0123456789 ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ abcdefghijklmnopqrstuvwxyz あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわをん アイウエオカキクケコサシスセソタチツテトナニヌネノハヒフヘホマミムメモヤユヨラリルレロワヲン
0123456789 ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ abcdefghijklmnopqrstuvwxyz あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわをん アイウエオカキクケコサシスセソタチツテトナニヌネノハヒフヘホマミムメモヤユヨラリルレロワヲン
THE BACKPACK TEST 2023

現行ULバックパック10種類を背負ってみた(後編)

構成/文:三田正明
写真:大竹ヒカル
2023.06.09
THE BACKPACK TEST 2023

現行ULバックパック10種類を背負ってみた(後編)

構成/文:三田正明
写真:大竹ヒカル
2023.06.09

新製品に向けた開発研究のため集まったULバックパック10種類を山と道開発スタッフの渡部隆宏、山と道材木座店長の前原秀則、山と道JOURNALS編集長の三田正明が同じ条件で背負い比べ、あーだこーだと議論してみたこの企画。25Lから36Lまでの小型〜中型バックパックをテストしてみた前編に続き、後編では38Lから60Lまでの中型〜大型バックパックを背負い比べていきます。

前編でも述べましたが、あくまで今回はバックパックに同じ重量と容積のウェイトを入れて背負い比べてみた、というだけであり、紹介させてもらった製品の評価をここで下せるものではありません。

ですが、フレームや背面パッドの有無が必ずしも背負い心地の良さに直結するわけではないことや、ショルダーストラップの形状の重要性、現状のULバックパックシーンのトレンドなど、やはりこうして背負い比べてみることでわかることもたくさんあると思えたこの試み。それぞれのメーカーの思いや哲学が詰まったバックパックには、大いに刺激をもらいました。

2023年のULバックパックの、明日はどっちだ!

後編で背負うバックパック

BONFAS Iterus 38L

ATOM PACKS The Atom+ EP

MOUNTAIN LAUREL DESIGNS Exodus 55L | 3500 CI

Z-PACKS Arc Haul Ultra 60L Backpack

GOSSAMER GEAR Mariposa 60 Backpack

本稿のバックパック各部の名称については下記に基づいています。

はじめにTHREEを背負ってみる

三田 ここからは38Lから60Lまでのザックを見ていくけど、ここからは前編で使った5kgのウェイトでなく、山と道の直営店でTHREEに入れている8kgのウェイトを入れて背負い比べていきます。でもその前に、今回もこのクラスの基準としてまずはTHREEを背負ってみよう。(背負ってみて)うん、これもMINIと同じで我々にとってはもはや当たり前過ぎて、いいも悪いもないという感想になってしまう(笑)。

Standard – Coyote 2023

Mesh – Navy 2023

Zip – Yellow 2023

THREE
重量:602g-649g
容量:40L/45L
メイン素材:X-pac VX21
構造:フレームレス

前原 (背負ってみて)快適耐荷重の10kgを守るとすごい快適ですよね。同クラスのザックと比較して、ヒップベルトがテープ状なんで足上げに干渉しにくく歩きやすい。でもそのぶん、高重量の荷物は背負えないですよね。以前、試しに14kgの荷物を入れて歩いてみたんですけど、やはり快適耐荷重は10kgなんだなと(笑)。「荷物は10kg以下にしてください」と、店頭でもお客様に口酸っぱく伝えています(笑)。

渡部 (背負ってみて)このくらいのウェイトであれば、肩だけでもなく腰だけでもなく、荷重がちょうどよく上下にバランスする感じですね。慣れ親しんでいて違和感ないです。

三田 でもこうして背負って違和感がないということは、つまり背負い心地がいいんだということを今回色々なザックを背負ってみて、改めて感じたな。

⑥ BONFAS - Iterus 38L

バランスの良さが光るイタリア製ULザック

容量:38L
重量:400g
メイン素材:ウルトラ200
構造:フレームレス

https://www.lunettes-yamanodouguya.com/product-page/bonfus-iterus38l

三田 では8kgのあんこを入れて背負っていく中型〜大型クラスのひとつ目はボンファスのイテルス38L。これはUL系としては珍しいイタリアのブランドですね。これもフレームレスで、伝統的なULザックスタイルにウルトラ200みたいな最先端素材を載せて、ボトムとショルダーのポケット付きという、いまのULザックのトレンド全部載せの、前編で見たヤーギアをひと回り大きくしたようなデザイン。

前原 (背負ってみて)フレームレスだけど、8kg背負っても違和感ないな。正直ヒップベルトなしでも普通に背負えているので、しようがしまいがあまり関係ないですね。肩もそんなに窮屈でないし、俺はめちゃめちゃこのショルダー好きかも。逆に言うと我々みたいに肩がしっかりしてたらいいですけど、女性だと肩荷重が大きいので大変かも。でも背負い心地は良い感じです。MINIに5kgを入れてる時のような感覚で8kgを背負えている感じ。ヤーギアとも近い。

三田 ショルダーストラップには結構しっかりS字が入っているね。

前原 しっかりホールドされてるけど圧迫されてる感じはないですね。ヒップベルトは俺ならつけないかな。

三田 でもやっぱりショルダーポケットはボトル入れると腕に当たっちゃうね。もうちょい内側につけられないのかな。今日見てきたザックでもボトルを入れると腕に当たるのが多かったけど、それは難しいのかな。

前原 これだったら正直ついてなくてもいいかも。行動食とかサングラスとか入れるならいいんだろうけど。

左胸だけにメッシュ素材のショルダーポケットあり。S字を描くショルダーストラップはパッドはそれほど厚くないが良好なフィット感。

渡部 (背負ってみて)確かにMINIっぽいですけど、8kg背負っているわりには軽く感じる。同じ重さを背負ったらMINIの方が肩に食い込みそう。重さを感じないのはちゃんと腰とバランスしてるからかもしれない。

前原 たしかにMINIに8kg入れるともう少し前屈みになるかも。

三田 これは背面にバンジーコードで折り畳んだスリーピングパッドをつけて背面パッドにできるというギミックがある。試しに山と道のMinimalist Padをつけたらぴったりだね。 

背面のバンジーコードに折り畳んだスリーピングパッドなどを挟んで背面パッドとして活用できる。

三田 (背負ってみて)ああ〜確かに背中にすっと収まるような感覚がある。背面長の長さが自分にちょうど良いのかな。やっぱりショルダーストラップが地味にいい感じ。袋そのものとショルダーストラップのバランスもすごく良い気がする。袋のサイズ感て、意外とすごく大事なのかもね。でもせっかくショルダーストラップは良いのにメッシュポケットが適当なんで、前原君も言っていたようにこれならなくてもいいのにって思っちゃうな。少なくともボトルはここに入れないね。

⑦ ATOM PACKS - The Atom+ EP

上質な仕上げのイギリス製フレームザック

容量:50L
重量:675g
メイン素材:エコパック
構造:フレームザック

https://atompacks.co.uk/collections/the-atom-plus/products/the-atomplus-ep50-black

三田 次はイギリスのブランド、アトムパックスのジ・アトム+EP。ここはすごく仕上げが良いよね。ボトムポケットとかショルダーポケットとかウルトラストレッチとか最近のトレンドは抑えつつ、そこで他のブランドと差をつけてるというか。サイトの作りもかっこよくて、写真もきれい。

渡部 アトムパックスは生地の色とか素材もカスタムできるんですよ。そこもよくて。

三田 で、これは素材がエコパック。

渡部 ウルトラ200を作っているのと同じメーカーの素材で、X-Pacとほぼ同じ…というかそのコピーみたいな生地なんですけど、値段が少し安くて、リサイクル素材を使っていて環境に良い素材というのが強みです

前原 最近は欧米のブランドは軒並みX-Pacからエコパックに移行してますね。(背負ってみて)悪くないけど、後ろに引かれる感じが少しあるかな。ショルダーポケットはボトル入れても腕に当たらなくて良いけど。

三田 ショルダーポケットは形もかっこいいよね。ここはなんでわざわざ生地をひっくり返してつけてるんだろう?

渡部 たぶんそのぶん入れ口のエッジが立ってものを入れやすいんですよ。

背面にはカーボン製フレームと薄い背面パッドを内蔵。S字を描くショルダーストラップはフィット感もよくポケットはデザイン/配置共に良好。ヒップベルトも取り外し可能。

三田 あと、これはカーボン製のフレーム内臓で、13.5kgまでは背負えますよっていうふれこみ。だから山と道だとONEと同じくらいのカテゴリーのザックだね。でも50Lっていう容量でフレームも入っているのに、ロードリフターがついていないんだよね。

黒いカーボンパイプを樹脂製の白いパイプで繋いだ内臓フレーム。

前原 (背負ってみて)悪くないけど、単純にショルダーストラップの感じだけなら自分はボンファスの方が良かったかな。こっちは肩だけだと重いなって思う。でもヒップベルトの作りは良いです。ONEよりは背中にフレームが当たる感じがないけど、フレーム入ってる感じもあまりしないな。

渡部 ONEはフレームがX字に交差してるから背面には当たりますよね。

三田 フレームで腰荷重できてる感じはある?

前原 ありますけど、ヒップベルトを引くとザック上部が後ろに引っ張られるかも。

三田 じゃあやっぱロードリフターあったほうが良さそうだね。

前原 逆に肩荷重を増やして腰荷重にし過ぎないほうがバランスが取れてる感じ。ただ肩だけでは背負えなくて、ヒップベルトあってのバックパックって感じ。

渡部 じゃあONEというよりTHREE的な背負い心地か。

サイドポケットにも一気に解放したり締めたりできるよう引き手がついているなど、細部までこだわりが感じられる仕上げ。

渡部 (背負ってみて)すごい好印象ではないけど、デザインとか細部の作り込みとか含めて、これで出かけたい時があるかもって感じかな。でも、確かにロードリフターが欲しくなりますね。あればかなり快適に背負えると思う。

三田 (背負ってみて)ああ、ヒップベルトは良い感じ。でも、ちょっと後ろに引っ張られる。やっぱりロードリフターはあった方がいいんじゃないかな。せっかくフレーム入りで腰荷重してくれてるから、肩を少しゆるめて背負いたいんだけど、そうすると後ろに重心が引っ張られちゃう。だからロードリフターで手前に引きたいんだけど、それがないっていうね。

前原 ロードリフターついてたらめちゃくちゃいいですよね、これ。

三田 ね。重さもTHREEと同じくらいだし。デザインはいいし、カスタムもできるし、見た目でだけでいったら「これ買お!」ってくらいのザックだけどな〜。惜しい。

渡部  さっきアトムパックスのサイトを見たら、60リットルクラスのザックにはさすがにロードリフターが付いていますね。

前原 欧米の人って骨盤の前傾が強いから背骨が反っていてザックが自然に腰に乗るけど、日本人って背骨がまっすぐの人が多いので荷物を載せてもストーンと落ちる人が多いんですよ。そういうのがあるのかもしれないけど。

渡部 なるほど体型の違いか。

⑧ MOUNTAIN LAUREL DESIGNS - Exodus 55L | 3500 CI

老舗ULブランドの伝統的フレームレスザック

容量:55L
重量:510g
メイン素材:ウルトラグリッド200D
構造:フレームレス

https://mountainlaureldesigns.com/product/exodus-57l/

三田 では次はマウンテンローレルデザイン(以下MLD)のエクソダス。MLDはゼロ年代から活動を続けている老舗のULギアブランドで、当時はホームページのトップに「いまロングトレイルを歩いてるんで2ヶ月後までオーダーできません」なんて書かれてたりしているような筋金入りのガレージブランドだった。このエクソダスは55Lといういちばん大容量なザックだけど、フレームレスで背面パッドもないペラペラな構造。生地はアップデートされてるけど、デザインはずっと昔から変わらない古き良きアメリカンULザックって感じだね。このウルトラグリッド200dってのはどういう素材なんですか?

渡部 超高分子量ポリエチレン素材をリップストップに織り込んだダイニーマXグリッドと似た生地で、このウルトラグリッド200dはリップストップを二重に織り込むことで競合する素材より生地強度を高めたということだと思います。ただ、山と道で独自に生地の比較テストしたときの検査結果は従来のダイニーマXグリッドなどと比べて特段高くはなかったですね。

前原 これこんなに吹き流し長い意味あるんですか? 上まで詰めたらめちゃくちゃバランス悪そう。

55Lの容量のかなりの部分を占めると思われる長いロールトップ。MLDではもっと小さい38Lや48Lのモデルも同じデザインと対荷重(最大12kg)なので、ロールトップの長さのみで容量を変えているのだと思われる。

三田 メーカーのサイトを見るともっと小さいサイズのモデルも同じ対荷重なんで、たぶん55Lに常時パンパンに背負うような設計というよりは、ロングトレイル中とかにたまに補給の少ないセクションでたくさん積む時があるようなのを想定しているんじゃないかな。55Lだけど、山と道なら大型のONEより中型のTHREEとかぶってくるようなザックだと思う。

前原 (背負ってみて)あ、ヒップベルトの感じはいいですね。めちゃくちゃいいっすよ。これ。ロードリフターないけど良い感じです。逆にフレームないからかな。まったく違和感ないです。ちょっと肩に荷重感じるけどボンファスよりしっかり腰に乗ってて、ロードリフターもないけどちゃんと背中に荷物が寄ってる感じもあって。

三田 へ〜意外! なるほどMLD…

前原 恐るべしって感じですよ!

渡部 (背負ってみて)本体はペラペラだけどショルダーは厚みがあってしっかりしてますよね。背面もパッドが入ってないと柔らかいから体に沿うんですよね。どっちかというと自分はTHREEの方が一体感があるかな。でも全然嫌じゃない。結局本体はただの袋でもいいってことなのかな? 

前原  だと思います。

三田 とはいえただの袋とはいえ幅とか長さとかフォルムとか、いろいろあるんだろうけどね。

渡部 袋へのショルダーストラップのつけ方も重要ですよね。

前原 でもTHREEより軽いですよね。510gなんで、THREEより100gくらい軽い。

渡部 THREEの方が背負い心地重視で豪華な仕様になっていますけど、切り詰めてもこのくらいの背負い心地にできるんだな。

トップストラップはベアキャニスターをしっかり抑えられるようY字になっている。MLDに限らずアメリカ製のULザックでは定番のディティール。

三田 (背負ってみて)まだヒップベルト閉めてないけど、ただ背負った時点ですごく良い。しっくり来てる。(ヒップベルトとショルダーストラップを締め)ああ、違和感ないわ。ショルダーストラップの厚みやクッション性もすごく良い。フレームも背面パッドもないとは思えないくらい、ちゃんとかっちり背負えている。

渡部 ショルダーストラップはこれまで試した中でもいちばん厚いんじゃないかな。

三田 このS字のフォルムもいいな。今回背負ってきて思ったけど、やっぱりショルダーストラップはS字の方が良い。後ろに引っ張られる感もない。ペラペラのフレームレスザックなのにね。アトムスパックはフレーム入りなのにすごく後ろに引っ張られる感あったけど。

前原  何でなんだろう。逆にこの容量でロードリフターがなくてもここまで背負いやすいのが意外ですね。

三田 正直、失礼ながらこいつにはまったく期待してなかったけどな。過去の遺物かと思ってた(笑)。フレームないのにこれだけ背負い心地がいいってのはびっくりだな。

前原 長年メーカーとして生き残っているのもそういう理由なんですかね。これだったらここにベアキャニスター積んでもちゃんと背負えそう。でも最大荷重は12kgまでだから、まあそんな感じですよね。それ以上になるとバランス崩れそう。

三田 フレームやパッドがあることが背負い心地の良さの絶対的な条件ではないというのは結構意外だ。面白いな。

⑨ Z-PACKS - Arc Haul Ultra 60L Backpack

背面が蒸れないロングトレイル用ULフレームザック

容量:60L
重量:606g
メイン素材:ウルトラ200
構造:フレームザック

https://zpacks.com/products/arc-haul-ultra-60l-backpack

三田 では次はいよいよZパックスのアークホールウルトラ60L。アメリカのZパックスはDCFやウルトラ200などの高性能生地を使った超軽量ギアを作るスルーハイカーのためのブランドで、初期にはキューベンファイバー製のまさにゴミ袋にしか見えないザックなんかも作っていて、あれは衝撃的だった(笑)。なかでもフラッグシップ的な存在のこのザックはフレーム内臓で、さらにUL系としては珍しい背面が空気を通す構造。これはずっと背負ってみたいと思ってた。

渡部 これも素材はウルトラ200です。ショルダーパッドは柔らかめだけど、形はS字で良い感じですね。

三田 フレーム入り60Lで606g。軽いなー。見た目や仕上げはいなたいけど、いろいろ独自機構が詰まっていそうだよね。

前原 縦に2本カーボンのフレームが入ってて、横方向に3本それを繋ぐ樹脂製のステーが入ってますね。

渡部 カーボンのフレームも強靭そうで、これなら折れない気がする。

カーボンフレームはザック両端に露出した形で配置され、3本の樹脂製のステーで繋がれている。ストラップと縫い合わされたメッシュが背面を支える構造。

前原 (背負ってみて)これはなんかいい感じの気配がします。フレームが若干肩甲骨に当たってる感じがするけど、ちゃんとフレームを感じて、安定感がめちゃめちゃあります。ONEよりもフレーム感があるかな。

三田 最大荷重が18kgまでとあるから、かなりの自信だよね。それでTHREEよりも軽い606gというのはすごい。

前原 その重量で言ったらめちゃくちゃ背負いやすいと思います。たしかにアメリカでZパックスが人気ある理由もわかるな。MLDは昔からのULザックって感じだけど、これはいろんなギミックがついていて、最新型って感じですね。肩甲骨にショルダーの基部がちょっとあたる感じはあるけど、荷物が軽く感じる。

渡部 背面にザックとの間にスペースを作るためのストラップがついてるんで、そこが当たってるのかな。

前原 ここを閉めたら当たらなくなるかも。(調整し直して)うん、さっきより不快感が減った。荷重がどこか1箇所にかかってるのでなく全体で背負っている感じがします。でもこの背面のメッシュって意味あるんですかね? 無い方が涼しそう。

三田 このメッシュで背面を支えているんだとは思うけど、ストラップがあれば背負うことはできそうですよね。

ショルダーストラップは背面側の基部2箇所とロードリフターの計3箇所で吊る構造。

渡部 (背負ってみて)うん。確かに。あと5〜6kg入れても快適に背負えそう。

前原 一般的なフレームザックみたいに腰荷重ドンってのとも違いますね。背中全体で背負ってる感じ。THREEにも近いけど、より肩の負担が少なくて腰でも支えられるから、ONEにより近い感じ。

渡部 ONEに近いですね。3分の2くらいは腰で荷重できてて、肩パッドをあまり意識しない。背面は空いているけど腰に乗っている感がすごいから嫌な感じはしないですね。これでも全然走れると思う。

前原 自分も以前オスプレーの背面が空いてるザックをテアラロア(注:ニュージーランドを縦断するロングトレイル)を歩いたときに使ってて、一緒に歩いた妻はTHREEを使ってたんですけど、背中の濡れ方は全然違いましたね。やっぱりTHREEだとびちょびちょになって、なかなか乾かなかった。これは欲しいな〜。

背負ってみると、このように背面にスペースがあいている。

三田(背負ってみて)ああ、確かにフィット感良いし、後ろにも引っ張られない。このショルダーストラップの形も良いね。今回いろいろ背負ってみて、やっぱりショルダーストラップはS字の方が良いと感じたな。腰全体っていうかザックのボトムと腰が当たってる部分に荷物がグッと乗ってる感じで、確かにまだまだぜん背負えそう。これはいいな。背面も涼しそうだし、確かにロングトレイル歩くなら使ってみたいかも。

渡部 ヒップベルトのしっかり具合がすごいもんな。全然疲れなさそう。

前原 本体のボトムとヒップベルトを繋ぐストラップがついてないけど、それでヒップベルトはしっかりしてるのに腰回りが自由な気がするんですよね。あと、この腰にちゃんと乗ってる感じって、このいちばん下のステーがヒップベルトの中を通っているからかもしれませんね。

三田 だからボトムとベルトを繋ぐストラップがなくても大丈夫なのかも。あと、このフレームってよくよく考えると外に露出したアウターフレームだよね。ザックのフレームってアウターフレームからインナーフレームに進化した歴史があって、現代ではアウターフレームザックは過去の構造ってイメージなんだけど、それをULザックと融合させて、見事に現代的なスペックのザックとして生まれ変わらている

前原 だとしたらむちゃくちゃ考えられてますね。

ステーがヒップベルトの中を通っているせいか、荷重が腰にしっかり乗る。

三田 フレーム内蔵なのに606gしかないってのも、アウターフレーム構造で袋のデザインを簡略化して、使用生地を少なく抑えられているってのもあるのかも。試作品みたいな荒削りな見た目だけど、ほんと見れば見るほど考えられている。

前原 でも俺には美しくみえるな。スタイリッシュ過ぎないところが逆にいい。

三田 Zパックスはやっぱそこが魅力だよね。これはおすすめだ。いま9kg近く背負っててもフィーリング的には6〜7kgくらいに感じる。しかも軽くて背面涼しくて防水性も高いんだからな。ロングトレイルを歩くには死角のないザックにさえ感じるよ。

⑩ GOSSAMER GEAR - Mariposa 60 Backpack

ザ・ロングトレイル用バックパック

容量:60L
重量:962g
メイン素材:70D ロビックリップストップナイロン
構造:フレームザック

https://www.gossamergear.com/collections/backpacks/products/mariposa-60-lightweight-backpack

三田 で、最後を飾るのがゴッサマーギアのマリポサ。ゴッサマーのラインナップでも大型のモデルでフレーム入りで962g。これぞゼロ年代〜10年代のロングトレイル・バックパックって感じだよね。

前原 超有名なマリポサですね。(背負ってみて)悪くはないけど背中から離れる感じがあるな。なんでだろ。ザックがくの字に折れ曲がってる感じ。

三田 フレーム入ってるのにね。

前原 これは腰荷重するよりも上の方で背負ってる方が好きかも。

背面にはゴッサマーギア共有のディティールである取り外し式の背面パッド付き。ショルダーストラップやヒップベルトにはしっかりとしたパッドが入っている。

渡部 (背負ってみて)若干私には背面長が長すぎるかも。このくらいの重さならそんなに嫌じゃないですけど、腰荷重はできているけど腰に1点で刺さってる感じなんですよね。尖った四角い板が当たってる感じ。

三田 フレームの下端が当たってるのかな。

渡部 そうかもしれない。だからすごく重くなるともっと刺さるかも。でも前原君ほどはネガティブな印象ではない。

三田 (背負ってみて)なるほど。俺も別に悪くはない。でも、ザックのボトムが腰より下に垂れ下がっていて荷重が下に行ってる気がするな。もっとボトムのラインが上に向いてる方が良い気がするんだけど。でもゴッサマーは初代のG4の頃からザックのボトムはあえて大きめに作ってそこに寝袋をあまりコンプレッションせずに詰めることで荷重バランスを上げて腰のフィット感を高めるという設計をしていたので、そのDNAが生きているのかもしれないね。あと、これ背面長が若干自分にも長いかも。あと2cmくらい短い方がいいな。でもまあ、悪くはないよ。自分にはZパックスの背負心地のほうがあっていたけど、これはこれって感じもする。10kg近く背負ってこのくらい荷重してくれてるならまあ良いかも。このサイズでフレーム入れで1kg以下って、普通のザックに比べたら十分軽いし。

横から見るとボトムがやや垂れ下がっている印象。ただ、今回のテストでは同じ重さと体積のあんこを入れて同一条件で背負ってみるのが趣旨なので、そこに寝袋を詰めるなどの細かいパッキング調整は行わなかったことは留意してもらいたい。

まとめ

現在のULザックのトレンド

三田 10種類を背負い比べてみたけど、いや〜、勉強になったね。

前原 めちゃくちゃなりました。

三田 こうして比べて背負ってみることで、わかることもいっぱいあるよね。もちろんこれで全部がわかるわけじゃないけど。

渡部 他社研究は大事ですよ。

前原 ほんとですね。

三田 小さめのザックはFKT系ザックが多かったけど、その辺はどう感じました?

前原 袋の形もありますけど、ショルダーストラップの形とかつき方で全然違うんだと思いました。

三田 パランテとアトリエロングディスタンスは似たようなもんかと思いきや、全然違ったもんね。でもFKT系はまだこなれていないというか、完成形には至ってない気もしたな。

PA’LANTE – Joey

ATELIER LONGUE DISTANCE – Hybride EPL Ultra 200

渡部 肩回りにやたら収納つければいいってことじゃなくて、やっぱりショルダーとかボディとかとの関係性がちゃんとしてないと、結局背負いにくいというか。

三田 ヤーギアは癖がなくて、背負いやすかった。普通のバランスの良いULザックにちょいFKT的なディティールを追加した感じ。

前原 ほんとMINIに似てました。

渡部 ボトムとショルダーにポケットのあるMINI。でも好感の持てるザックでした。

三田 ボンファスもヤーギアと似た性格で背負いやすかったよね。

YAR GEAR – 28L Mountain Drifter

BONFAS – Iterus 38L

渡部 ショルダーストラップの作りが良かった。

前原 ヒップベルトなしで8kg背負っても快適でした。

三田 この辺をMINIと比べた時、MINIももう10年くらい前の設計のザックなんで、そこからどれだけトレンドは移り変わったのかな?
 
前原 素材の進化というか変化はめちゃくちゃありましたね。

三田 そうだね。ウルトラ200とかエコパック、ダイニーマメッシュとか。

前原 あとボトムポケットもトレンドですね。

ボトムポケットはもはや定番ディティール!?

三田 わかりやすいトレンドだよね。あとショルダーポケット。

渡部 肩のドリンクホルダーはもっとつけ方考えて欲しいなって思うのがありましたね。ちゃんと考えているのはファストクモとか、一部しかなかった。

三田 そうだね。全体的に腕に当たるのが多かった。

渡部 昔はトレラン系も腰まわりに収納するザックが多かったのが、最近は完全にベスト型になって肩や前面に収納って感じになっちゃってるんですよね。でも、そもそもこういう(少し大きい)容量だったら、腰に収納を作っても良い気もするんですよね。アトリエロングディスタンスとか特に思うけど、あの容量なら肩まわりに集中させなくてもいいんじゃないかな。すごくトップへビーになっちゃって逆に使いにくい気がします。

三田 この中で押すなら渡部さんはファストクモ?

Gossamer Gear – Fast Kumo

LITEWAY – Gramless Pack DCF

渡部 あれはショルダーの作りはいんですけど、袋はごちゃごちゃして使いにくい感じがあって。結局自分はMINI2にショルダーポケットをつけてで走るんじゃないかなって気がしましたね。パランテはあまり強い印象がなかったな。

三田 確かにパランテは影響の大きさは感じたけど、背負い心地がむちゃくちゃいいってわけでもなかったね。

前原 V2だったら印象は違うのかもしれないけど。

三田 でもこのクラスはウルトラ200みたいな防水性能の高い高機能素材で、フロントポケットがウルトラストレッチで、ショルダーとボトムにもポケットがついていてっていう形ができあがってる感じもあって、そこがちょっとつまらない気もしたな。素材もデザインも似たり寄ったりで、とにかく黒っぽいザックが増えた(笑)。

背負った瞬間に設計思想がわかるザック

渡部 THREEクラスは全体的にどれもなかなか良かった。

前原 アトムパックスがロードリフターがなくて残念ってくらいですよね。

三田 惜しかったよね。あとMLDは俺、好きだったな〜。こんなペラペラのザックでこんなに背負い心地よくできるんだっていう。フレームや背面パッドがあることが背負い心地の良さに直結していないというのは意外だった。

ATOM PACKS – The Atom+ EP

MOUNTAIN LAUREL DESIGNS – Exodus 55L | 3500 CI

渡部 そうですね。フレームがはっきり感じられるやつと、入ってたっけみたいなのもあって。

前原 でもMLDにはロードリフターついてなかったですけどね。

渡部 あのただの袋をバランスさせるのはショルダーのつけ位置とかが巧みなんでしょうね。

三田 あとZパックスは中でも飛び抜けたものを感じたな〜。。

前原 突出してましたよね。

渡部 15kgくらいはいけそうな感じでしたよね。

三田 自重も606gしかないから、もっと軽い荷物で使っても良さそうだもんね。この背面が快適なら1泊2日とかでも使う意味がある。

前原 背面にギミックモリモリで606gというのはやっぱりすごいですよね。ハーネスのつけ位置も肩甲骨から入ってくる感じで、あれがめちゃくちゃしっかりしてる。

Z-PACKS – Arc Haul Ultra 60L Backpack

GOSSAMER GEAR – Mariposa 60 Backpack

三田 で、ゴッサマーギアのマリポサはやっぱりなんだかんだ伝統を感じたな。もうちょい上の方に荷重がいけばいいのになってのはあったけど。

渡部 ふっくらとした背負い心地で悪くはなかったですけど、ULザックって感じはしなかったな。

三田 全体を通して、色々背負ってみて気づいたことってありますか?

前原 外見はどれも同じというか、近くなっていますよね。フロントにでっかいポケットがあって、サイドポケットがあって、そのベースはそのままだけど、小さいサイズに関してはショルダーのつき方とか形がめちゃめちゃ大事な気がしました。大きいのはヒップベルトがしっかり機能するバックパックだと、フレームもそうだしショルダーの位置もそうだし、ロードリフターもそうだし、より複雑な微調整が必要なんだなってのをすごく感じましたね。

渡部 背負った瞬間に設計思想がわかるザックというか、これは肩だけで背負うんだなとか、肩と腰に分散させるとか、腰荷重重視だなとか、それが背負ってすぐにわかるようなザックはやっぱり快適なんだなって思いました。別に肩荷重だろうが腰荷重だろうが、それがわかるザックはよくて、逆にどっちかわかんないやつは色々調整しても結局合わないみたいな。その辺の設計思想と実際のものがバチっとはまっているザックは良い印象だったように感じます。

実際のテストの様子。

前原 確かにファーストタッチは重要かもしれませんね。

三田 それが翻ることはなかったもんね。背負った瞬間ピタッとくるのはどれも良かった。

渡部 ショルダーストラップに関してもS字が良いというのはあらためて感じましたね。

三田 S字のはどれも良かった。

渡部 一方でパット自体の厚みとか硬さは今回背負った感じではそんなに差がわからなかった。

三田 長時間背負ったら差が出るのかもしれないけど、ピタッとくるかどうかはやっぱ適切な幅と角度でいいシェイプでっていうのが結局ものをいうのかな。

渡部 ぺらぺらでも形が良ければそれでいい。

三田 やっぱショルダーストラップは大事。

前原 めちゃくちゃ大事ですね。

三田 それも今回強く感じたな。

渡部 クルマの設計でもボディよりまずシャーシからってのがあると思うんですけど、同じシャーシで別のボディの車っていっぱいあるじゃないですか。バックパックの場合はショルダーストラップと腰の形、あとフレーム入りであればその構造ってのをちゃんと考えて、あとは外装みたいな感じかもしれないですね。Zパックスはそんな感じがしましたね。

三田 あと、MLDがなんであんなに良い感じだったのかも謎。あれだったらスリーも背面パッドとかなくても良い気がしたくらい。ボンファスとかヤーギアも似た感じで、どれもよかったけど、MLDはより背負った瞬間ピタッと来た。

前原 フレームレスザックの真髄を感じたな。

三田 感じたね〜。10kgくらいまでだったらフレームレスでも全然やりようがありそうだよね。

渡部 背負い心地はアメリカの多少歴史あるメーカーはさすがだなって感じましたね。ヨーロッパの新進系はいまひとつ合わないっていうか。

三田 確かに。これはいいってのはアメリカ製が多かったかも。

前原 その辺はまだUL発祥国であるアメリカにアドバンテージがあるのかもしれないですね。

三田 あと今回背負ってみて、現在の世界のULバックパックの潮流と山と道のバックパックは、良くも悪くも少し違うんだなというというのも感じた。こうしてみると山と道は生地使いも独特だし、背面パッドとか背面メッシュがあるのも最早珍しいよね。だからって安易にウルトラ200とかウルトラストレッチ使ってボトムとショルダーにポケットついてるようなザック出すのも、ちょっと違う気がするしな。今日見てきたようなことがいま開発中の新しいザックにどう反映されるのか、されないのか、楽しみだね。それでは、最後に僭越ながら今回我々が特に感銘を受けたザックをそれぞれ挙げさせてもらって終わりにしましょう。お付き合いいただきありがとうございました。

THE BACKPACK TEST 2023 テスター3人のベスト3

前原秀則のベスト3

1. Z-PACKS – Arc Haul Ultra 60L Backpack
フレームがむき出しで無骨な背面に思えるが、肩甲骨を含む広範囲にショルダーパッドが支えられていたりと細部のこだわりも感じた。これひとつあれば、泊数関係なしに使えそう。

2. BONFAS Iterus38L
バックパック自体も軽いのに、8kgの重量をヒップベルトを使わずに上半身で快適に背負える背負い心地に感動を覚えた。足捌きがよりシビアな雪山で使ってみたい。

3. MOUNTAIN LAUREL DESIGNS – Exodus 55L | 3500 CI
パーツ構成も最小限でシンプルなつくりなのに、身体に負担のない背負い心地でフレームレスの真髄を感じた。まさしく思い描いていたULバックパックな感じ。

渡部隆宏のベスト3

1. Z-PACKS – Arc Haul Ultra 60L Backpack
強靭なフレームと背面の構造がすばらしい。10kg以上入れても快適であろうと感じさせるしっかりとした背負い心地や、背面にエアが通る機能性に加え、デザインも好み。背面はメッシュ生地を外しても問題ないんだろうか?より涼しく背負えそう。

2. BONFAS Iterus38L
個人的にも欲しかった、MINIとThreeの中間的な用途に使えそうなザック。デザインも背負い心地もよい。実際MINIだと小さいけどThreeは大きいな…という場合は割と多く、いろいろな場面で使えそう。

3. GOSSAMER GEAR Fast Kumo
凝ったディティールと身体と一体化するような背負い心地で、ある程度の重量を背負っても問題なく走れそう。デザインはだいぶゴテゴテしている。せめてカラーリングがもうちょっとシックなら…。

三田正明のベスト3

1. Z-PACKS – Arc Haul Ultra 60L Backpack
ULザックと言って良い重量にフレームザックの背負い心地。相反する要素が高い次元で組み合わされた非常に完成度の高いザックに感じた。ロングトレイルを歩くならまず選択肢のトップに来る。

3. MOUNTAIN LAUREL DESIGNS – Exodus 55L | 3500 CI
意外なほどの背負い心地の良さ。基本設計は古いが、現在でも温故知新や骨董趣味意外にも積極的に選ぶ理由がある完成度に感動。いつか欲しい。

3. GOSSAMER GEAR Fast Kumo
ショルダーストラップの完成度の高さとピタッと来る背負い心地。見た目は好みでないが、こいつの容量やスタイルにぴったりな旅をしてみたいと思わされる。

三田 正明

三田 正明

フォトグラファーとしてカルチャー誌や音楽誌で活動する傍、旅に傾倒。 多くの国を放浪するなかで自然の雄大さに惹かれ、自然と触れ合う方法として山に登り始める。 気がつけばアウトドア誌で仕事をするようになり、ライター仕事も増え、現在では本業がわからない状態に。 アウトドア・ライターとしてはULハイキングをライフワークとして追い続けている。 取材活動のなかで出会った山と道・夏目彰氏と何度も山に行ったり、インタビュー取材を行ったり、酒を酌み交わしたりするうちに、いつの間にかこのようなポジションに。 山と道JOURNALSを通じて日本のハイキング・カルチャーの発展に微力ながら貢献したいと考えている。