レインウェア=雨風を避けるための衣服。
けれど、雨を避けるだけならビニールカッパでも十分な防水性があります。なのになぜレインウェアが必要なのかといえば、ビニールカッパで山を歩くとすぐに蒸れてしまい、雨は防げても自分の汗で濡れてしまうから。
そこで山を歩くには「濡れないための防水性」と「蒸れないための透湿性」を両立した衣服=レインウェアが必要なのです。
ただ、世の中には高価なものから安価なものまで様々なレインウェアが溢れ、防水透湿素材にも新しいテクノロジーや素材が次々に現れ、自分には一体どんなレインウェアが最適なのか、戸惑う人も多いのではないでしょうか。
ここでは、そんなレインウェア選びに迷う人やこれからハイキングを始める人に、最低限知っておいてほしい情報をまとめました。
色々なレインウェア
レインウェアには季節やシチュエーションに応じて様々な種類があります。どんな山の、どんなハイキングに使うのかで最適な一着は変わります。
すべてのレインウェアには一長一短がある
「水を通さない防水性」と「湿気を通す透湿性」のように本来なら相反する機能を持つレインウェアですが、その矛盾を完璧に解消する「究極の一着」は残念ながら存在しません。
そのため、各防水透湿素材やレインウェアは防水性⇆透湿性、換気性⇆保温性といった相反する各特性の間のどこにバランスを置いているかで特徴に違いがあり、それぞれに一長一短があります。
様々な防水透湿素材
各レインウェアの特徴を決定付ける防水透湿素材には沢山の種類と構造の違いがあり、特性も透湿性が高いもの、防水性が高いもの、通気性があるものなどそれぞれに異なりますが、2023年現在は大きく以下の4種類に分類されます。
水は通さないが湿気は通す微細な穴が開いた膜で防水透湿するレインウェアの代表的素材。肌面に油脂等による性能低下を防ぐための対汚コーティングをしているため透湿性は格段に高くはないが、耐久性、防水性、保温性など、悪天候で安心して着用できるクオリティを持つ。
テクノロジー:疎水性多孔膜+親水性コーティング
ゴアテックスのように膜に穴が開いていないため薄くできることから超軽量のレインウェアに多く採用されている素材。いったん湿気を膜が吸ってから外部に放出する仕組みのため、他の透湿防水素材と比べると蒸れやすい。
テクノロジー:親水性無孔膜
同系列素材:HyVent(TNF)など
穴が開いたスポンジのような形状を持つ疎水性多孔膜が直接湿気を外に放出するためヌケが良く、他の素材と比べても遜色のない防水性と保温性を備えたバランスの良い素材
テクノロジー:疎水性多孔膜
同系列素材:パーテックスシールドプロなど
網目状のナノファイバー網が透湿だけでなく通気もするため抜群の換気性能を持つ。蒸れにくい反面、保温性は低く、技術的に耐水圧を高くすることが難しいため防水性も低い。
テクノロジー:ナノファイバー膜
同系列素材:フューチャーライト(TNF)など
レインウェアの三つのグループ
現代のレインウェアは大きく、軽量性、換気性、保温性それぞれを程よく兼ね備えた「バランス型」、重量100g前後と軽量性に特化した「超軽量型」、そしてナノファイバー膜を使用し換気性(透湿・通気性)に優れた「通気型」の3種類に分類することができます*。
*「表地・防水透湿膜・裏地」の3レイヤー構造のレインウェアの場合
①ヌケ、保温性、耐久性、それぞれ程よい「バランス型」
重量がジャケットで200g-350gほどで、軽さやヌケの良さ、耐久性や保温性においてもそれなりの性能を持ち、またポケットやフードや袖口のアジャスターなど使いやすさや耐候性を上げるディティールも備えた現状のレインウェアのスタンダードともいえるグループです。ゴアテックス、もしくはその同系列素材を使用した製品が多くを占めます。
長所:防水性、透湿性、軽量性、保温性、耐久性などのバランスに優れる。
短所:オールマイティな反面、運動量の多いアクティビティや軽量化を求められるULハイキング等では換気性や軽量性に不満を感じることがある。
代表的な防水透湿素材:
ゴアテックス
テクノロジー:疎水性多孔膜+親水性コーティング
②とにかく軽さに特化の「超軽量型」
ジャケットで重量100g前後の軽量性に特化したグループです。多くが極薄の親水性無孔膜素材を用い、ポケットを省略するなど軽量化のためディティールを絞り込んだ製品が多いのが特徴です。
長所:圧倒的に軽量コンパクトで携帯性に優れる。また生地は薄手だが蒸れやすいので行動時は暖かく感じる。
短所:生地が薄いため絶対的な保温性は低く、停滞時には寒さを感じる。耐久性も低いため岩場や藪漕ぎでは破れないよう注意が必要。ポケットやアジャスターがないことが不便に感じることも。
代表的な防水透湿素材:
パーテックスシールド、HyVent(ザ・ノースフェース)
テクノロジー:親水性無孔膜
③圧倒的にヌケの良い「通気型」
ナノファイバーメンブレンを使った唯一「通気」するグループです。通気することで行動中の熱気が直接外に排出されるため、激しい運動を伴うアクティビティに最適です。
長所:何よりも通気することによる圧倒的なヌケの良さ。ウインドシェルと比べても着心地が遜色なく、雨天時だけでなく晴天時も積極的に使用できる。
短所:通気性が高いことによって行動中の熱を保持しづらく、結果保温性が低い。また技術的に耐水圧を高くすることが難しいため他素材に比べ防水性も低い。
代表的な防水透湿素材:
パーテックスシールドエア、フューチャーライト
テクノロジー:ナノファイバー膜
濡れないレインウェアはない
防水性と透湿性を高いレベルで両立しているレインウェアですが、残念ながら「雨の中で何時間行動しても100%濡れないレインウェア」はありません。
そのために使用者には、たとえ濡れても体温を保持できるようなウェアのレイヤリングを行ったり、レインウェア本来の性能を発揮できるようこまめに撥水ケアや洗濯を行うなど、適切な使用が求められます。
レイヤリングの重要性
いくら保温性の高いレインウェアもダウンのように体を温めることはできません。ですが、ミドルレイヤーで保温性を補完したり、風に弱いレインウェアにはウインドシェル等を組み合わせて防風性を確保したりと、効果的なレイヤリングを行うことでそれぞれのレインウェアの弱点を補うことができます。
撥水性は熱で回復
高い機能性を持つレインウェアも、こまめにケアをしなければ本来の性能を発揮できません。なかでも大事なのは撥水性で、生地表面の撥水力が落ちるとレインウェア本来の透湿性や防水性が発揮できなくなってしまいます。
レインウェアの撥水性は着用と共に失われていきますが、乾燥機やドライヤーなどで熱を加えることで簡単に回復させることができます。
ドライヤーを使用する場合は製品から約15cm離して温風を満遍なくあててください。
乾燥機は低温コース(上限60°C)で使用してください。
撥水コーティングは着用時の摩擦や洗濯を重ねることで少しずつ落ちてしまうため、熱を加えても撥水性能が回復しなくなってきたと感じたら、市販のアウトドアウェア用撥水剤を使用するか、クリーニング店による撥水加工サービスを利用してください。
また、透湿防水素材の内部に泥汚れや皮脂汚れが詰まると本来の性能を発揮できないため、着用して汚れたり汗をかいたりしたらすぐに洗濯してください。
極端なUL All-weatherシリーズ
山と道のUL All-weatherシリーズは極薄の表地とパーテックス・シールドエアの組み合わせにより、レインウェアの枠を越え晴天時にも積極的に使用できるほどの通気性を持つ超軽量の全天候型行動着です。
ただ反面、通気性が高過ぎることにより保温性が低く、生地が極薄のため防水性もやや劣ります。使用の際は撥水などのケアを行いつつ、雨や寒冷時に長時間行動する際はレイヤリングに十分注意して使用してください。
相談できるお店や仲間を作ろう
自分にとって理想の一着に出会うのは難しい。だからこそ、あなたがどのようなハイキングが好きか、しているか、したいのか、それを理解し、相談にのってくれる専門店を見つけましょう。
ぜひ、全国の山と道製品取扱店や山と道の直営店を訪ねてください。山の経験と製品知識の豊富なスタッフが、きっとあなたのレインウェア選びを助けてくれるはずです。
【全国の山と道取扱店】
北海道地方
FLHQ / SALT / Less Higashikawa
東北地方
Knotty
北関東地方
lunettes+山の道具店
関東地方
Hiker’s Depot / BAMBOO SHOOTS / st.valley house
北陸地方
OUNCE / THE GATE SPORTING CLUB
中部地方
NATURAL ANCHORS / CLAMP松本店
関西地方
山道具 谷ノ木舎 / UTILITY / Heimat berg
四国地方
T-mountain
九州地方
GRiPS / 旅道具と人 HouHou〈ホウホウ〉
【山と道直営店】
山と道 材木座(鎌倉)
旧「山と道研究所」を改装して2022年にオープンした直営店で、様々な経歴を持つ個性豊かなスタッフが接客に当たっています。
山と道 京都
製品販売だけでなく、ハイキングに関連した書籍やクラフトビールが飲めるボトルショップも併設。ハイカー同士の交流、ULハイキングの学びの場となることを目指します。
samplus(台北)
COW Records、Raying Studio、山と道の三者による台湾のハイキングカルチャー発信拠点です。
もっと詳しく知りたい人に
山と道ラボでは、これまでにレインウェアについてのどこよりも詳細な記事をいくつも発表してきました。
2017年〜2019年まで全10回に渡って連載した『山と道ラボレインウェア編』、2021年に全3回で連載した『山と道ラボ特別編 全天候型行動着の誕生』では独自試験を踏まえた各防水透湿素材の構造解析や実際に着用しての試験室でのテスト、マーケット分析まで、詰め込み過ぎなほど詰め込んだ内容になっていますが、現代のレインウェアを知るための絶好のサブテキストになっていると自負していますので、これからレインウェアの深い森に足を踏み入れようという人は、ぜひご覧ください。