識に出てくる。紅葉もグッと深まってきた。フカフカのトレイルはさらに柔らかさを増し、より足に優しい。レースでは気持ちよく駆け抜けさせてもらったけれど、ゆっくりと踏みしめるように歩くのも悪くない。

赤池・袴岳を経て、最後の斑尾山を目指す。斑尾山への上りはスキー場を直登するルートのためまあまあキツイのだが、振り返ると美しい景色が広がっている。また、この時期「斑尾イエロー」と称される紅葉も始まっていて、黄色に美しく色づく木々ががんばった私たちを歓迎するかのように出迎えてくれた。

美しい景色を楽しんだり、トレランレースで走った時のことを思い出していたら、あっという間に山頂へ。ご褒美のお風呂とビールを目指し、走るように下山。慌ただしい私の2泊3日のスルーハイクは幕を閉じた。

久しぶりの泊りでのハイクは笑えるくらいのずっこけ旅だったけど、やっぱり山に入ることで私はしっかりと自分と向きあうことができる。おっちょこちょいも情けないところも自分でしかない。ULハイキングで荷物が軽くなり快適になったからこそ、考えすぎたり抱え込みすぎていつも重い頭と心の軽量化について考えられるようになったのかもしれない。

初歩的なミスも多く、お恥ずかしいほどの内容ですが、等身大の楽しみ方やありのままの感情と向き合って乗りこなす楽しさを、どうか感じ取ってもらえたら嬉しいです。

GEAR LIST

Base weight: 3771g

*ベースウェイトは食事・水・燃料などの消耗品を除く装備の重量です。

  • 信越トレイルは水場が少なく、トレイルエンジェルによる補給ポイントもあるが、予めしっかり水を持つか浄水器の携行を推奨。
  • 今回のような2泊3日の行程はなかなか急ぎ足のため、時間がある方はもう1泊追加した方がゆっくりと行動できる。
  • 秋口はハチが多いようなので、ポイズンリムーバーを携行。
  • ダウンパンツまでは必要なかった。タイツに変更すればもう少し軽量化できた。
  • ストーブはソトのウインドマスターをチョイスしたが、シンプルな食事だったため固形燃料にすべきだった。
  • 2泊3日ならモバイルバッテリーはもう少し小型のものにすればよかった。
  • 走らないためメリノ+メリノのレイヤリングにしたが、停滞時も保温力があり、行動時も暑くなりすぎず、ずっと着続けていられた。
  • Merino Hoodyの袖のリブはアームウォーマーになり最高。
  • 藤田由香里
    藤田由香里
    山と道研究所スタッフ。 アパレル業界、一点ものの日傘屋、トレイルランニングショップを経て、2018年より山と道スタッフに。
 キャンプや低山登山が好きだったが、2016年にトレイルランニングに出会い身体と心が自由になる感覚に魅了され、更に山の魅力にどっぷりとはまる。 楽しみながら心も身体も解放したら、仕事も家庭も人生もより豊かで美しいものになる。 笑いながら強くなる。そんな自分だけのスタイルを追い求め、日々爆走中。
    JAPANESE/ENGLISH
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