特別編:HLC東北Wアンバサダー対談(上野裕樹・栗波康治)
特別編:HLC東北Wアンバサダー対談(上野裕樹・栗波康治)
HLC北海道と同じく、新アンバサダーに栗波康治を迎え、上野裕樹とのアンバサダー2人体制となる2025年度のHLC東北。これは北海道アンバサダーの峠ヶと同様に、これまでHLC東北を引っ張ってきた上野が、今季限りでアンバサダーを卒業することを踏まえた移行期間であるからです。
そこで先日公開したHLC北海道のWアンバサダー対談に続き、上野と栗波にHLC東北のこれまでとこれからを大いに語ってもらいました。HLC東北の濃密なコミュニティやアットホームな雰囲気がどう形作られてきたのか? 新アンバサダー栗波のパーソナリティは? などなど、これまであまり語られてこなかった内容になっていますので、HLC東北にご興味のある方はぜひお付き合いください。そして新アンバサダー栗波を、どうぞよろしくお願いします。

左:上野裕樹 1976年生まれ。10代の頃 ニューヨークに渡りダンスとブラックカルチャーにどっぷりはまり、帰国後、山の奥深さに魅力され石井スポーツで働きだす。ハイキング、バックカントリースキー、クライミング、マウンテンランニング、沢登りとオールシーズン自然を楽しむ。岩手県紫波町にアウトドアショップ『Knotty』を立ち上げ、「自然」「山」「人」とのGROOVE感を求め日々精進中。
右:栗波康治 1977年生まれ。以前は全国を転勤していたが、東日本大震災での被災を機に食の大切さを痛感し、脱サラして移住、農業の道へ転身。「みちのく潮風トレイル」との出会いをきっかけにHLC東北の活動に参加し、HLC東北での仲間との出会いを通じて、毎週のように山に行くようになる。こうしてハイキングの魅力にすっかりハマり、現在はULハイキングを通じて感じた自由や自然との一体感、仲間とのつながりを共に分かち合うため、活動を展開中。
HLC東北の6年間
——まず、おふたりから読者の皆さんへの自己紹介をお願いします。
上野 はい。HLC東北アンバサダーの上野です。普段はKnottyのオーナーをやっています。Knottyは今年で9年目、アンバサダーは6年になりますかね。うん。
栗波 新しくHLC東北のアンバサダーになる栗波です。僕は出身が埼玉なんですけど、ずっと転勤で回ってて、兵庫行ったり、神奈川行ったり、宮城行ったりとかで、最終的に盛岡で脱サラをして移住をしたんです。そこでみちのく潮風トレイルに興味を持って、Knottyにみちのく潮風トレイルのマップが置いてあるって聞いて、Knottyと繋がったっていう感じですね。それで上野さんに「山と道HLCっていうのがありますよ」って教えてもらったのが3年前。そこからもうのめり込んでしまって、貯金全部はたいてギア全部揃えて(笑)。

——じゃあ、山を歩き始めたのもその頃から?
栗波 本格的に始めたのはそうです。それまでも年に数回ぐらいは行ってたんですけど、ULっていうスタイルを知って、ギアをガラッと全部変えたら、めちゃくちゃ軽くて面白くなって、それですごく歩くようになったっていう感じなので。もう、登山やハイキングの考え方が180度変わりましたね。
——先ほど上野さんが言われた通りHLC東北も今年で6年目なんですけど、上野さんはこの6年間を振り返ってどんな感じを受けますか?
上野 最初はやっぱり何もなかったんで、一体何をやっていけばいいのか、いろいろ戸惑うことはありましたね。でも、やっていくうちに人が繋がっていって、うちのKnotty(結び目)って名前もそういう由来からきてるんですけど、どんどん形になっていったんですね。気づいたら6年間はあっという間でした。
——やっぱり変化もいろいろありましたか?
上野 ありましたね。でも変化というか、進化してきたって感じですかね。それも本当に自分だけじゃなくて、みんなの力で進化してきたというか。自分だけで構築してきたっていうのはまったくなくて、みんなに構築してもらったっていう感じです。参加してくれる人はちょくちょく入れ替わっていったんですけど、やっぱり変わらないところもあって、HLC東北の源流というか、最初の方からずっと来続けてくれている人もいて、広がっていったっていうか。



——栗波さんは3年前から参加されたとおっしゃってましたが、その頃に自分も2022年の『裏岩手縦走路2泊3日ULハイキングプラクティス』のプログラムに参加して、一緒に歩きましたよね。
栗波 三田さん(筆者)とあの裏岩手歩いたのって、僕がHLCに参加して結構最初の方だったんですけど、めちゃくちゃ緊張してましたね(笑)。当時の自分には3泊って結構チャレンジングで、その中で上野さんとかHLCの常連の皆さんが気さくに話しかけてくれて、「すごく楽しい!」ってなって(笑)。下山が近づくにつれて寂しい気持ちになるくらいでした。それから3年間、行ける限りは参加していたんですが、HLC東北って上野夫妻っていう軸があって、そこにみんなが集まって、あまりガツガツしないで、ゆるくみんなで歩いていくっていうのがすごく心地が良くて。そういうハイキングというか、そういうHLCだったなって、いま振り返って思います。それはすごく参加しやすかったですね。
——そうですね。自分もHLC東北のプログラムには何度か参加させてもらいましたけど、やっぱりあっこさん(上野の奥様であり、Knottyの店頭に立ち、HLC東北のプログラムにも毎回参加している上野明子さん)もいてこそのHLC東北というか、上野さんがいて、あっこさんがいて、その間にみんながいるみたいな。
栗波 そうそう、そうなんです。
——ね。上野家に入れてもらえるみたいな感じの安心感。
上野 確かにそれは出ちゃうかもしれないですね。夫婦だと。
——あっこさんがいなくて、上野さんひとりだったらまた全然違うものになってたんじゃないかなって。
上野 確かにそうですよね。
2022年「裏岩手縦走路 2泊3日ULハイキングプラクティス」のYouTube動画
安比高原をスタートし、八幡平から裏岩手縦走路に乗って三ツ石山へ。さらに乳頭山、秋田駒ヶ岳へと県を跨いで縦走したプログラム。テント泊禁止のエリアが多い東北だが、そのぶん避難小屋を利用することで大胆な軽量化を計り、通常は3泊4日ほどのルートを2泊3日で縦走することに挑戦した。濃密なコミュニティを持つHLC東北らしく、参加者は総勢12名。終始雨の多い3日間だったが、終盤になっても口々に「もっと歩いていたい!」と言うほど参加者の笑顔が途切れることがなかった。動画には上野・明子さんの他、参加者として栗波も登場している。
アンバサダー卒業の理由
——そんな6年間を経て、2025年は来年のアンバサダー交代に向けて2人体制でやっていくんですが、上野さんは今回のアンバサダー卒業にどう思いが至ったのか、教えてもらえますか?
上野 去年、2024年ですか。まあ、ガンになりまして。アウトドアアクティビティとの付き合い方もやっぱり変わりましたし、良い意味でも悪い意味でもいろいろありました。で、そこからやっぱり考え方も変わりましたし、自分がやってきたことも考えるようになって。で、やっぱり存在が見えてきたし、もし病気にならなかったらその存在も見えないまま、そのまま続いてただけだったと思うんですけど、良い意味で「これは次のステップなのかな」と思ったんです。
——「存在が見えてきた」っていうのは?
上野 やっぱり病気になると物事が止まるんで、初めてその時に「これまでやってきたことを次に繋げていきたい」っていう気持ちが出てきたんです。ウチは子供がいるわけでもないので、それまで誰かに繋げていきたいっていう気持ちを持ったことがなかったんですけど、そういう気持ちになれたことも逆に感謝かなって。それで「HLCも誰かに繋いでいきたいな」と思った時に、栗ちゃんの存在が見えたんです。
——HLC東北をずっと自分のものにしておくのではなくてね。
上野 そうですね。繋げて、これをずっと継続していきたいなと思えたので。自分が継続していくという道もあったとは思うんですけど、病気をしたことで、バトンタッチして継続していくという形を模索できたし、一歩引くとまた違う目でも見れるんじゃないかなって。もう年齢も48、9になるんで、ちょうど良いのかなって。でもHLCは、自分の人生としてすごく良い経験をさせてもらいました。

俺でいいんですか⁉︎
——そういった心境になった時に見えたのが栗波さんだったっていうのは、どの辺がポイントだったんですか?
上野 やっぱり人間性と、あと前向きなところ。常にポジティブなんで、やっぱりそこがいちばんですね。あと、彼はアクティビティもいろんなことをやるんですけど、いろんなことやる人の方が良いなと思ってたんで。それっていろんな人と付き合ってきた証拠でもありますし。いろいろやってる人の方がやっぱり引き出しが多いので。そういう意味でも良いなっていうのはありましたね。
——でも、それはもう栗波さんにしたら青天の霹靂でした?
栗波 そんな感じでしたね(笑)。もう、思いもよらなかったんで。「え、俺が⁉︎ 俺でいいんですか?」っていうのは多分ひと言目で言ったと思うんですけど。もっと経験積んでる人もいるし、僕なんてまだ3年しかULスタイル経験してないし。「絶対なめられますよ、俺」って上野さんに言ったんですけど、「そういうことじゃないんだよ」って言われて。でも、それはそれで、参加者の方と同じような目線だからできることもあるのかなって思い直したって感じですね。
——HLCはいわゆる一般的なガイドツアーとは異なる取り組みですからね。
栗波 HLC東北は自分より経験ある人も多くて、でも逆にその参加者から教わるようなスタイルでも良いのかなって。
上野 結局そういうコミュニケーションが生まれればいいわけだからね。
栗波 上野さんにそう言われて、それもHLCなのかなって思ったりして、そういう気持ちの切り替えをして少し気が楽になりました。最初はもうガチガチだったんですけど(笑)。
上野 ね、そういう教わるタイプのアンバサダーでも良いのかなと。でも、栗ちゃんは芯はちゃんと持ってますよ。

——HLC北海道の、今年から東北と同じくWアンバサダー体制になる峠ヶさんと沼田さんも同じようなこと言ってましたね。
上野 そうなんですね。
——(初代のHLC北海道アンバサダーの)峠ヶさんもやっぱり始めた時はそんなにULに詳しかったわけじゃなかったけど、コミュニティと自分が一緒に成長していった感じだったと。それで5年経って、コミュニティもすごく育ってきたから、そろそろ次の人が引っ張っていくんでもいいんじゃないかと思ったと。
上野 やっぱり実際、同じような年月を過ごしてますからね。ヨシさん(峠ヶ)の方がちょっとだけ短いかもしれないけど(編注:HLC北海道はHLC東北の1年後に発足)、でも同じっすね。
——ね。それをやってきて4、5年経つと、あ、やっぱりこういう考えになるんだなってお話を聞いてて思いました。それにアンバサダーにしても、ULのエキスパートじゃないとなれないよっていうことだと、ちょっとコミュニティとしても続けていくのが難しい場合があるかもしれないじゃないですか。それだったらまずHLCの各エリアのコミュニティがあって、そこで成長していった人がそれを引き継いでいくっていうのもありなのかなって。
これからのHLC東北
——そして今年はHLC東北はWアンバサダー体制でやっていくわけなんですが、実際はどうなっていきそうですか?
上野 基本的には栗ちゃんに前に立っていただいて動いていって、しっかりバトンタッチできればなと思います。まあでも僕も歩きたいんで、来年以降も普通に「行きたいんだけど」みたいな感じで参加できればと思っています。そうやって気楽に参加するような立場だったら行きたいな(笑)。でも、確実に僕とはまた違う新しい流れがあるはずなんで、それを僕は望んでいます。最初は僕の身内から4人ぐらい集めてHLCを始めて、奥さん含めて5人ぐらいだったんで。それがここまで大きくしてもらったんで、それをまたやってくれるのを見てみたいなと思ってます。うん。
——これまでは上野さんとあっこさんがHLC東北のお父さんとお母さんだったのが、これからはおじいちゃんとおばあちゃんになるみたいなイメージですかね(笑)。まあ自然と上野さんが相談役みたいなノリでやってく感じになるんですかね。
上野 そうそう。栗ちゃんもここ(Knotty)に来てちょっと相談したりして。朝、週3とかでホームゲレンデで栗ちゃんと滑るんですけど、リフトで話すんですよ。「どうして人が集まらないんですかね」とか(笑)。僕はずっと斜面見ながら「こうなんじゃない?」みたいに返して。
栗波 上野さんはゲレンデで遊びたいのに、僕が仕事の話してるから、のびのび滑るの楽しみたいのにって思ってるんだろうなって思いつつ(笑)。
上野 でも正直、頻繁に会えるっていうのも新アンバサダーの候補にあったので。栗ちゃんはお店にも頻繁に来てくれるし、コンスタントに会えるし一緒に遊ぶこともあるので、密にいろいろできるじゃないですか。なので、そこで細かく会えたのがやっぱ良かったすね。彼をよく見れたんで、それはやっぱりひとつ、「この人だ」って思う要素ではありました。
——これまでのHLC東北ってKnottyというお店の存在も場所として大きかったと思うんですけど、それはこれからも引き続きなんでしょうか。
上野 HLCプレイスとしては変わらずにやっていければなと思います。基本的には何も変わらないっていうわけじゃないですけど、変わんないっすね。



——運営を引っぱっていくのは栗波さんに変わるけど。
上野 多分これまで通りやる感じですかね。うん。でもこういう存在の方が近くにいてくれて良かったなと思います。なかなか他のアンバサダーさんも、もし引き継ぐってなった時に、近くにいる人って実はいないんじゃないかな、大変なんじゃないかなと思ってるんで。まず関係性を築くところから始めなきゃいけないですからね。
——栗波さんはこれからどんな風にやっていきたいなと思いますか?
栗波 そうですね。4月12〜13日でミートアップハイキングがあるんですけど、募集開始してから2〜3週間経つのに応募が芳しくなくて、ちょっと心が折れそうな(笑)。でも3月にもミートアップハイキングがあって、そっちは「上野さん今回が最後じゃん」ってみんな思っているのか、もう13人くらい応募があるんですよ。「違うよ! 全然最後じゃないよ!」って(笑)。でも、上野さんから「俺も最初は4人からだったよ。そこから自分のコミュニティを作っていくんだよ」って言われて。
上野 それは楽しんだ方がいいから。
——そうですね。上野さんのコミュニティを引き継ぐっていうよりかは、また作っていくんだという気概も大事ですね。
栗波 今年度は自分でできることを1年通して発見していく年にしたいなっていうのと、まずは少人数でもコミュニティを創り上げていきたいなっていうのはあります。自分の色は出していきたいですけど、上野さんのDNAも引き継ぎたいと思っているので、参加された方がどこかと繋がる、誰かと繋がるっていうのを大事にしていきたいと思っています。

右が本文中にもある通り、HLC東北の「お母さん」として多大なる貢献をしてくれたKnottyの上野明子さん。上野さん共々、引き続き今後ともよろしくお願いします!
HLC東北 2025年度プログラム
4月12日(土)ー13日(日)
【LIFE & COMMUNITY】HLC東北1泊2日ミートアップハイキング
5月11日(日)
【BASIC】ULハイキング入門講座(ドライフラワーショップとわか / 紫波)
6月20日(金)ー22日(日)
【PRACTICE】ボルケーノトレイル2泊3日ULハイキング
8月2日(土)-3日(日)
【LIFE & COMMUNITY】HLC東北・HLC北関東・HLC鎌倉1泊2日ミートアップハイキング
9月27日(土)ー28日(日)
【BASIC】みちのく潮風トレイル1泊2日ワークショップ
11月9日(日)
【BASIC】ULハイキング入門講座(ドライフラワーショップとわか / 紫波)
3月14日(土)ー15日(日)
【AMBASSADOR’S SIGNATURE】五葉山1泊2日雪山小屋泊ハイキング