#6 大好きな友とスパイス香るインディアンピクニッキング
写真:池田ともこ・寒川奏
#6 大好きな友とスパイス香るインディアンピクニッキング
写真:池田ともこ・寒川奏
鎌倉の山と道社員食堂で毎日独創的なお昼ご飯を作るスタッフの寒川奏。イラストレーターとしても活動する彼女がとにかくおいしいものを、気持ちの良い場所で、大好きな人と食べること……つまりピクニックをすることについて綴るこの連載。今回は彼女の「最高に面白くて優しい大事な友人」ともちゃんと日本を飛び出し、茶畑の広がるインドの山でのピクニッキング・ツアーに参加しました。
ガイドのラジャのマシンガン解説に圧倒され、カレーの朝ごはんに舌鼓。ともちゃんとのギャルトークに大笑いと、今回のピクニッキングも大成功。ぜひ、寒川と一緒にインドの片田舎に紛れ込んだ気持ちになってみてください。
ピクニッキングとは?
まずはピクニッキングが何かをご紹介。
ピクニッキングとはピクニックとハイキングを掛け合わせた造語である。なぜ私がいまピクニッキングマスターを目指しているかは第1回を読んでもらいたいが、ピクニッキングとは、以下のようなものだと私は考えている。
- 最低1時間のハイクをする(しかし一緒に行く人の体調や体に合わせて、全員が楽しめるハイクにする)。
- 食べることを主眼においたデイハイク。何人かでそれぞれ食べ物や飲み物を持ち寄り、それをシェアして食べる。
- ハイキングの行程はあくまでどこで食べるかが主眼。
- 参加者それぞれがピクニッキングに向けて食料を準備する(なるべく手作りする)ことも非常に重要。
つまり、誰かの家でやる持ち寄りパーティを屋外で、ハイキングを絡めてやるのがピクニッキング?
これはあくまでも私の定義であって、もっと違ってもいいと思う。読者の皆様にも自分のピクニッキングを見つけて欲しい。
私にも友達いるんです
まずは今回一緒にピクニッキングに行ってくれる最高に面白くて優しい大事な友人、ともちゃんの説明から始めたい。
出会った当初のともちゃん。山と道も好きらしく、山道祭にも参加してくれている。
2022年、まだ私たちが友達ではない頃、ともちゃんからInstagramで私のイラストを投稿しているアカウントにダイレクトメッセージが送られてきた。岡山にあるバックパッカーのオアシス「KAMP」というゲストハウスで働くともちゃん。私のイラストを見みて「この人の展示をKAMPでやりたい」と思ってくれたらしい。メッセージのやりとりをしているうちにどんどん仲良くなっていった。展示開催で実際に会った私たちは前世でも友達だったんだろうなと思うほどに気が合い、近い将来インドに一緒に行こうという話にまでなった。
その将来は意外にも早く、1年後の2023年12月に叶うことになる。忙しい毎日を過ごしていたら出発予定日の1ヶ月前。特になにも計画を立てていなかった私たちはとても焦った。しかし私は思いつく。これはピクニッキングチャンスなのでは? こんな素敵な人と素敵かもしれないインドでのピクニッキングは絶対最高に素敵だ!
寒川「ともちゃん、私とインドでピクニッキングしない?」
ともちゃん「いいね〜! やるやる〜!」
こうして熱い思いと軽いノリで決まったインドのピクニッキング。果たして可能なのか⁉︎
インド到着
ベトナム経由でまずはニューデリーに降り立った私たち。手荷物検査の回数の多さに疲れつつ、すぐに乗り継ぎ便に乗り、南インド、ケーララにあるコチ空港に着いた。ここからタクシーで約3時間かけてアーユルヴェーダ施術院にいくのだ。施術院では、飲食物はそこのものだけで制限され、基本的に院内のみで過ごす。体と心を健康にするために籠るのだ。そこで3日過ごし、ムンナールへ移動する予定にしていた。
ニューデリーからコチへの飛行機。日本人は私たちだけだった。
施術院でのデトックス中の私たち。私はあまりの日焼けで現地人の雰囲気さえ出てしまっている。
院長とナースたちの目を盗んで飲みに行った施術院近くのチャイ。
なぜムンナールなのかというと山登りもしたかった私たちにとってグルヴァユールからさほど遠くない山登りができる自然豊かな場所として完璧だったのだ。しかも象もいるらしい!
行き当たりばったりな私たちはグルヴァユールからムンナールへの行き方もろくに調べずやって来てしまっていた。
ともちゃん「裏番長に聞こう。」
裏番長とはこの施術院の院長の姉で、「経験だから」と好意で施術中の私たちが本当は食べてはいけないけれどおいしいものを食べさせてくれたり、夜遅くに遊びに連れ出してくれる面白い人なのだ。必ず「弟に言わないでね。」と言う。なんて面白い人なんだろう、大好きだ。
裏番長「深夜バスにしなさい、安いから。私が斡旋したって弟に言わないでね。」
こうして私たはムンナールに向けて夜逃げのように施術院を後にする羽目になった。
裏番長が夜に連れ出してくれた寺院ツアーで出会った象の像。神様のお気に入りだったという2頭のうち1頭と写真を撮らされている我々。もう1頭のことはいくら聞いてもはぐらかされたので気になるまま現在に至っている。
寺院にはお坊さんたちによる終わりのない列。寺院の本堂内に入るために1日中並んでいるそう。上裸率はとても高く、宗派によって着ている服が違う。
夜逃げ前にバスステーションの売店で水を買うともちゃん。
本当にこのバスで合っているのか不安な気持ちのまま乗り込む。
インドで何ができる?
まだ施術院にいた時にムンナールのトレイルマップなどを見て、ピクニッキングの内容を練っていた。
ムンナールは茶畑に囲まれた、スパイスやカカオの産地として有名な場所である。絶対面白いトレイルがあるはず。そんな時に面白いトレッキングツアーを見つけた。
早朝に集合して、7つの山々、茶畑を眺めながら約2時間のハイク。そしてみんなで朝ごはんを食べる。引き続き2〜3時間ほど歩いて終了という内容。
なんと、これは正にピクニッキングツアーではないか!
インドという未知な状況で自分でご飯を作るのは難しいと感じていたので、誰かのピクニッキングに乗っかれるなんて最高だ。
ともちゃん「奏ちゃん(寒川)のピクニッキングの記事読んでたから一緒に行けるの楽しみ〜!」
この世に私とピクニッキングしたい人がいたのかと思うととても嬉しい。今回はこれで決まりだ!
インディアンピクニッキングツアー
今回の地図。山の名前が調べても出てこないのでかなりアバウトであまり参考にはならないが、ムンナールという街の南側の茶畑の間を約2時間半歩いて山頂に出る。そこから尾根上を1時間半ほど歩き、さらに1時間半ほどトラバースしつつ街に降りてスタート地点に戻るというコース。
集合は朝7時。今日のメンバーはおしゃべりなイギリス人のおじさん、お金持ちっぽいインド人カップル2組、ガイド、その友達ふたり。そしてヒッピーチックな東洋人私たちの計10人。ガイドであるインド人青年ラジャがそれぞれに水を配ってくれて早速出発。
水を持っているのはイギリス人のおじさん(写真には映っていない)の付き人。なぜか全員に水を配ってくれていた。この付き人に旅程の手配と移動など、基本的に全てを任せているらしい。「僕も君たちくらいの時は行き当たりばったりの冒険をしたもんさ。もう若くないから僕はお金を払って楽をするんだよ」とイギリス人のおじさんは言っていた。
最初は道路沿いを歩き、脇道からトレイルに入る。だが、最初の道路歩きから、このピクニッキングツアーはスタートしていた。ガイドのラジャが道路脇、住宅地、とにかく生えている植物たちの説明をどんどんしてくれるのだ。
道路脇の実をとって説明を始めるラジャ。
急にワイルドトマトを渡され「食べれるよ、食べなよ」と言われる。ありがたいけれど空気汚染がやばい国なので絶対に嫌だ。
ぶちぶちと躊躇なく摘み取っていく。いいのかい。
エルダーフラワーも摘み取る。エルダーフラワーはお腹や肌にいいし、お酒やお水に漬け込んで飲んだりもするらしい。すごいなラジャ、なんでも知ってるんだな。
竹でさえ説明してくれる。竹はお金を招く効果があるから、家の中に1本置いておくといいらしい。
バックパックがボロボロなのが気になる。
インド英語は聞き取りづらく、途中から理解が追いつかなくなる。説明を聞くのは程々に、とにかくインドの大自然を楽しむことにした。
出発したての私たち。
よくわからない植物を渡されてとりあえず口に入れてみた。少しヤケクソになってきている。
風船のように中が空洞で膨らんでいる花。割って遊ぶらしい。
ニームの木。茶畑との相性は悪いが抗菌や防虫作用があるので重宝しているそう。
カルダモンの木。根っこのあたりにたくさんのカルダモンの実ができる。
ぶちぶちと採った植物がどんどん渡されてどうしたらいいのかわからないのでとりあえず髪につけてみたら周りが喜んでいた。
茶畑のトンネル。
気温は基本20℃以上、日差しも強いが空気は乾燥しているので思ったより汗はかかない。空気はニューデリーの数億倍澄んでいる。
先述した通り、このムンナールという場所は広大な茶畑で有名。その歴史は古く、1800年代からスタートしている。私は今大先輩に囲まれているのだ。
なんて綺麗なんだ!
岩場もある。
ともちゃん「横縞柄の茶畑と縦縞柄の茶畑があるね。」
写真中央あたりに縦縞の畑がある。
寒川「ほんとだ! 何か違いがあるのかしら。ラジャ、この差は何?」
ラジャ「縦縞柄は古い畑で、横島柄は新しい畑だよ。昔は縦向きに動いて収穫してたんだ。」
ともちゃん「横移動の方が高さ変わんなくて絶対楽だもんね。」
寒川「縦縞の畑まだ結構あるから、気づくの結構遅かったんだね…。」
歩みを進めていると、収穫して重さを計測した茶葉をトラックに積み込む現場に出会った。たくさんの女性があれやこれやとトラックの男性に叫んでいて、それをうるさそうに聞く犬が茶畑に隠れていたりと、なかなか観察しがいのある現場だった。
茶葉の計測をする人たち。
茶畑の日陰に隠れる野犬。
茶摘みは女の仕事で、男の仕事は工場での加工らしい。ひとりにつき、朝の7時から夕方17時の間で27kgもの茶葉を摘み取るらしい。それで給料は1日450ルピー(約800円)だけど、少なくともムンナールでは暮らしていける、悪くない仕事なのだそう。
すれ違う女性たちは皆楽しそうで、愛を持ってこちらに接してくれる。茶葉を刈り取るバリカンを見せてくれて、大きさと馬力に驚く私たちをケタケタと笑う彼女たちはとても楽しそう。昔のバイト先にいたパートのおばちゃんたちを思い出した。茶畑が存在する限り、仕事があるという安心感が彼女たちに余裕と笑顔を与えているんだと思った。
この茶畑で栽培されているのは主にカメリアシネンシスという中国由来のお茶。昔からコーヒーよりも力が出るという理由からよく飲まれていたそう。
茶葉は葉によって使い道が違う。いちばん若い上の葉は白茶、その下は緑茶、その下は紅茶になるそう。
歩いていたら、なんだか足が痒い。掻こうとしたら指先にぬめりを感じた。小さく悲鳴をあげたらガイドのラジャがすぐに飛んできて、そのぬめりの正体を取って崖から投げ捨ててくれた。ヤマビルだった。これからムンナールにいく人は必ず靴と靴下を履いて行くことをおすすめする(私はサンダルでした)。
絆創膏から溢れ出てくる血。止まるのに3時間ほどかかるらしい。
血が止まらないなと思いつつ、朝ご飯の場所に到着。眺めがすごい!
ほぼペアルックの私たち。
少しにこりとするラジャ。
早速ラジャが朝ご飯を広げてくれる。メニューは甘い紅茶とチャパティ(全粒粉でできた薄いパン)とワダ(甘くない、豆から作られたドーナッツ)、じゃがいものカレー。全てラジャの奥様のお手製だそう。
配給スタイル
このカレーがめちゃくちゃおいしかった。インドのお店で食べるものはしょっぱくて油っぽくて、食べていると疲れ、食後はとてつもなくむくんでしまうけど、このカレーはなんて優しいんだろう!
食べながらラジャに聞いてみる。
隣はよく喋るイギリス人
寒川「ラジャは何歳?」
ラジャ「25歳だよ。」
寒川「(まさかの年下!)何歳からこの仕事をしてるの?」
ラジャ「15歳からずっとこのガイドの仕事ををやってるよ。」
びっくりのガイド歴と年齢。だからこんなに貫禄があるのか。
寒川「この仕事は好き?」
ラジャ「いろんな国の人と出会えて交流ができるから気に入ってるよ。」
10年同じ仕事でも、毎日いろんな人と出会っていると飽きないのかもしれない。
寒川「お客さんはたくさん来る?」
ラジャ「コロナ禍前はたくさん来てたよ。今は少しずつ人々が戻りだしてて嬉しい。」
ラジャはこのリモートワークでは成り立たなそうな仕事でコロナ禍を乗り切ったのだ。なんてかっこいいんだラジャ!
100km先まで茶畑だというラジャ。さすがに100kmは適当じゃない? 半径? 直径? 平方メートル?
時刻は10時、あと3時間で帰れる?
このツアーは朝7時から始まり13時で終わる予定だ。このゆっくりペースであと3時間でスタート地点に戻れるのか?
寒川「ラジャ、来た道をこのまま戻るの?」
ラジャ「いや、2つ向こうの山も越えてぐるっとして帰るよ。」
寒川・ともちゃん「えっ間に合う⁉︎」
ラジャ「余裕だよ。」
10年分の自信を感じる、君を信じてついて行くよ。
普段ハイキングなどしなそうな富裕層のインド人カップル2組はかなりしんどそうだった。
心なしか、ラジャが紹介する植物の数が減ってきたのでともちゃんと話す。
太陽を浴びるともちゃん。
寒川「ともちゃんはピクニックとかする? するよね。」
ともちゃん「数回しかピクニックの経験はないんだあ。いちばん記憶に残ってるのはベランダで焚き火したピクニックかな。」
寒川「意外! ていうかベランダ広くない? 私が思ってるベランダは団地くらいのやつなんだけど、それとは違いそうだね…。」
ともちゃん「うちのベランダ広いの! ゴザ敷いて、シュウマイを人生で初めて自分で包んでメスティン使ってその焚き火の火で蒸したんだ。楽しかったなあ。」
寒川「とてもいい日じゃん! とりあえずともちゃん家のベランダが見たいよ。そういえばともちゃんは初登山がエベレストの猛者だったね。」
ともちゃん「そう、エベレストのベースキャンプまでが私の初登山。そのために毎日近所の名も無い低山に毎日登って鍛えてたよ。」
寒川「すごすぎる。さすがにひとりで行ってないでしょ?」
ともちゃん「友達のネパール人とふたりで14日間歩き通したよ。」
寒川「ともちゃんに求婚したあいつか!」
ともちゃん「そうそう、結果ナシだった人。ガイド的な役割もあったはずなのに怠惰で全然案内してくれなかった。」
寒川「そういうとこだよね。」
ともちゃん「そうなんだよね。」
ああ楽しい、話してて幸せだと思って大笑いをしていたら周りの人々がとても静かで驚いた。
ともちゃん「こいつら、こんなに何が面白いんだろうとか思われてるんだろうね。」
そしてまたふたりで大笑いしてしまった。
別日の大笑いする私たち。
間に合わない! どうするんだラジャ!
そろそろ13時が近い。公道には出たがスタート地点からはまだ遠い。どうするのかと見ていたら2台のリキシャ(タイのトゥクトゥクのようなオートバイを2〜3人乗れるように改造してあるタクシー)が来た。
ラジャ「全員これに乗って戻ろう。」
ほぼ座れていないラジャ。
そうか、こんなチートがありなのか。2〜3人しか乗れないリキシャに5人ぎゅうぎゅうに詰め込まれ、約10分間のライド。無事スタート地点に戻れた。
寒川「ラジャ、いい経験をさせてくれてありがとう。楽しかったよ!」
ラジャ「(メモを渡され)ここにメールアドレス書いて。写真送るよ。予約サイトにいいレビュー書いてね。生活がかかってるからさ。」
そう言われて熱量高めのレビューを書いたが、ラジャから写真が送られてくることはなかった。
いいピクニッキングをありがとうラジャ。あなたに習って、私ももっとエキサイティングなピクニッキングができるように精進するよ。
おまけレシピ
今回は自分でピクニッキングご飯を手作りしなかったので、ラジャの奥さんが作ったワダ(甘くない、豆から作られたドーナッツでインドの軽食として有名)をご家庭でも作りやすいレシピで再現してみた。
あの日のVada(ワダ)
材料(約16個分)
・全粒粉 150g(*)
・ベーキングパウダー 小さじ1(*)
・クミンパウダー 小さじ1(*)
・ホールクミン 小さじ1(*)
・卵 1個
・砂糖 40g
・塩 3g
・油 小さじ1
・揚げ油 適量
(*)の材料は合わせて振るっておく。ホールクミンは振るった後に合わせる。
実物はとても大きかった。作るのが大変だし、こんなに大きいともはや軽食ではないので、改良レシピをご紹介しました。
次回のピクニッキングも乞うご期待!