レインウェアを語ろう 2023(前編)土屋智哉 × 山と道ラボ
写真(人物):大竹ヒカル
レインウェアを語ろう 2023(前編)土屋智哉 × 山と道ラボ
写真(人物):大竹ヒカル
先日、レインウェア選びに迷う人に最低限知っておいてほしい情報をまとめた『レインウェアってなんだ?』を公開したり、6月の特集テーマとしても山と道のレインウェアシリーズであるUL All-weatherを取り上げるなど、雨具づいている山と道。今回はその6月のテーマに合わせ、去る2023年6月18日に鎌倉の山と道材木座で開催した『山と道ラボトーク① 最新レインウェア事情2023 土屋 智哉(Hiker’s Depot)×山と道ラボ』の模様を再構成してお届けします。
過去の山と道ラボの記事でもお馴染みのHiker’s Depot土屋智哉さんをお迎えしたこのプログラムでは、現行の軽量カテゴリーのレインウェアを代表する8製品をピックアップし、それらを実際に見ながら語ることで、現在のレインウェアを取り巻く状況を浮き彫りにしようと考えました。
個別の製品レビューも有用ですが、複数の製品を横断して語ることでしか見えてこないこともあります。ゴアテックス使用で遂に200gを切ったアークテリクスのノーバンシェルジャケット、現在世界最軽量レインウェアであるラブのファントムプルオン、いまや軽量レインの古典とも言えるアウトドアリサーチのヘリウムレインジャケット、国内軽量レインの大定番であるモンベル・バーサライトジャケットを取り上げた前編では、話はいつしか国内外の軽量レインウェアの受容と発展の歴史に…。
土屋さんと山と道ラボの鼎談だけに話は例によってかなりマニアックですが、ぜひテン場でギアトークをしているような、リラックスした気分で読んでくださいね。
はじめに
ーー今日はお集まりいただきありがとうございます。山と道ではこれまでレインウェアについて何度も土屋さんにお話を伺っていて、2019年に山と道の最初のレインウェアUL Rain Hoodyを作ってる頃にも2度にわたって議論させてもらいましたし、2021年にUL All-weatherシリーズが出たときにもRun boys! Run girls!の桑原圭さんも交えて鼎談を行わせてもらいました。それから2年経って2023年、また土屋さんとレインウェアについてお話しする機会を持ちたいなと思いまして。どうせならそれを公開でやってしまおうと、こういう場を持たせてもらいました。自分は今日の進行役を務めさせていただきます、山と道JOURNALSの三田と申します。今回は「山と道ラボトーク①最新レインウェア事情2023」と題しまして、ハイカーズデポの土屋智哉さんをお招きして、山と道代表の夏目と開発担当の渡部というメンバーで話し合っていきたいなと思います。
左より夏目彰、土屋智哉氏、渡部隆宏、三田正明
ーーで、今回は現行の軽量カテゴリーのレインウェア8製品をピックアップして、それを実際に見ながら語っていくんですが、ともあれ今回はこれらの製品をレビューして評価をするという趣旨ではありません。山と道に資料としてあったものに加え、土屋さんにもいくつか注目アイテムをピックアップしてもらい、それぞれ様々な個性や特徴を持つレインウェアの中で各カテゴリーを代表するような製品を集めましたが、これらを語ることで現在のレインウェアを取り巻く状況が浮き彫りにできればと思っています。
全員 よろしくお願いします。
① Arc'teryx - Norvan Shell Jacket
ゴアテックス使用の同社最軽量レインジャケット
重量:190g
素材:ゴアテックス 3L C-KNIT
特徴:疎水性多孔膜+親水コーティング
構造:3レイヤー
表地:13デニール
耐水圧:20,000mm
透湿性: 20,000g/㎡/24h
ーーじゃあひとつめはアークテリクスの「ノーバンシェル ジャケット」。これはゴアテックスのC-KNITを採用しています。ゴアテックスはePTFEというフライパンのテフロン加工にも使われているいわゆるフッ素樹脂でできていて、知ってる方も多いと思いますが、要は水より小さいけど蒸気よりは大きい穴があいたメンブレンと呼ばれる膜が表地と裏地の間に入ってるんですよね。
渡部隆宏(以下渡部) 防水透湿素材でいちばん最初に出てきたのがゴアテックスで、原理としてはテフロン樹脂を引き伸ばしていくとちょっとずつ穴があいて最後は裂けちゃうんですが、水は通さないけど蒸気が出るくらいのちょうどいい塩梅の穴があいた状態にしているんです。でも、その穴に皮脂が詰まったりすると透湿性も損なわれるので、実はゴアテックスは肌面に皮脂が詰まりにくいよう防汚コーティングをしているんです。でもコーティングしているぶん、コーティングがない状態よりは透湿性が若干下がります。
ーー山と道ラボで防水透湿メンブレンの研究を始めた時も、最初はなぜゴアテックスがわざわざ透湿性を下げるようなコーティングをしているのかがわからなかったんですよね。でも、山と道でもゴアテックスと同じ素材構造だけどコーティングをせずにより透湿性を高めたパーテックスシールドプロというメンブレンを使ってレインウェアを作ったんですが、製品化した後にユーザーさんからのフィードバックで皮脂汚れの問題に直面して、それでようやくわざわざコーティングしている理由がわかったという(笑)。
夏目彰(以下夏目) でもそのおかげで、ゴアテックスはちょっと蒸れるけど暖かいんだよね。それがさっき出た「保温性も大事」という話に繋がって、やっぱりゴアテックはいろんな意味でバランスが取れた素材なんだと思うようになりましたね。
ーーそんなゴアテックスには色々な種類があるんですけど、C-KNITは日本のレインウェアの代表モデルともいえるモンベルのストームクルーザーにも使われている現在のゴアテックスの主力的な素材ですよね。裏地がニット状で、肌触りや着心地が良いのがウリだとか。
土屋智哉(以下土屋) 雨具って、中のメンブレンって言われてるテクノロジーの核になる防水透湿膜以外にも、表地がどういう厚みなのかとか、裏地がどういうものなのかでも性能や性質が変わるんだけど、C-KNITって毛糸で編んだセーターみたいなものだから、イメージ的にシャツみたいな織物よりもヌケがよさそうでしょ。だからこれは裏地の影響もあって抜けがいいんです。
土屋智哉氏(Hiker’s Depot)
夏目彰(山と道代表)
渡部隆宏(山と道ラボ)
渡部 あと、この製品に採用されているC-KNITは生地の重さが1mあたり85gくらいだったかな。山と道の生地が58gなので、ゴアテックスの3レイヤーでここまで軽いものはあまりなかったと思いますね。なのでジャケット重量も200gを切ってます。
ーーゴアテックスで200g切るってなかなかないですよね。アークテリクスとしては山岳用というより軽量性に特化したトレイルランニング用という位置付けみたいです。デザインや仕上げの面もさすがアークテリクスという感じの質の高さですね。縫製とかパターンとか改めてすごいなと感じさせるものがやっぱりある。
裏返してみると非常に手の込んだパターンやシーム処理に驚かされる。シームテープも場所ごとに太さが違うなど非常に芸が細かい。フードのひさしには雪崩時の捜索に役立つ遭難救助システムRECCOリフレクタを搭載。
C-KNITの表面。よく見ると繊維がニット状に編み込まれている。
土屋 うちはお客さんに軽い雨具が欲しいって言われたときの基準値でよく話すのが、モンベルのストームクルーザージャケットで、大体250gぐらいなんですよ。なのでそれよりも軽い200〜250gぐらいの間が軽量雨具のいわゆるスタンダードだと思っているんだけど、最近それが200g前後に落ち着いてきた。なので190gっていうのは超軽量じゃないんだけど、ちょっと安心感も持てるバランスのいい生地の厚さ。あとさっき夏目さんに言われるまで俺も知らなかったことなんだけど、表地の厚みで撥水性が変わるんだよね?
夏目 撥水性はすごく重要で、それが機能しなくなるとレインウェアの表面に水膜ができて透湿や通気が起きづらくなって、ウェア内が蒸れて濡れてくるっていうことが起きるんですね。で、撥水性は生地に撥水コーティングを施すことで確保できるんですが、やっぱり表生地が厚ければ厚いほど物理的に撥水剤がよく乗るんですよ。でも、軽量化のために生地を薄くするほど撥水剤も乗らなくなるからどうしても撥水性が弱くなりがちで。だからある程度生地厚があった方が、撥水性能も良くなるし保温性とか諸々バランスが良いと。
土屋 そう。だからこれはテクノロジーの部分でもスペックでも「ザ・バランスがいいジャケット」っていうのは言えるのかなという認識です。
フードのアジャスターは軽量性を意識して後頭部の1か所のみ。
袖口も軽量化のためアジャスターなし。
夏目でもフッ素がヨーロッパで禁止になる流れで、ゴアテックスはこれから素材が変わるんですよね。アメリカもカリフォルニア州で禁止になってもう使えなくなるから、現状と同じゴアテックスは今しか手に入らないものになるかもしれない。
土屋 素材がフッ素樹脂から今度はポリエチレンに変わります。だから、もう素材の根本のテクノロジーが変わっちゃうんです。それによって薄くなるんだけど、耐油性とか耐久性が落ちるんじゃないかと言われてて。だからそこんところをどうしていくのかっていうのも、実は雨具の今後のトレンドの中では注目していってほしいですね。
ポケットは左脇腹に1か所あるが非パッカブル仕様。
ーー欧米のマーケットは環境対応じゃないとそもそも土俵にすら立てないみたいな状況がどんどん進んでますね。
夏目 撥水剤も環境対応ということでどんどん効かない撥水剤が使われてきているんですよ。要は今だったらフッ素由来のC6とかがあるんですけど、C0って言ってフッ素を使わない撥水剤を使う方に行ってるんだけど、それが実は油を1回触ったりすると、もうそれで撥水が効かなくなるとかそういうこともあって、どんどんテクノロジーが進化しているようでいて、機能的に実は悪くなっているものも増えてきてます。
土屋 数年前にザ・ノースフェイスとパタゴニアとかは、フッ素系撥水剤を一斉に排除したんですね。でも結果として、すぐ染みるとかすぐ濡れちゃう、撥水が落ちちゃうっていうブーイングがユーザーから起こったことで、一旦は復活したんだけど。でも、世の中の大きな流れとしていろんな部分で環境対応の素材を使ってやんなきゃいけなくて、実はテクノロジーの進化が環境対応の方に進んでいってるので、雨具の機能面での進化とはちょっと違う進化に行っている状況があります。
② Rab - Phantom Pull-on
現行世界最軽量レインウェア
重量:89g
素材:パーテックスシールド
特徴:親水性無孔膜
構造:2.5レイヤー
表地:7デニール
耐水圧:20,000mm
透湿性: 20,000g/㎡/24h
ーー次はULブランドである山と道としてはやっぱり絶対気になるラブの「ファントムプルオン」。89gで現行の世界最軽量モデルです。防水透湿素材はパーテックスシールドという薄く軽量にしやすい素材で、構造も軽量化のため裏地がなくてそれを肌離れをよくするようなプリントで補っている2.5レイヤー。さらに表地は7デニールという限界に近いぐらいの薄い生地でできています。
品質表示が透けるほど薄い生地。
肌面には裏地がないものの立体的なプリントを施すことで肌離れを良くしている。
渡部 このパーテックスシールドは先ほどのゴアテックスとは違い、メンブレンに穴があいていないんです。1回メンブレンが水を吸ってそれが表側に出て乾くという、ちょっとワンクッション置く形になっていて。なのでワンクッション置くぶん、1回蒸れた後で透湿します。
ーー吸水性の高いタオルみたいな膜がジュワーって汗を吸ってくれて、それが広がりながら乾いていくみたいな原理なんですよね。
渡部 なのでカタログ上は透湿性が高いんですが、1回水を含んで蒸れた後にヌケるので透湿性能が発揮されるまでに少し時間がかかる。なので、体感的には蒸れを感じやすい素材です。
ーー透湿性を量るにはJISが定めた試験方法があるんですが、それが実際に我々がフィールドで感じる蒸れ感とはちょっと違うんですよね。でも透湿性を量るにはそれしか指針がないので、素材屋さんもそこで良い数字が出るような素材を開発する。なのでその素材がフィールドでどう使われてどう感じるかは、実際はあまり考えてなかったりもする。
夏目 付属のスタッフサックに入れてみてもらっていいですか?
ーーこのスタッフサックもコンパクトだけど開口部が広くて簡単に入れられるのが気が利いてるなって思いました。最終的にキュッと締まらないで隙間が空いてるんですけど、別にこれでいいじゃんっていう。日本のアウトドア製品のスタッフサックて収納サイズを小さく見せたいのか、すごく小さくて入れにくいのが多いんだけど。
コンパクトだが非常に収納しやすい付属のスタッフサック。
夏目 ポケットに入っちゃうね。
土屋 万引きしやすいですね(笑)。
夏目 ファントムプルオンは土屋さん使ってみたんですよね?
土屋 使ってみました。表地が7デニールで薄いんだけど、親水性無孔膜(注:水分が浸透しやすい=親水性の穴があいていない膜ということ。反対に水を弾く素材で穴のあいた構造をしたゴアテックス等は疎水性多孔膜と呼ばれる)のパーテックスシールドなんで、基本的には蒸れるんですよ。だから、動き続けてる限りにおいて保温性の担保はかなりしてくれます。ただ、いちばんの弱点は、止まって風が吹くと薄いので外気温をダイレクトに肌に感じる場合がありますね。だから、感覚的には動き続けて無風状態が保てるんだったら蒸れるぶん暖かいけど、止まって風が強く吹くと寒いっていうすごく矛盾した状態が起こる。特に怖いのが秋のアルプスとかかな。例えば裏銀座を歩いててずっと雨風に吹かれてて、身を隠すところがない。でも動き続けなきゃいけない。その体力が落ちてきたっていうときなんかには、危ない状況にもなりうる。
ーーこれも素材のスペックだけ見たら防水性も耐水圧も十分あるはずなんですよね。でも実際に手に取ってみると、どれだけ雨風避けられるのかっていうのは正直不安になる薄さ。そういうものとわかった上で付き合えるんだったらいいけど「何よりも軽いのがいい!」みたいな感じで選ぶと「こんなの買うんじゃなかった」って思っちゃうかもしれない。
土屋 だけどトレランの雨具としてとか、デイハイクの時になるだけ荷物を軽くしたいとか、OMMみたいなレースの時はすごくいい雨具になる。用途としてはかなりニッチな方向だとは思うけど。
ーー実際トレラン用だと、レースの必携品としてのレインウェアみたいなジャンルもありますよね。
渡部 多くのトレランレースで雨具が必携品になっていることもあって、悪天候に対する性能はいまいちだけどとにかく軽くて、使わない前提でザックに入れておく用みたいな製品も存在します。だからこれは雨対策というより、動き続けてれば寒くないでしょっていう感じの製品ですね。だからすぐ蒸れるし、やっぱり中がびしょびしょになる。
フードはゴムが入っているだけでアジャスターなし。
袖口にも当然アジャスターなし。さすが超軽量モデルらしい潔さ。
土屋 だからULマニアみたいな人が「軽ければ軽いほどいい!」っていうだけで、「じゃあこれをどう使いこなそうかな」っていう発想がないと、すげえ面倒くさいやつです。でも、これは別にネガキャンやってるわけじゃないんですよ。ちなみにうちの店でもこれ、売ってますから(笑)。
ーーともあれ世界最軽量ですからね。
夏目 軽いのは嬉しいよね。
土屋 軽いのは嬉しい。
ーーいろいろ突っ込みどころもありますけど、本当にギリギリまで軽いのが欲しい人にとっては「これしかない」っていう製品ですよね。
③ Outdoor Reseach - Helium Rain Jacket
軽量レインウェアのパイオニア
重量:174g
素材:パーテックスシールド+ダイヤモンドフューズ2.5L
特徴:親水性無孔膜
構造:2.5レイヤー
表地:30デニール
耐水圧:非公開
透湿性: 非公開
ーーじゃあ次行きましょう。軽量ジャケットといえば我々みたいなULの古株にはすごく思い出深いのが、アウトドアリサーチの「ヘリウムレインジャケット」。これは174gで今では超軽量とは言えないんですけど、ほんとに10年前ぐらいとかは…
夏目 UL系の人はみんな着てたよね。
ーー軽量で手に入りやすいレインウェアがこれしかないって時代があって。その界隈の人が制服みたいにこればっかり着てる時代がありましたよね。
三田正明(山と道JOURNALS)
土屋 ヘリウムジャケットは実はコンセプトがすごくはっきりしてます。テクノロジー的にはこれも2.5レイヤーのパーテックスシールドでさっきのファントムプルオンと同じなんだけど、あれはつまりトレラン用じゃないですか。でも、これは元々メーカーがアルパインクライミングのときにハーネスにぶら下げられる雨具として、クライミング用に作ってるんですよ。いまのヘリウムレインジャケットで自分が面白いと思うのが表地のダイヤモンドフューズっていう生地で、薄いけど擦れにものすごく強いんですね。
質感や肌触りからしても堅牢さが伺われるダイヤモンドフューズ。30デニールと軽量レインウェアとしては厚手生地を採用している。
本体を胸ポケットに収納できるパッカブル仕様。
ーーそうだったんだ。生地がダイヤモンドフューズになったのも割とここ数年だと思うんですけど、それもやっぱりロッククライミングとか、岩場での使用を想定してるからこそなんですね。
土屋 そう。コンセプトはたぶんずっと変わってない。アルパインクライミングの中でビレイをしたり停滞したりするときも、パーテックスシールドである程度蒸れた状態を作れるっていうのは保温性にも繋がってくるしね。なのでこれは軽さに振りつつ、保温性と表面の擦れの強さにも重きを置いているモデル。だからうちのお店だと、毎週山に行ってるような登山ガイドの方にも軽くて安心ができる雨具として定評があります。ヌケの良さだけでなく、保温性もちょっと欲しいなって人には、今でもど真ん中って言うか、基準にしていい雨具かなとは思ってますね。
フードのアジャスターは後頭部の1か所のみ。
袖口は軽量化のためアジャスターなし。
渡部 ヘリウムシリーズにはパンツもあっておすすめです。レインパンツは結構痛みやすいけど、これは耐久性の高さもあっていろんな場面で使えるかなと。
ーーパンツは透湿性が高くなくてもそんなに気にならないですからね。
渡部 むしろ耐久性重視であれば大いに選択肢にあがってくると思います。
ーーこれも今となっては最早クラシックな道具になってきたなって感じですね。ずっとあり続けてほしいですよね。
2.5レイヤーなので裏地はプリント。3レイヤーに比べるとどうしても着心地は劣る。
土屋 でも今のもやっぱり昔のモデルと同じで着るとペタペタするよ(笑)。
ーーやっぱり2.5レイヤーは着心地の面では3レイヤーに劣りますよね、今はもっと軽いものでももっと着心地の良いものやヌケの良いものもあるし。でも、これはこれでそういう個性の製品だってことですよね。
夏目 表地も30デニールで厚いからコーティングがよく乗るので、撥水性も担保されてますしね。
④ Montbell - Versalite Jacket
ウインドストッパー仕様のモンベル最軽量モデル
重量:134g
素材:ゴアテックスインフィニウムウインドストッパー防水仕様
特徴:疎水性多孔膜
表地:10デニール
構造:2レイヤー
耐水圧:30,000mm以上
透湿性:43,000g/m²
ーー一方、日本の軽量レインジャケットの代表格と言えばこのモンベルの「バーサライトジャケット」。これももはや息の長い製品になってきて、国内では販売網の幅広いモンベルということもあっていろんなとこで見ますけど、改めてモンベルという巨大メーカーが134gという攻めた重量の製品を出しているのはすごいですよね。
土屋 ずるいよね〜、本当に。
ーーこれはゴアテックス・インフィニウム・ウインドストッパーという素材を使っています。
渡部 このモデルが最初に出た時は白いカラーがあって、それこそレースでは下に着ているゼッケンが透けるぐらい薄かった印象があります。なのでたぶん重さも106gとかだったと思うんですけれど、数年前から素材がしれっとウインドストッパーに変わっていて。
ーーたしか昔はモンベルの独自素材でしたよね。
渡部 昔はハイドロブリーズっていうやつでした。ウインドストッパーはもともとソフトシェル素材みたいな感じだったと思うんですけど、現行のバーサライトに使われているウインドストッパーはシームテープを貼った防水版で、耐水圧も30,000mmあるみたいな。そういう素材になっています。
裏地のない2レイヤー。本来は防風性に特化した素材であるウインドストッパーにシームテープを貼って防水仕様にしている。
ーーウインドストッパーは10年前ぐらいはもっと色々な製品に使われてたと思うんだけど、最近あまり聞かないなと思ってたら、いつのまにかバーサライトがウインドストッパーになっててちょっとびっくりしましたよね。
土屋 モンベルってどちらかというとスタンダードなものを作っているイメージなんだけど、これは仕様だけ見るとすごい曲者だよね。ウインドストッパーにシームテープを貼って防水だって言ってるとことか、疎水性多孔膜で2レイヤーっていうのも結構珍しいなとか。仕様自体を見るとモンベルとは思えないぐらいニッチなもの作り。
ーー類似製品がないですよね。
土屋 ですね。特殊。
フードのアジャスターは両頬の2か所に加え後頭部と頭頂部にもバンジーコードとベルクロのアジャスターが付いたフルオプション仕様。
袖は肩から雨が侵入しないよう1枚生地になっている。
わずか134gにも関わらずアジャスターを設けていることにモンベルのこだわりを感じる袖口。
夏目 でもバーサライトに関してはこれだけたくさんの人が使っているから問題があったら解消するなり廃盤になったり何かはしてるはずで。それがないってことはちゃんとそれなりに使えているんじゃないかな。
ーーこれって値段もすごく安いから、初心者の人がエントリーモデルとして手に取りがちなレインウェアでもあると思うんですよね。そういう人にとってこれがどういう回答になっているのかは気になるな。
土屋 でもテクノロジーだけ見るとなんかよくわからないんだけど、結果としてきちんと機能するものが安く提供されてるっていうのは、やっぱりすごく評価するべきポイントだと思うし、重量130gの雨具が日本のアウトドアのマスメーカーさんから標準モデルとして出てきている事実は、とてもすごいと思うので。この点をとっても、軽量雨具の重さの基準値がどんどん下がってきてるから、そういったマイルストーンになる製品かな。
夏目 すごく面白いバランスの製品になってるし、単純にすごいなと思います。2レイヤーだから、たぶん表生地はまあまあ厚めを使ってるのかな。
渡部 表地は10デニールらしいです。
夏目 10デニールだったらもっと軽くなりそうだけどね。
土屋 なりそうなんだけどね。たぶんメンブレン自体が厚いんだと思います。
ーー着てみると、やっぱり2レイヤーなんでどうしても肌触りはペタペタしますけどね。でもこの価格(税込18,700円)でこの重さのものを出しているのは本当に頭が下がりますね。
当日は実際の製品を手に取りつつ議論が交わされた。
【後編に続く】