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山と道トレイルログ

コックさんがわのULハイキング研修

発酵しながら歩く、おいしいハイキング(阿蘇山3泊4日)
文/写真/イラスト:寒川奏
2025.02.11
山と道トレイルログ

コックさんがわのULハイキング研修

発酵しながら歩く、おいしいハイキング(阿蘇山3泊4日)
文/写真/イラスト:寒川奏
2025.02.11

社是としてスタッフには「ハイキングに行くこと」が課される山と道。「願ったり叶ったり!」と、あちらの山こちらの山、足繁く通うスタッフたち。この『山と道トレイルログ』は、そんなスタッフの日々のハイキングの記録です。今回は、『コックさんがわのピクニックキング記』でもお馴染みの山と道コックの寒川が、社内の「ULハイキング研修制度」を利用して熊本県の阿蘇山とその周辺を3泊4日歩いた記録をお届けします。

何よりも食べることが好きな寒川が目指すは、歩くほどにおいしくなるハイキング。「発酵」に目を付けてワクワクした気持ちで材料を揃えますが、歩き始めた彼女に「孤独」という大きな試練が立ちはだかります。どんなに魅力的なご飯ができても、ひとりで食べるのはおいしくない⁉︎ 不安に押し潰されそうになりながらも歩みを進めた彼女が、この旅で見つけた大切なものとは?

はじめに

私は山と道の社員食堂で料理人を務めている。私の仕事は山と道スタッフの、健康で楽しい毎日とハイキングへの活力をサポートすることだと自負している。

山と道で働いていると、「先週この山でこんなご飯を持っていった」などという話を時々耳に挟むが、それは大抵袋ラーメンだったり、アルファ米だったり、とても食欲がそそられるものではない。軽さ重視なのだから、歩くことが目的なのだから、しょうがないのはわかる。でも、自分だったら全然モチベーションが上がらないし、ご飯がおいしくないならハイキングには行きたくないかもとさえ思ってしまう。

おいしいご飯を先に考え、悩んでしまうがゆえにハイキングが少し億劫になってしまっていた私にぴったりの「ULハイキング研修」という制度が山と道には存在する。「ULハイキング研修」とはスタッフが自らテーマとハイキングコースを決め、実行することで、ULハイカーとしての成長発展を目指す研修制度である。

私は食いしん坊だ。食いしん坊の楽しみは食べること。「食」が中心のULハイキング研修、名案すぎる! ご飯を持っていくためなら他の荷物を軽くするし、重くても頑張れる。こんな経緯で私は「ULハイキング研修」を利用し、「食」が中心のおいしいハイキングを実行することに決めたのだ。

おいしいハイキングとは?

私が以前から山のご飯に関して練っていた構想は「作りながら歩く」ということ。パスタを水に浸けて山を歩きはじめ、食べる頃には早茹でパスタのように短時間で茹で上げられるようにする技はよく聞く。だけどワクワクする要素が足りない。パスタが早く茹で上がろうがそんなもんはどっちだっていい。

もっと胸を熱くしてくれるご飯じゃないと、私のような食いしん坊は満足できない。例えば、一緒に歩いてどんどんおいしくなってくれる食品。歩きながら調理できて、消費すると軽くなる。手間がかからないうえにおいしくて、どんどん軽くなっていくなんて最高じゃないか。

私は考え、思いついた。発酵だ。発酵が最適だ。自分の体温で発酵が進み、おいしくなる、そんな漬物を漬けながら歩き、途中で汲んだ湧水に浸した玄米を炊く。歩きながら得たもので私のおいしいハイキングが成り立っていく。考えただけで心が躍り、涎が出てきた。そうと決まれば漬床は何にしようか? 行き先はおいしいものがたくさん採れる豊かな地にしなくては。

どこに行く?

遡ること約10年前、両親と3人で九州をクルマでぐるっと旅行したことがあった。キャンプしたり、焚き火したり、スーパー銭湯の休憩室で寝たり。その時に立ち寄った熊本の阿蘇の景色を時たま思い出す。真緑の山肌、点在する牛たち、澄んだ甘い空気、真っ青な空。本州にしか住んだことがない私にとって、その景色はなんだか異様で、きれいで、地球を感じさせた。アイスランドに行った時とも似たような感動で、地球が生きているのを感じられた場所だった。

忘れられない、またあそこに行きたい。熊本は地熱の影響で農作物が元気でおいしいと聞く。知人も住んでいるし、あの記憶が、感動が本当なのか確かめにも行けるじゃないか。阿蘇にしよう、そうしよう。

熊本県高森町の高森駅からスタートして阿蘇山の中岳を目指す。中岳からはバスを乗り継いで知人宅がある菊池へ。最終日は菊池渓谷から出発して清水川源流でゴール。

何が食べたい?

どんな食べ物と調味料を持っていくか、これがいちばん私を悩ませた。糠漬けは必須だし、塩漬けもいいし、蜂蜜漬けも捨てがたい。豆も米も浸したい。やりたいことが多すぎた私の厳選調味料と材料がこれだ!

❶糠床
常温保存が可能で発酵力が安定していて、頼れる存在。
❷酒粕味噌の漬け床
糠床とは違った甘味もあり、酒粕の風味が素晴らしい。調味料としても使える。
❸玄米
胚芽が通常の3倍ある栄養豊富なものをチョイス。たくさん持って行けないからこそ、栄養価の高いものに。
❹炒り豆
ご飯と一緒に炊くだけで豆ご飯にもなるし、もちろんそのままポリポリ食べてもおいしい万能食品。
❺いりこん
ミネラルたっぷりの小魚と昆布と大豆が甘塩っぱいミックスおつまみ。行動食としてもいいし、ご飯に混ぜてもおいしい。

❻調味料
・ごま油
・バルサミコ酢
・塩
・オイスターソース
・魚醤
・黒胡麻きなこ
・蜂蜜
・塩昆布
・昆布粉
これらは普段から私が使っている調味料。基礎化粧品のようなもの。

以上を持って、10月7日、私はおいしいハイキングへと旅立った。

不安なひとり旅

まずはこの2枚の写真を見ていただきたい。

1枚目、出発当日の朝。意気揚々と彼にクルマで空港まで送ってもらったとき。元気すぎて腹が立つ。

2枚目、その日の晩。違う人? というほどに1日で老けてしまった寒川。何があったのか、ぜひ読み進めていただきたい。

羽田空港を出発して9時に阿蘇くまもと空港に到着後、早速玄米と豆を浸すことに。

実は玄米を浸したジップロックに穴が空いていたらしく、食材バッグがびしょびしょになった。みんなも気をつけてね。

出発地点の高森駅に到着し、まずは湧水を汲みに行く。スーパーと八百屋でお昼ご飯と今夜のおかずとガス缶もゲットし、ハイキングスタート。

高森湧水。気軽に水が汲めてありがたい!

八百屋で漬ける用の野菜を買おうとしたら子猫も野菜と並んでいた。可愛すぎて連れて行きたかったが、すごく噛まれたので断念。

野菜はこれらを確保。さすが野菜は水分。とても重かった。

ナイフが欲しくて100円ショップでオープナー、スーパーでランチ用のぶりの琉球と漬けるための生あげを購入。ご当地スーパーを愛する私にとって、重さと鮮度を考えてこれしか買えないのは地獄だった。

まずはお昼ご飯を食べたいので、樹齢400年を超える高森殿の杉があるパワースポットに向かう。

誰にも会わなくて少しビビり始めている。

到着してから思い出した。私はパワースポットがあまり得意ではない。霊感やその類は一切持ち合わせていないけれど、人一倍強い妄想パワーを持っているため、怖い妄想はいくらでも広げることができる。他に人はいないし、いろんな音、動物の声がする。ああ、私はひとり。目に見えない壮大なパワーを感じて完全にビビってしまった。昼食を食べよう。

観光スポットらしいが誰もいない。誰かいてよ。

何も写りませんようにと願いながら自撮りしてみた。何も写ってないよね…?

巨大なスピリチュアル杉を背中にして昼食準備。ザックに毛虫がついていたことに気づかず直指で触るというハプニング発生。全力で除菌をしてよもぎビワクリームを塗って事なきを得た。

黄色いのはせめてもの彩りにと入れたミニトマト。

朝ご飯に持ってきた蓮根のおにぎりの残りを雑炊にして、その上に大分の郷土料理のぶりの「りゅうきゅう」を豪快に乗せ、蓋をし30秒間蒸す。魚醤とごま油で味を整えて完成。相当においしそうなものが出来上がってしまった。

だけど緊張で味がしない。塩味をいくら足しても、ごま油をかけてみても本当になんの味もしない。雨が降りそうだし、これからまだ2時間ほど歩かなくてはいけない。こんなに悠長にご飯なんて食べてていいんだろうか。

背後に猪がいる気がする。何度も振り返る、いない。怖い。ドキドキしてどんどん減っていく食欲、減らないご飯。ひとりで食べるつまらなさ、吐きそうと思いつつなんとかかき込み、なぜか急いでパッキングして出発。せっかくおいしくできたのに全然味わえなくて悲しい。

ストレスを軽減させるためにみかんの皮を手で擦って思いっきり香ってみた。本当に一瞬だけ気持ちが安らぐ。

雨が降るなか、今夜の宿である「鍋の平キャンプ村」へ向かう。

歩きながら読むと「頑張ります」と思えた。

雨が降っていて辛いが、なぜか肌艶が良いので良しとする。

しかしながら重い。水が重い、野菜が重い。自分のご飯、自分の荷物、全部自分のためと思いつつなんとか歩く。私はまだ重い女なのだ。

ひとり、咳をしてもひとり

ゆっくりと4時間ほど歩き、16時半に鍋の平キャンプ場に到着。薄紫色の霧に包まれたキャンプ場には大量のカラスがいるだけで、ゲストも管理人も誰もいない。券売機でチケットを買い、なんとなく設営を始めてみるも、自分史上最高レベルの孤独に心がどんどん萎んでいく。なぜか私は生で野菜を貪り始めた。

鍋の平キャンプ村

なんでこんなことをしているんだと震える手で彼氏に電話をしてみた。出ない。そりゃ仕事中に決まってる。目頭が痛い、心臓の音がうるさくなってきた。次に母に電話をかけてみる。いつもの声で「もしもし、どうしたの?」と話す母。声を聞いた瞬間に涙が溢れて止まらなくなり、大泣きしながら母に状況を説明した。こうして連絡できる母を持つ私は世界一の幸せもので、ひとりじゃないのだ。

母の声と言葉に安心し、励まされなんとか次の行動に移る。母から「とにかく室内で寝なさい。」と言われたので、管理人さんに連絡して管理棟の中で寝かせてもらうことにした。室内というだけでこんなに安心できるのかと驚く。相変わらずの緊張とストレスでお腹は空かないが、食べないと元気が出ないので夕飯を作る。

買った野菜とお揚げを糠漬けと酒粕味噌漬けにする。

まだ元気だった昼間にワクワクしながら水に浸しておいたご飯を炊く。

野菜をつまみながら炊飯を待つ。つまむが別にお腹が空いているわけではない。ただ何かしていないと怖いのだ。

ありがたいことにうまく炊けた豆ご飯と炙り厚揚げとトマト。玄米豆ご飯には黒胡麻きなこをかけ、厚揚げには魚醤をかけながら食べた。

おいしいけど、おいしくない。正直味がしない。ひとりという不安と寂しさで私の心はいっぱいいっぱいになり、大事な味覚にまで影響してきている。ここで先ほどの写真の登場である。

可哀想。

私にとって「誰と食べるか」の重要性に気づく。どんなに質のいいものをひとりで食べていても楽しくない、おいしくない。大切な人と食べれるなら、なんだってご馳走になる。母に会いたい。彼に会いたい。彼に会いたすぎて彼がくれたお守りを抱きながら就寝。

寝させてもらった管理棟内。

やはりさみしい2日目、歩くしかないのだ

翌朝、体中の痒みで目が覚めた。というか痒くてあまり寝れていない。長く人のいない管理棟はノミダニだらけだったのだ。どうやら大家族で食事をしに来たらしい。私の体は4ヶ月経つ今も消えないほど、ノミダニの強い噛み跡だらけになっていた。しかしそれよりも、ひとりだけど、ひとりじゃなかったんだなあという思いの方が強かったので、精神的に参っていたのだと思う。

体を温めるスパイスティーで心を落ち着かせる。

小雨の中出発。一応キャンプ場で記念撮影。暗い。

出発後すぐに管理人のおじさんが心配して電話をくれた。「またおいで」と言ってくれたおじさん。また来れるかはわからないけれど、この御恩は忘れません。

九州自然歩道を歩き「道の駅阿蘇」を目指す。確実にしばらく人が歩いていないであろう荒れ具合で、突然現れる牛や、かなり新しめの猪の足跡にビビり倒しながら、全力で歌い歩く。

突然現れる牛。

エマージェンシーブランケットを腰に巻いて、雨が降ってきたらバックパックごと被る作戦を取っていた。こんなのが前から歩いてきたらギョッとするよなあ。

歌っていたら、なんだか腰に違和感。反り腰気味の私はずっと腰でバックパックを支えていたらしい。気づいた頃には時すでに遅し。一生懸命お腹に力を入れて歩くも、時たま「ビキーーーン!」と稲妻が走った。さらにストレスによりデリケートゾーンの問題まで発生。早く道の駅で体制を整えなくては。

いりこんで気を紛らわせながら歩く。このいりこん、栄養満点だし何よりおいしくておすすめ。炊き込みご飯にもできる!

ゆっくり歩くこと4時間ほどで道の駅阿蘇に到着。ここの名物の「馬まん」と自家製糠漬けでランチ。馬まんは予想通りの味で、ひとりで奇をてらったものを食べても全く楽しくないことを学んだ。食後にソフトクリームを食べていたら、おばちゃんに宗教勧誘のしおりを渡された。助けが必要なように見えたんだな。

ひとりでこれを広げている様もまた寂しげ。

ひとりで食べると、とても早く食べ終わる。

さすが阿蘇、乳製品がとてもおいしい。誰かと食べたかった。

もうひと踏ん張り歩いて、17時頃にこの日のキャンプ場に到着。豆柴ブリーダーの老夫婦が管理するきれいなキャンプ場で、これまた私しかゲストはいなかったが、ひと気があるというだけでだいぶ安心できた。

愛らしくて人懐っこい豆柴たち。天国かと思った。

この日の夕飯は前日の残りの玄米豆ご飯のお粥、熊本名物の辛子蓮根と、昨日から漬けていた酒粕味噌漬けのお揚げのあぶりと、野菜の糠漬け。やっとご飯の味がするようになってきた。失われていた元気が補充されていく。腰は相変わらず小爆発を続けているけれど、できるだけ休んで次の日に備える。しかしやっぱりさみしいので、この日は彼と電話をし、彼のお守りを握りしめて寝た。

Instagramストーリーズにあげていた写真。まあまあの量を食べている。

人のありがたみを感じる3日目

翌朝、キャンプ場の奥様がクルマで阿蘇駅まで送ってくれた。奥様は車内でいろんな話を聞かせてくれた。旦那様はどんどん犬に子犬を産ませて出荷したいが、奥様は犬の体のことを考えると心が痛み、考え方の違いに苦しんでいるらしい。

私にできることはないけれど、犬たちもこの老夫婦もみんなが意思疎通しあって、幸せな形を見つけてくれたらと思う。それに犬たちは走り回って楽しそうだったので、一旦良しとする。別れ際に奥様が「うちで採れた新米のおにぎりよ」と握りたてのアツアツおにぎりを渡してくれた。キャンプ場管理人兼豆柴ブリーダー兼農家だったのか。

出発のときに思いっきりドッグランで遊んでいた豆柴たち。さようなら、母子ともに健康であることを心から願ってるよ。

さて、今日は中岳に登る。中岳は阿蘇山中央火口丘群のひとつで、それら火口丘群のほぼ中央に位置し、最も活発な活動をしている火山である。バスで一気に阿蘇山上バス停まで上がったが、残念ながらガスで山頂までの道が閉鎖されていた。仕方がないので昼食を摂りながら待つ。

昼食はお揚げの糠漬けと熊本野菜の酒粕味噌漬けと頂いたおにぎり。漬物たちは私の体温で程よく発酵が進んでくれている。頂いた新米のおにぎりはふわっと握られていて、風味が良い。きっとあの3頭の豆柴が走り回るのをたしなめつつ握ってくれたんだろうな。おいしいなあと思いつつ、背後の外国人たちがなぜか私の頭上で上げているドローンを眺める。そんなことをしていたら閉鎖解除の放送が入った。ラッキー!

なんとも人のありがたみを感じるランチ。

この景色を目の前にいただく! 贅沢! 

登り始めてあまりにも雄大で感動的な景色に圧倒されつつ、周りのカップルやグループが楽しそうに写真を撮っているところを見てさみしくなった。そういえばひとりで山を登るというのもなかなかないことだった。近所の低山をひとりで走りに行くくらいは今までもあったが、こうもしっかりとひとりで登山することはなかったかもしれない。不安とさみしさが募っていく。

自分は木道が好きということがわかった日。

もし、風に煽られて一撃で転んで落ちても、誰にも気付かれずに死ぬのかも。ひとりである不安、いかに自分がこの大自然で小さな存在かを思い知る。

2時間ほど歩いて中岳山頂へ。顔が強張ってます。

ただただ修行のごとく中岳登山を終え、下山。最高の景色だったが、大切な誰かと見たかった、共有したかった。

下山時に少し気持ちに余裕が出てきて、ひとりで記念撮影。ぎこちない写真の完成。

この日は中岳を終えたら知人宅泊予定にしていたので、バスに乗って向かう。

道中は編み物やスケッチをしていた。

知人に会えた瞬間、アドレナリンとセロトニンがドバッと出る感覚があった。嬉しい‼︎

久々に誰かと食べるご飯は楽しくておいしくて幸せでいっぱいだった。なんでもないようなことが幸せだったと思えた夜。

その夜はずっと一緒に歩いてきてくれた糠漬けと酒粕味噌の白和えを食べた。白和えは知人がご近所のおばあちゃんから頂いたというピーマンと酒粕味噌の漬け床と、持ち歩いていた厳選調味料を全部ミックス。歩いてきた時間と苦労がいちばんのスパイスになったと思う。どちらも甘味と深みがマシマシのなんとも愛おしい味がした。漬け床たち、一緒に歩いてくれてありがとう。

さらに残った酒粕味噌と糠床で鹿肉を漬けてみる。最後まで使い切るのも大切なこと。

近所のおじさんが狩ってきたらしい。

翌朝の朝ご飯には、持っていたすべての調味料と炒り豆を納豆に混ぜたら、これまた絶品に。フリーズドライの納豆でもおいしくできそう。

つべこべ言ってたら、最終日

翌日、最終日。知人に菊池渓谷までクルマで送ってもらう。菊池渓谷とは熊本県北部に位置する水源。広葉樹の原生林に囲まれており、自然豊かで美しい水が生まれている場所なのだ。そんな始まりの地からの最終日スタート。もう最後なのだ。感慨深い。

菊池渓谷入り口。

差し込む朝日の美しさよ! ありがとうございます‼

荷物はほとんど知人宅に置き、最軽量で迎えた最終日。身軽になれた私は、ようやく熊本の大自然を体に染み込ませることができた。ひとりで歩いていると当然ながらさまざまな考えが頭の中を巡る。そのひとつひとつが違う私。それぞれの考えや感情同士がぶつかり合い、話し合い、その時の判断や思想に至る。

私はひとりで歩いているのではなく、いろんな自分と一緒に歩いていたことに気がついた。さみしいという感情も、怖いという感情も、複数いる自分のひとり。すべては陰陽のバランスのように流動的なもの。

美しい水。

こんなことを考えながら歩いていたら私の中は感謝でいっぱいになった。この機会を頂けたことへ、熊本へ、知人へ、家族へ、恋人へ、漬け床たちへ、私と関わってくれている万物への感謝。初日の自分を考えると信じられない感情だった。たくさんの波を乗り越えてきた自分を誇りにさえ思えた。自己肯定感の低い自分にとって信じられない感情だ。

心に余裕のある笑顔。マイナスイオンで肌も髪も潤いまくりである。

腰の小爆発をいなしながら5時間ほど歩き、とうとうゴール。すげえ、できたじゃん自分! 歩けたじゃん自分!

終わったという安心感、達成感で力が抜けつつも源流から水をいただく。うまい‼︎

浄水器を通さなくても飲めるすごい水。

食も人も植物も、すべてが豊かな地でULハイキング研修を終えられて本当によかった。新しい自分に出会えた、本当に素晴らしい機会になった。しかし「またひとりで行くか?」と聞かれたらきっともう行かないと思う(笑)。この結果を得たこともまた嬉しい。ひとりではなく誰かとその時間やご飯や体験を共有することが私にとっての幸せであることに気づけた。自分に正直に、楽しく生きていくのだ。

幸せになるぞ。

向き合えた、気づけた、おいしかった、そんな私のULハイキング研修。読んでくれてありがとう。

ゴールした日の夕飯は、前日から漬けておいた鹿肉の糠漬けのロースト。一緒に歩いてくれた糠は鹿肉の臭みを消し、噛めば噛むほど出てくる旨みを引き出してくれた。ひとりで歩いていたけど、菌たちが常に一緒であったことを思い出し、感謝の夕飯となった。

今回のULハイキング研修から得たレシピ

混ぜ玄米ご飯

○材料
・玄米90g
・炒り豆 10~20g
・浸す水 適量
・炊飯用の水 120ml+120ml
◎ごま油 好きなだけ
◎バルサミコ酢 小さじ1
◎魚醤 小さじ1/2
◎黒胡麻きなこ 大さじ1
◎塩昆布 多めのひとつまみ
◎昆布粉 小さじ1
◎フリーズドライの納豆 好きなだけ

今回使ったおすすめ食材

・糠床
無添加の熟成ぬか床で、おばあちゃんの味がする。そのまま一緒に食べちゃっても安心安全、そしておいしい。

・素焼きミックス大豆
そのまま食べても炊き込みご飯にしてもサラダや白和えのアクセントにしてもおいしい。とにかくおいしい。

・ミネラルいりこん
こちらも素焼きミックス大豆のような使い方ができる。しかし本当においしくてすぐに食べてしまうので、いろんなアレンジをしてみたい方は最低2袋は買っておくことがおすすめ。

GEAR LIST

BASE WEIGHT* : 4.48kg

*水・食料・燃料以外の装備を詰めたバックパックの総重量

YouTube

寒川とスタッフJKが旅の模様をYouTubeでも振り返りました。

寒川奏

寒川奏

1994年生まれ。デンマークでデザインを学び、ノルウェーに1年間在住。現在は鎌倉でイラストを描いたり、ワインバーにいたりする。食べることとお酒が大好き。目標は今を精一杯生きること。イラストのお仕事大募集中。インスタグラムアカウント @kanadesangawa_doodle

連載「山と道トレイルログ」