雪山へようこそ

#1 夏目彰(山と道)

雪山初心者のために山と道代表・夏目のULな雪山道具を紹介
取材/文:岡田カーヤ
写真/大竹ヒカル
2023.11.03
雪山へようこそ

#1 夏目彰(山と道)

雪山初心者のために山と道代表・夏目のULな雪山道具を紹介
取材/文:岡田カーヤ
写真/大竹ヒカル
2023.11.03

雪の山は特別です。そこは日常とはまったくかけ離れた別世界。山はぐっと深く、美しくなり、神々しさを増します。ともあれ、厳しさや危険も増すのも事実なので、憧れや行きたい気持ちはあっても、二の足を踏んでいる人も多いのではないでしょうか。

そこで今回から3回にわけ、それぞれに雪山を楽しむ山と道のスタッフや関係者の方に雪山の魅力と楽しみ方を語ってもらうと共に、彼ら彼女らの雪山装備を紹介してもらう記事を作ることで、雪山へのハードルを少しでも下げられないかと考えました。

それぞれに個性的な三者三様の雪山装備。ひとり目は、雪山をこよなく愛する山と道代表の夏目彰のウルトラライトな雪山装備です。

「雪山って自由」

僕のはじめての雪山での感動体験は、今から15年くらい前の3月。まだ雪山を始めて間もないころ、父親と一緒に北八ヶ岳に行ったんです。父親について森を抜けていくと、北横岳と大岳の間が雪で完全に埋まっていました。

そこに現れたのが大雪原で、木々が完全に埋まっているからどこを歩いてもいい。夏山のように決められた登山道を歩くのとは違っていて、雪山こその自由さがあるし、すべてが雪で覆われていて圧倒的に美しい場所を父親とふたりで歩いていることにすごく感動しました。

そんなふうに、冬はどこを歩くのも自由。夏だったら決められた道しか歩けないけど、雪があればどこへでも歩いて行ける。崖の斜面を登ることもできるし、誰もいないところへも歩いていける。考え方によっては夏のバリエーションルートよりももっと手軽で自由なんです。そこがやっぱり僕にとっていちばんの魅力かもしれない。

八ヶ岳の凍りついた白駒池にて(写真:三田正明)

「音」に感動した山行きもありました。雪山の稜線では暴風が多いんですけど、その日はまったくの無風だったんです。南八ヶ岳の稜線を歩いていたのですが、まわりを見渡しても誰もいなくて、雪が吸収してくれるから音がしない。僕はダイビングもやっていたんですが、音のない感じが海の底にいるかのようでした。そのときちょうど阿弥陀岳のてっぺんにカモシカがいて、世界にはカモシカと僕だけしかいない。真っ青な空と白い雪のコントラストも印象的でした。

雪山って自分の感覚がそれまでと明らかに違うので、いろいろなものが明確になる。単純に美しいだけではない世界を雪山が教えてくれるんですよね。そういうおもしろさを知って、どんどん雪山にはまっていきました。

もちろん怖さもありました。雪が積もると登山道がわからなくなるし、天候や雪質によって山は変わるから、積もり方によってはすごく危険な場所になる。それでも滑落停止のムーブを練習したら怖さはある程度薄れていって、他のシーズンよりも自由に山を動けるようになりました。

冬のニュージーランド、ロバートリッジでのウインターハイク(写真:三田正明)

日帰りもしますが、やはりテント泊が好きです。過ごし方と設備があれば寒さにも慣れてくるし、圧倒的に美しい世界の中で眠るというかけがえのない体験ができます。友達と一緒にテントで過ごすのも、夏より冬のほうが盛り上がる気がします。スコップを持っていくと、椅子とかテーブル、掘りごたつをテントの中に作れるんです。そしてみんなで持ち寄った材料で鍋をする。冬だったら肉もネギも、そのまま担いでいけるし、お水だって雪を溶かせばそこら中にありますから。

雪山って、いろいろな意味でピリピリしているんです。緊張しているし、やっぱり寒い。でも、だからこそ暖かさで感動をする。体験も景色を見たときの美しさもすべてが濃密。夏に行ったことのある山に行っても、冬は濃密さが全然違うと感じています。

夏目彰の雪山装備

この装備で行く雪山:八ヶ岳
ベースウェイト*: 6.63kg

*食料・水・燃料など消耗品を除いた装備の重量

厳冬期、3月ごろの八ヶ岳、テント泊での1泊2日を想定して考えました。装備は「できるだけ軽いもの」という基準は冬山も変わりませんが、軽いだけでなく機能性、耐久性も重視しています。

雪山は行く場所、季節、雪の状態によっているもの、いらないものが変わってきます。新雪のまだ誰も行かない場所に訪れるのであればスコップやスノーシューが必要ですが、八ヶ岳のメジャールートであればだいたいトレースが着いているのでほとんどの場合必要なし。

ある程度の標高まで行けばクランポンがベースなんですが、下のほうは雪が凍っていて爪が刺さらないことも多いし、林道が土と雪のミックスだったりするので、チェーンスパイクも持っていきます。

①シェル:山と道/All-weather Alpha Jacket
「今冬発売予定の新製品です。行動着であって、保温着にもなるAll-weather Alpha Jacketを着用しているので、本来なら保温着として持っていくダウンはなし。寒かったらAlpha Vestを着て保温をしています。All-weather Alpha Jacketを着ることでダウンを省けるので、相当軽くなります」
②パンツ:山と道/Winter Hike Pants
「柔らかな履き心地と大袈裟でない見た目で家から雪山までそのまま履いて行けるパンツです。下には山と道のLight Alpha Tightsを履いています」

①バッグパック:山と道/THREE
「僕はいろいろなところに行くので、冬山のバックパックも動きやすいこちら。山と道Stuff Pack XLを使って拡張します」
②トレッキングポール:ゴッサマーギア/スリーピースカーボントレッキングポール
「カーボン製で軽い。テントのポールとしても活躍します」
③アイスアックス:カンプ/コルサナノテク
「アックス選びの基準は軽さに加え、雪の斜面に刺ささること。軽量だけど刺さりにくいものもあるなか、カンプのコルサナノテクは軽量なのに、しっかり刺さります。ややカーブした持ち手もしっくりきて、振り回しやすさもいい。もっと軽量なものもあるけれど、僕はこれがいちばん好きです」
④クランポン:ペツル/イルビスハイブリッド
「軽いクランポンは軽量化のためアルミ製が多くすぐに爪がボロボロになるんですが、これは前爪がスチール製、ヒールはアルミ製で軽さと耐久性を備えています」
⑤チェーンスパイク:ノルテック/トレイル2.1
「八ヶ岳の林道は土と雪のミックス帯があるのでチェーンスパイクも持参します。クランポンをつけるか迷っているとき、チェーンスパイクならさっと付けられるので」
⑥スタッフサック:山と道/Stuff Pack S
「クランポンやチェーンスパイクを入れる用のスタッフサックです。コンパクトなものならふたつとも入れられます」
⑦ゴーグル:オークリー/フライトパスLスノーグラス
「雪山ではだいたいサングラスですが、吹雪いたときのためにゴーグルも持参します」
⑧ブーツ:ザンバランエキスパートプロGTX
「残雪期はローカットの軽いシューズを履きますが、八ヶ岳の1〜2月はやっぱりブーツ。寒さにも強く、10年以上履いています」

①スリーピングバッグ:ハイランドデザインズ/ウインターダウンバッグ
「フードを廃してジッパーを最小限に留めることで軽量だけど暖かい厳冬期用、撥水ダウンのスリーピングバッグです」
②パックライナー:山と道/Pack Liner
「寝袋はスタッフサックを持たずパックライナーに直接入れてバックパックの底に押し込んでます」
③スリーピングパッド:山と道/UL Pad 15+ (175cm)
「雪山でも僕はこれでいけます」
④携帯枕:クライミット/ピローX
「雪山では持っている服を全部着て寝ることが多い=枕代わりにできるものが無いことが多いので枕を持っていきます」
⑤ビビィ:SOL/エスケープライトビビィ
「テント自体は結露しにくいものを使っているけど、たまに湿気が凍ってがテントの中で雪のシャワーのように降ってくるので、寝袋が濡れないようビビィを使用」
⑥テント:ローカス・ギア/クフeVent
「フロアレスのテントじゃないと雪山は楽しくない! 床が無いのでテントの中で雪を掘って掘りごたつにして鍋をしたり、ブーツを履いたまま中にも入れます。eVentのクフは廃番だけど、結露が少ないので気に入ってます」
⑦ペグ:イーストン/イーストン・ゴールド24″ペグ
「新雪では普通のペグでは抜けてしまうので、雪の状況がわかりにくい時には長いペグも、短いペグと共に持っていきます。アックスをペグ代わりにすることも」
⑧ペグ:MSR/ブリザードステイク
「夏よりもゴツいものだけれども軽量。雪でもしっかり刺さります」
⑨スタッフサック:山と道/Stuff Pack XL
「テントやグラウンドシートなどを入れてザックに外付けします」
⑩グランドシート:SOL/エマージェンシーブランケット
「軽量なのでサバイバルシートをグランドシート代わりに使っています」

①ストーブ:プリムス/ウルトラスパイダーIII
冬のストーブは分離式が便利。雪の上に置いても滑りにくく、大きい鍋も乗せられる安定感があるので安心です。
②クッカー:アルミ鍋(出所不明)
「友達と一緒に鍋を囲むのがなによりのごちそうなので、大きなアルミ鍋を持参します。ずっと前から持っているのでどこの何かは忘れてしまいました(笑)」
③クッカーのフタ:アルミホイル
「アルミ鍋のフタが見つからなかったけど、アルミホイルで十分(笑)。」
④カップ:スノーピーク/チタンシングルマグ300
「これでお茶やお酒を飲みます」
⑤カップ:ウィルドゥ/フォールダーカップビッグ
「定番のコンパクトに畳める軽量カップ」
⑥カトラリー:先割れスプーン
「これもどこの何かは忘れてしまったけど気に入ってずっと使っているスプーン」
⑦保温ボトル:サーモス/ステンレスボトルFFX-901
「普通のボトルでは水も凍ってしまうので、保温ボトルは必需品。暖かいものが飲めるのもありがたいです」
⑧スタッフサック:オガワンド/ラウンドスタッフ(Sサイズ)
「これらの火器や鍋を入れています。そこが広くて使いやすい」
⑨マルチツール:ビクトリノックス/クラシックSD
「大定番のマルチツール」
⑩ヘッドライト:ペツル/ビンディ
「超軽量なヘッドライト。自分は雪山では夜間行動はあまりしないのでこれで十分です。
⑪エマージェンシーキット
「必要最低限のものをコンパクトにまとめています」

①ミッドレイヤー:山と道/DF Mesh Merino Hoody
「メッシュ素材で乾きやすく汗冷えしにくいので雪山にもおすすめのフーディ」
②行動着・保温着:山と道/Alpha Vest
「シェルが保温性に優れたAll-weaather Jacketなので、保温着にはダウンを持たずAlpha Vestのみで軽量化しています。通気性にも優れてるので行動中も着用できます」
③タオル:山と道オリジナル手ぬぐい
「どんな機能性タオルよりも手ぬぐいの方が軽いし乾きも速い。鍋をつかんだり、温泉に入るときも活躍します」
④インナーグローブ(予備):マジックマウンテン/メリノタッチメンズグローブ
「雪山では手袋をなくすと死活問題なので予備も持っていきます。これは軽くて暖かいメリノウールのグローブ」
⑤グローブ:ラックナー/M’sガイドプログラブ
「未脱脂のウールだから濡れても暖かい」
⑥オーバーグローブ:モンベル/トリガーフィンガーオーバーミトン
「ゴアテックス製でミトンタイプなので着脱もしやすい。サイズ感がちょうど良い」
⑦ベースレイヤー:山と道/DF Mesh Merino Crew Neck
「こちらもメッシュ素材で通気性と速乾性に優れたメリノのベースレイヤーです。僕はベースレイヤーはほぼメリノ一択です」
⑧タイツ:山と道/Light Alpha Tights
「通気性と保温性に優れたポーラテックアルファ素材で行動中も快適です」
⑨靴下(就寝用):山と道/Alpha Socks
「山と道の新製品です。暖かくて通気性が良いので快適な履き心地で、ダウンソックスより軽量でコンパクトに収納できます」
⑩靴下(予備):スマートウール/マウンテニアクラシック マキシマムクッションクルー
「予備の靴下は凍傷対策で絶対にもっていきます。寝るときはAlpa Socksをプラス」
⑪スタッフサック:オガワンド/ラウンドスタッフ(Mサイズ)
「着替えを入れてます」

夏目彰推薦!
雪山初心者おすすめルート

①谷川岳日帰り(群馬・新潟) 
行程:天神平〜オキノ耳〜天神平
初心者レベル:★
歩く人も多く距離も短いし、天神平まではロープウェイで登れます。絶景の雪山を味わうのに初心者の方にもおすすめです。天気を必ず確認してから行きましょう。

②大雪山旭岳日帰り周回(北海道)
行程:姿見〜旭岳頂上〜姿見
初心者レベル:★★

都内からも飛行機でアクセスが良く、ロープウェイで登山口の姿見まで登れるのも魅力。姿見から一気に旭岳頂上までは登山コースを歩き、頂上からはルートを外れて旭岳をぐるっと回ってスノーシューハイクがおすすめです。

③硫黄岳1泊2日(長野県八ヶ岳) 
行程:
1日目 稲子湯〜本沢温泉(泊)
2日目 本沢温泉〜硫黄岳〜稲子湯
初心者レベル:★★★

はじめての1泊2日の雪山登山におすすめです。日本最高所に位置する本沢温泉の露天風呂。南八ヶ岳の絶景を見渡せます。硫黄岳は暴風で知られる場所なので天気は確認しましょう。