#5 雪山でギャルピクニッキング
写真:上杉あゆみ・寒川奏
#5 雪山でギャルピクニッキング
写真:上杉あゆみ・寒川奏
鎌倉の山と道社員食堂で毎日独創的なお昼ご飯を作るスタッフの寒川奏。イラストレーターとしても活動する彼女がとにかくおいしいものを、気持ちの良い場所で、大好きな人と食べること……つまりピクニックをすることについて綴るこの連載。今回は雪山好きの山と道材木座スタッフ、上杉あゆみを誘い出し、八ヶ岳へ雪山ギャルピクニッキングへと向かいました。
ともあれ、雪山経験ほぼ皆無の寒川。極寒の雪山に対向すべく、熱々のボルシチとショコラテを準備してありったけの防寒着を着込み、八ヶ岳は黒百合ヒュッテへ。ふたりは無事雪山ピクニッキングを完遂できるのか⁉︎ 今回もはじまりはじまり〜。
ピクニッキングとは?
まずはピクニッキングが何かをご紹介。
ピクニッキングとはピクニックとハイキングを掛け合わせた造語である。なぜ私がいまピクニッキングマスターを目指しているかは第1回を読んでもらいたいが、ピクニッキングとは、以下のようなものだと私は考えている。
- 最低1時間のハイクをする(しかし一緒に行く人の体調や体に合わせて、全員が楽しめるハイクにする)。
- 食べることを主眼においたデイハイク。何人かでそれぞれ食べ物や飲み物を持ち寄り、それをシェアして食べる。
- ハイキングの行程はあくまでどこで食べるかが主眼。
- 参加者それぞれがピクニッキングに向けて食料を準備する(なるべく手作りする)ことも非常に重要。
つまり、誰かの家でやる持ち寄りパーティを屋外で、ハイキングを絡めてやるのがピクニッキング?
これはあくまでも私の定義であって、もっと違ってもいいと思う。読者の皆様にも自分のピクニッキングを見つけて欲しい。
冬のピクニッキング
季節は冬。いくら寒くても私のピクニッキング熱は冷めない。私の情熱でポカポカピクニッキングをやってやろうじゃないか! ということで今回は山でピクニッキングをしたい。
今回はずっと気になってたあの方を誘うことにした。山と道材木座のコミュニケーションスタッフである上杉さん。
山と道材木座スタッフの上杉さん。フライパンと寝袋を持っているのはこの記事の流用写真だからです。
上杉さんはあまり自分からは話さないタイプの方だけれど、たくさんの面白爆弾を隠し持っている人だ。さすが山と道ショップスタッフなだけあり、アウトドアの知識量もすごい。これは一緒にピクニッキングに行ってもっと仲を深めたい。
寒川「上杉さん、もし良ければなんですけど、私とピクニッキングに行きませんか? 上杉さんと行きたいんです。」
上杉「もちろんいいっすよ! どこがいいですかね。」
寒川「里山とか、近場の低山ばかり行っているのでもう少しザ・山って感じのところに行きたいですね。」
上杉「うーん、なるほど。じゃあ八ヶ岳の方とかどうですか? 季節的に雪が少しついてるかもしれないけど(取材は11月だった)、天狗岳の黒百合ヒュッテなんかもすごく素敵な山小屋ですよ。」
さすが上杉さん。私の曖昧な要望にハマる答えを出してくれた。
寒川「そうしましょう。そこしかないです。」
こうして行き先は八ヶ岳の天狗岳に決定。雪山のいい感じのところでギャルピクニッキングをするんだ!
何を食べる?
現地はとても寒いので体が温まるものを作りたい。寒いといえばロシア、ロシアといえばボルシチ。ボルシチ、いいじゃん! 色も赤いし、気分も上がって寒さも吹っ飛ぶだろう。
ただ雪山でいちから作るのはなかなか大変そうなので、あとは水を加えて温めればいいボルシチの元のような状態で持っていくことにした。
ボルシチの作り方
このレシピで使ったのはクノールカップスープシリーズのトマトのポタージュ。
体の芯から温まるものを考えた時にひとつ思いついた飲み物がある。昔、私がメキシコのオアハカという街に行った際に飲んだ「ショコラテ」という温かいチョコレートドリンク。おやつのような、飲み物のような、少し重めのテクスチャーのその飲み物は、飲み終えた後には体をポカポカに、力をみなぎらせてくれた。きっと寒さで固まった体をほぐしてくれる、極寒ピクニッキングにぴったりの飲み物ではないか。
私なりにアレンジしたショコラテのレシピは、山と道のインスタグラムで月1連載中のコックさんがわのトレイルフードレシピの12月分として投稿しているのでぜひチェックしてみて欲しい。
寒いって、どのくらい寒いのさ⁉︎
計画時、私から見たら山のプロの上杉さんに事前に準備した方がいいものをしつこく、しつこく聞いた。いつググってくださいと言われるかビクビクするほどにたくさん聞いたのに、嫌な顔ひとつせず答えてくれる上杉さん、流石ショップスタッフである。
おそらく雪があり、日中でも0℃近くになりそうという状況で、準備してみた装備がこれだ!
今年の暖冬でボケてしまっている私は耐えられるのか⁉︎
無風で天気は晴れ、ピクニッキング日和だ!
鎌倉から約3時間ほどクルマを走らせ天狗岳の登山口の唐沢鉱泉に到着。駐車場には少し雪がついていた。
クルマを降りると、それほど寒くないなという印象。気温は3度。
道すがら天狗岳の雪の積り具合を黒百合ヒュッテに確認したところ、山頂まで行きたいのであればしっかりとアイゼンが必要とのこと。今回は軽アイゼンしか持ってきていないので、本日は黒百合ヒュッテまででピクニックスポットを探すことにする。靴など履き替えて、さあ出発!
雪に臆さずどんどん歩き出す上杉さん。かっこいい。
あたりは真っ白で、くるぶし丈くらいまでは積もっている。これだけでもう楽しい。東京で生まれ、香川と神奈川で育った私にとって雪は常に非日常で興奮させてくれる。
ギャル達にとって自撮りは欠かせない。
人はほぼおらず、私たちだけ。音を雪が吸収しているのでとても静か。私たちの声だけが存在している。
寒川 「めちゃくちゃ雪ありますね! 楽しいです。上杉さんは雪山経験豊富ですよね。」
上杉「豊富ってほどでもないですけど、前職の先輩たちに雪山でたくさん遊んでもらって覚えましたね。」
寒川「どんな遊びですか?」
上杉「雪が奇跡的に少し積もった年に高尾山でバックカントリーとか。」
寒川「危な!」
さすが上杉さん。やってきたことが想像以上だ。
上杉「死にそうになったりもしたけれど、本当にたくさん遊んでもらいました。雪遊びは楽しいですよ。」
寒川「ぜひその遊び、私にも教えてください。」
上杉「もちろん、たくさんいきましょう。おっ、寒川さん上を見てください。これが八ヶ岳ブルーです。」
そう言われて空を見たら、白い木々の間から青空が見えていた。これが冬しか見れないという噂の八ヶ岳ブルーか!
快晴!
話しながら2時間ほど登ってきて、開けた場所に出た。
上杉「寒川さん、着いちゃいました! 黒百合ヒュッテです。」
左手の建物が黒百合ヒュッテ。
着いてしまった。ピクニックスポットを探さなければ。お腹もぐーぐー鳴っている。
寒川「3分ほど手前に少し開けた場所があったのでそこに戻りましょう!」
雪上ピクニックは一筋縄ではいかないぞ!
まずは場所づくり。雪が積もっているのでトレッキングポールを刺して下の地面の状態を確認する。安定して座れそうな場所にエマージェンシーブランケット、ミニマリストパッド、ピクニックシートの順で重ねて座れる場所を作った。
座ったら雪が崩れるなんてことがないように、雪を固めてからピクニックシートを敷いた。
さて、ご飯を広げてピクニックしようじゃありませんか!
今回は私がボルシチとパンとショコラテ、上杉さんには食後のデザートにレモンケーキを持ってきてもらうことにしていた。
まずはシードルで乾杯。ピクニッキングでずっとやってみたかったことだ。夢が叶って嬉しい。ただ、本当に寒い。味がわからないほどに寒い。
カンパーイ!
ガチガチに震えながらボルシチを温める作業をスタート。どんどん手が冷えて言うことを聞かなくなってくるのでマグマのカイロ無しでは本当に何もできなかったと思う。
バーナーと鍋の安定の地を探す。鍋に2人分のボルシチの素と水を約400ml入れ、バーナーに火を点ける。
よく混ぜながら温める。雪上ピクニックではガス缶が冷えて火力が弱くなることがあるのでカバーをつけるのがおすすめ。今回は自分でカバーを編んでみた。
一度全てこぼします。
こぼしても雪の上なので雪ごと再度鍋に戻し入れる(※冗談です。この工程はお勧めしません。本当にわざとやりたい方が居るならば、最初の400mlの水を若干少なめでスタートするといいでしょう。本当にお勧めしない、単に私がやらかした工程です)。
楽しくなさそうに見えるけれど、こぼした直後で焦っているだけ。
温めていると湯気が出てくるが、本体はまだそれほど温まっていない場合が多いので味見して確かめよう。
温まったらパンを添えて、でき上がり。
上杉「ボルシチめちゃくちゃおいしいです!」
寒川「良かった〜。うわっ、もう冷たい。早く食べましょう!」
雪山では驚くほどすぐに冷めていくのでおしゃべりする暇はないのだ。
食後にショコラテを作る用にお湯を沸かす。
鍋にショコラテの素ふたり分を入れて約400ml水を入れる。火にかけて時々混ぜる。
温まってきたら、スキムミルク大さじ4を入れてよく溶き混ぜる。ダマになりやすいので注意。
全体がよく混ざったら、完成!
上杉さんが作ってきてくれたお手製レモンケーキと並べて、パーフェクトなデザートタイム!
上杉「ショコラテ、甘いだけと思いきや結構辛いですね。めちゃくちゃあったまります。」
寒川「スパイス色々入れてみたんです。でもチリパウダーは入れ過ぎたみたいですね。辛いけど、上杉さんのレモンケーキと合う! これきめ細やかですごいおいしいです。」
上杉「本当ですか、良かった~。まあ、私これしか作れないんですけどね。」
相変わらず楽しくなさそうな寒川ですが本当はとても楽しんでいます。とにかく寒いのです。
体が冷え切らないうちに、撤収!
気がつけば15時。寒すぎるし、日が暮れる前に撤収することにした。片付けながら上杉さんに聞いてみる。
寒川「上杉さんはピクニッキングしたことありますか?」
上杉「うーん。雪洞で持ち寄って鍋とかですかね。」
寒川「雪洞⁉︎ カマクラみたいなやつですか? イグルーみたいな?」
上杉「それとはまた違いますけど、それら全て作って中でピクニックはしましたね。」
負けた。この人はもうハイレベルなピクニッキングを既に終えている。敗北感と初の雪上ピクニッキングの達成感を同時に味わう。嬉しいけど悔しい。
次はどんなピクニッキングにしよう。この悔しさをバネにもっと面白いことをしたい。もっと遊ばなくてはと反省させてもらえたいいピクニッキングだった。ありがとう上杉さん、いや、先輩。
次回のピクニッキング、もっとパワーアップさせるぞ〜!