- 7/19(金)Day7 アローラ→エヴォレーヌ
20.2km(↑830m / ↓1,380m) - 7/20(土)Day8 エヴォレーヌ→トラン峠→ソルボア峠の近くのビバーク場所
21.8km(↑2,290m / ↓1,220m) - 7/21(日)Day9 ソルボア峠近くのビバーク場所→ジナール村
6.7km(↓1,000m) - 7/22(月)Day10 ジナール村のキャンプ場→モワリー氷河→ジナール村のキャンプ場
8km(↑500m / ↓500m) - 7/23(火)Day11 ジナール村のキャンプ場→グルーベン村
22.8km(↑1,310m / ↓1,170m) - 7/24(水)Day12 グルーベン村→ザンクト・ニクラウス村→グレッヒェン村
23.5km(↑1,610m / ↓1,850m) - 7/25(木)Day13 グレッヒェン村のキャンプ場→アッターメンゼンキャンプ場
21.6km(↑1,400m / ↓1,590m) - 7/26(金)Day14 アッターメンゼン→ツェルマット(ゴールの街)
17.7km(↑1,250m / ↓1,080m) - 7/29(日)ツェルマット最終日 マッターホルンを眺めながら
- 7/30(火) 帰国の日 ジュネーブ空港にて
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社是としてスタッフには「ハイキングに行くこと」が課される山と道。「願ったり叶ったり!」と、あちらの山こちらの山、足繁く通うスタッフたち。この『山と道トレイルログ』は、そんなスタッフの日々のハイキングの記録です。今回は、山と道京都スタッフ「あやなん」こと永井絢菜が、社内で昨年から始まった「ULハイキング研修制度」を利用して、ヨーロッパアルプスの名峰・モンブランからマッターホルンを結ぶ250kmの「オートルート」を、14日間かけて歩いたストーリーの後編をお届けします。
前編では同じくオートルートを歩く貴重なソロハイカーと出会ったり、自然を愛でたり、一瞬の気も抜けない氷河を越えたりと、ロングトレイルの醍醐味を味わった永井。後編ではふとソロハイカーの孤独を感じたり、悪天候に襲われたりと心が折れそうになる場面に出くわしますが、そんな時に支えてくれるのはやはり人なのでした。
ネットの情報ではなく自分の目で見て脚で歩いた14日間のヨーロッパアルプスの旅を経た彼女は、無事に心の荷物を下ろすことができたのでしょうか。
今回歩いたオートルート。後編はDay7のスイスの小さな村アローナからスタートし、ゴールの街であるツェルマットを目指す。
7/19(金)Day7 アローラ→エヴォレーヌ
20.2km(↑830m / ↓1,380m)
今日は大きなスーパーがある街、エヴォレーヌまで来た。
今の私は、昔のような無鉄砲に誰にでも話しかける勇気と気力がなくなってきていることを、この旅中で実感した。個人的な印象だが、ヨーロッパ人はアメリカ人のようなフレンドリーさがなくて、フランス語なので会話に入りづらく英語が通じないこともあった。それも疎外感を感じる理由かもしれない。殻に閉じこもりそうになる。
7/20(土)Day8 エヴォレーヌ→トラン峠→ソルボア峠の近くのビバーク場所
21.8km(↑2,290m / ↓1,220m)
トラン峠まで歩いている途中でフランスから来ているカップル、イジスとバスティアンと会った。3日目のシャンペのキャンプ場にもいたふたり。キャンプ場では喋っていないけど、お互いに認識していたみたいで再会して仲良くなった。彼らもオートルートを歩いているらしい!
トラン峠を登りきったところで「隣に座っていい?」と言ってくれて、話をしながら互いのチーズを交換して食べる。久しぶりに誰かとしっかり喋ったな。ひとりは寂しい。イジスは明るくてピュアで、慣れない英語ながらも私と仲良くなろうと話しかけてくれるのが伝わる。彼もそんな彼女を温かい目で見守っていて笑顔が優しい素敵な男性だった。
今日は彼女のお母さんの誕生日らしい。山の上でバースデーソングを歌っているところを撮影してお母さんに送るのだそう。そんなバースデービデオに私も入れてくれて、一緒に歌ってお祝いした。いいな、温かいな。彼らは来年仕事を辞めてふたりで東南アジア、そしてニュージーランドを旅するらしい。素敵。
フランス人カップルのイジス(左)とバスティアン(右)
彼女たちと別れてソルボア峠も超えた後、時間も遅くなってきたのでテントを張れそうな場所を見つけて、そこで夜を越すことにした。しかし明け方からすごい風と雨の予報だし、明日も1日中雨。大丈夫かなぁ…。
吹きさらしの場所にいるので風もかなり強くなりそう。無理に歩かず、1日中ここに停滞するか。いやいや、テントを張るのは夜の間だけという暗黙のルールがあるし、それも不安。
7/21(日)Day9 ソルボア峠近くのビバーク場所→ジナール村
6.7km(↓1,000m)
未明、雨の音で目が覚めた。風が凄くてテントポールがめっちゃ湾曲している! 必死に抑えた。私のテントは非自立式のワンポールテント。ここで折れたら大変困る。
今日はとても歩けないぞ。丸1日ここに滞在する…? 風も雨もやばいかも…。でも電波もない強風雨のなかテントの中でじっと耐える? しかも周りには誰もいない…よし、1.5km先にあるソルボア小屋に泊まろうと決めた。こんなに怖い思いして無理にテントで耐える必要はない!
ヨーロッパの山小屋は完全予約制やけど、雨なんやから小屋の宿泊者にもキャンセルが出て空きがあるだろう。お金を払って安全と安心をとろう。そう決めて猛スピードでテントを撤収した。
しかしソルボア小屋に着いたらドアの鍵が閉まっている。え?
人の気配もない。近くのケーブルカー駅のスタッフに聞いてみたら、最近は閉まっていると言われた。英語が伝わらずフランス語でなにやら言われたが、なんせ無理なことはわかった。もうテントは撤収したよー。どうしよう…。戻ってもう1回テントを立ててビバークするしかないかと途方に暮れた。この悪天候のなか、ひとり下山する勇気もない。
実は、今日はソルボア峠の近くの、オートルートの中でも特に見どころと言われているモワリー氷河までピストンで足を伸ばす予定だった。氷河付近には山小屋しかなくテント場がないので、もし先のジナール村へ下りてしまうとモワリー氷河まで歩いて戻ることはできなくなる。それもあって下山することを決めかねていた。
ガスの中、とぼとぼと登り返していると前方からふたりのハイカーが現れた。
こんな天気でこの時間に下山してくる人…? なんとイヴァイロ!!
あーーー嬉しい!! 聞けばジナール村へ下りるとのこと。「今日は雨だしサンダーだし一緒に下りよう」と言ってくれて心を決めた。一緒に下りる。イヴァイロが途中で出会ったというチェコ人のマレックも一緒だ。
下りてきてよかった。彼らとの再会のおかげ。今頃、山の上の天気は荒れている。無事にジナール村に下山し、イヴァイロとマレックとキャンプ場に泊まった。
同志のイヴァイロ
7/22(月)Day10 ジナール村のキャンプ場→モワリー氷河→ジナール村のキャンプ場
8km(↑500m / ↓500m)
今朝、マレックはアップルシナモンのオートミールを食べていた。暖かそう、お腹に優しそう…。昨夜、彼はチキンココナッツカレーのドライフード、イヴァイロはベジのおいしそうなドライフード、なのに私はインスタントラーメン。
肌が荒れてきている。疲労や睡眠の質の低下、きちんと顔を洗っていないなど複合的な要因があるけど、いちばんの原因は栄養の偏りだろう。目に見えて身体の変化がわかるのも面白いなぁ。フレッシュなものを摂りたい、もうパンとソーセージ、インスタントラーメンは食べたくない。今日は果物を買おう。オートミールを買おう。ナッツとかシナモンとか入ったおいしいやつ。もしくはお米。
マレック(左)とイヴァイロ(右)。ロングトレイルの食事では、重さ、大きさ、値段、カロリー、味、栄養と、何を優先するかが難しい。
今日は朝8時16分のバスで昨日歩けなかったモワリー氷河まで戻った。彼らは一緒に先へ進むと言っていて、私も一緒に歩きたい気持ちとモワリー氷河への未練の間で揺れていた。でも、日程にはゆとりを持たせているし、やっぱりモワリー氷河は見たい。彼らと別れて歩きたかった場所へ戻ることにした。バス停からモワリー氷河までハイクアップ。11時には到着したけど、ガスガスで何も見えないのでモワリー小屋で晴れるのを待ちながらたくさん書く。
モワリー小屋。めっちゃ綺麗。
少しずつ晴れてきた! すると小屋の前に立ちはだかる大きな勇ましい氷河。
昨日と今日はEasy day。歩く距離が短くて体は楽だが、リズムが崩れるのも微妙や。
今日歩いていて思った。私は大自然に囲まれて歩くことが心の底から大好き。毎日シャワーもスーパーもキャンプサイトも要らないし、たまにあるから嬉しいもの。毎日あるとありがたみが薄れて、山に長くいることで心地良くなった感覚やリズムが崩れてしまう。ビバークの方が楽しくなってくる。そういう文明のない日々が欲しいと心のどこかで思っている。
だけど、ずーっと何もないまま暮らすのは嫌だ。たまにスーパーにも行きたいしシャワーの恩恵も受けたいし、本当に山でひとりぼっちは怖いし無理。なりきれない自然主義、でもそれでいいのだ。人間らしくて。
私は中途半端に怖がりだし、人が近くにいるのを感じていたいし、周りのハイカーからいつも勇気をもらう。怖いけど、それ以上に自然が好き、山が好き、歩きたい。知らない世界を知りたい。
好きなことはたくさんある。その中でいちばん好きなのは山だけど、他にもたくさんある。心に素直に、真っ直ぐに、生きていきたいな。純粋な目で周りを見られる人でいたいな。
毎日、自然とだけ対峙していると感覚が敏感に鋭利になる。身体の変化も気温の変化も天気・風・植物の変化も。自分が持つ本来の「感じる力」が研ぎ澄まされていく気がする。
日々、便利なものに囲まれていると快適かもしれないけれど、人間本来が持つ感じる力がどんどん便利なものたちに覆いかぶされ、毎日が単調に、惰性的になっているんじゃないかな。
不便が呼び起こす五感が生きる力なのかも。
都会の中の私は感じる力が鈍くなっている。
明日からまた長く歩く。あと4日でゴールのツェルマットに着く。
7/23(火)Day11 ジナール村のキャンプ場→グルーベン村
22.8km(↑1,310m / ↓1,170m)
今朝は6時30分に起床。サンドイッチとバナナを食べてのんびり歩き始める。グルーベンのスーパーで食料を買い足した。はぁ、荷物が重い。オートミールを800gも買ったし(それしかなかった)、パンも重たいの買ったしな。
今日も緑が広がる高原を歩き、堂々たる山を眺め、前へ進む。
15時にはグルーベン村に着いて川辺にテントを張った。グルーベンはホテルがひとつだけある本当に小さい村で、スーパーやレストランはない。早く着いてしまった。暇だったのでホテルの売店にあったいちばん安い棒アイスを買ってWi-Fiをゲットするという厚かましさを発揮。なぜかレストランのテーブルに通してくれたので有り難く時間を潰させていただき、この日記を書いている。
グルーベンのホテル
7/24(水)Day12 グルーベン村→ザンクト・ニクラウス村→グレッヒェン村
23.5km(↑1,610m / ↓1,850m)
全身の乾燥がヤバい。脛の皮膚はパキパキに割れてるし腕はカサカサ。手もカサカサ。全身にクリームをたっぷり塗って、顔も全力で保湿したい。
今日は朝イチで登り始めてアウグストボード峠まで。途中からめっちゃお腹が減っていたけど食べるなら頂上で食べたい、と頑張った。
ここにくるとドイツ語*になっている。挨拶がボンジュールではなくなった。山小屋の名前もCabane(キャビン)からHutte(ヒュッテ)に変わった。英語で話す人が増えた。同じオートルートを歩いているハイカーがたくさんいる。でも皆、所々ケーブルカーやバス、ホテルを使っていてそれぞれのスタイルで歩いている。オートルートはバスやケーブルカーでショートカットもできるのが挑戦しやすいポイントだろう。
*スイスの公用語はドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の4つがありエリアによって変わるらしい。
ザンクト・ニクラウス村までの下りがめちゃめちゃ長かった。ザンクト・ニクラウス村の街にはミグロ*があってテンションが上がる。バナナとマスカットとヨーグルト、チーズ、パテみたいなお肉を買った。アイスがなんと1.9CHF*。よく考えたら高いが、他のスーパーでは600円くらいしていた。もう少し固めのバニラが良かったなぁ…。甘い。食べきれず。テンションが上がったあまり、つい食料をたくさん買い足してしまって、またバックパックが重くなった。
*スイスでは有名な安い大型スーパー
*当時のレートは1CHF=174円なので約330円
7/25(木)Day13 グレッヒェン村のキャンプ場→アッターメンゼンキャンプ場
21.6km(↑1,400m / ↓1,590m)
今日歩いたルートは、グレッヒェンから先の道が封鎖されているかもしれないという情報が入った。迂回路があるやらないやら、実際は本来のトレイルを歩けるやら、バスでスキップするしかないやら…。いろんな情報があり、昨夜のキャンプ場で調べまくったけど結局正確なことはわからず、もう歩きながら出会うハイカーに聞くしかない! と出発。
なんとか迂回路を見つけ、本来の展望は望めなかったもののバスは使わずにアッターメンゼンの街のキャンプ場まで来れた。
あと1日でゴールのツェルマットだ。別れてからもルートの詳細やテント場について連絡を取り合ってたイヴァイロとマレックはゴールしたらしい。おめでとう! 会いたいなぁ。
こんな山々の中に毎日いたら、日々小さな考え事しすぎや! 日々やってることが多すぎや! もっとシンプルに生きたらいい! と実感。今日の予定、明日の予定、洗濯のタイミング、安売りの日、習い事やらバスの時刻やら、そんなたくさんの小さな考え事に追われすぎて自分の頭の中が狭くなっていたなー。ほとんどのことはどうでもいいのに。
毎日スーパーへ行かなくてもいいし、あるもので暮らせばいい。今の私は背負っているバックパックひとつで完結して、とっても幸せやもん。今あるものだけで暮らしていると日々シンプルになってあれこれ考えなくていい。潤沢に物がたくさんあるから迷うし時間がかかる。便利だからこそ忙しくなる。
でもそれも暮らしを楽しむということなのかも。季節の行事、家事、趣味、そういうものが楽しくさせているのも確かで、結局何がいいんだろうね。
街から見えるスイスアルプス
家のようなテントに挟まれた私のテント。ヨーロッパは家族キャンプのカルチャーが根付いてる。
7/26(金)Day14 アッターメンゼン→ツェルマット(ゴールの街)
17.7km(↑1,250m / ↓1,080m)
最終日。今朝はまず登り。マッターホルンに向かって歩く絶好のトレイル。写真を撮るのはそこそこにして、この光景を楽しもうと思いつつも足が止まる。撮ってしまう。真っ青な空のなかに待ち受けるマッターホルンはとてもとても美しかった。最後の日がいちばん綺麗な道だったかも。
マッターホルンへ向かって伸びるトレイル
13時30分頃、ツェルマットの街に着いた。どこか外食へ行きたかった。けれどレストランはどこも高くて結局マクドナルド。飲み物はつけずハンバーガーとポテトだけで2,800円。たか! マクドやんな? 今日はいいや、明日からまた節約しよっと。
日本では聞いたことのない名前のちょっと豪華なハンバーガーをオーダー。
アイスも食べた。いっぱい歩いたから。
ツェルマットのキャンプ場でイヴァイロと再会して、思わずハグとハイタッチ! ゴールをした時は、高揚感や歩き終えた実感は不思議とあまり湧かなかったけど、彼との再会で歩き終えた喜びのようなものを感じた。彼はその日にジュネーブ空港まで戻らないといけないけど、私が到着するのを待っていてくれたらしい。呑気にハンバーガーとアイスを食べている場合ではなかった。会えて良かったー。マレックはすでに街を去ってしまっていた。そういえば、チェコから車でスイスへ来ていて「終わったら家のドアまでのロングドライブが待ってるぜ」とキャンプ場で言っていた。
私は最後のパッキングをするイヴァイロの横に座って、たくさんの話をした。お互いのトレイルの思い出やゴールした時のこと、これからやりたいことなど。同じ日にシャモニーを出発した彼とは、途中のキャンプ場で出会ってインスタントヌードルのお湯の量を教えてもらったのが始まり。どこならテントが張れるか、どこのエリアが危険かなど、連絡を取りお互いに助け合いながら歩いていた。オートルートでは数少ないソロテント泊のスルーハイカー。最後は駅までお見送り。またどこかで会えたらいいな。
地球の大きさを現実として感じるには、点と点でいろんな世界の景色を見るだけでは不十分だと思う。旅先でその国や景色を切り取って見ても違いはわかるけど、地球の大きさは体感しづらい。
その点と点を繋ぐ1本の線のような何かを自身で体感した時に、地球の大きさや距離を自分の中に深く落とし込める。それが私にとっては人と人との繋がり。
この同じ地球の同じ時間に存在しているのに会いたくても会えない、触れることも直接声を聞くことも顔を見ることもできない。もう一生会うことはないかもしれない可能性が限りなく高いことを現実として実感した時、世界の広さとその悲しさのようなものを知る。というのは、過去の旅の中で強く感じたこと。
目の前のマッターホルンの上には飛行機が飛んでいる。そうやってみんな遠いそれぞれの場所へ戻っていく。帰っていく。
ゴール地点のツェルマットにて。マッターホルンを背景に。
7/29(日)ツェルマット最終日 マッターホルンを眺めながら
終わってしまう。
どの一瞬も忘れたくない大切な思い出。地球の美しい一面を全身で感じる毎日。キラキラした景色だけではない、きつかったことも含めていろんな想いが詰まったトレイル。スイス、良かったぁ。
このマッターホルンを次に見るのはいつだろう。またこの目で見ることはあるんかな。目に焼き付けよう。
マッターホルンを眺めながら、この時間が惜しくて惜しくてキャンプサイトへ戻れない。「もう見れないかも」って悲しく寂しい気持ちになるなんて珍しい。ここへ来る前、「昔に比べて今の私は、自然に対して感動しづらくなっているかも」という思いがあったけど、壮大な山々に抱かれて歩いた2週間を通して、今も自分の中にしっかり地球に感動する心があることに気づけた。
ツェルマットは心に残る、きっと一生忘れない場所。こうして世界にそんな場所が増えていくのだろう。
夕陽に染まっていたマッターホルンはすでに色を失くしている。明日ここを去る。
のどかな丘。ある日の景色。
空を突き刺すようなマッターホルン
7/30(火) 帰国の日 ジュネーブ空港にて
スイスアルプスを歩いた14日間。濃かった。歩いていた時も「今をしっかり味わおう」と思って歩いていたつもりやったけど、その一瞬一瞬がどれくらい良い時間だったのかは、後からわかるものなのかもしれない。終わってみて、その尊さや楽しさに気づく。
毎日のきつい登り、峠にたどり着いた瞬間、テントを張り終えてガスを準備し今日はこれを食べようかって選んだり、周りの小屋に泊まる人たちのおいしそうなコース料理*を眺めたり、牛のフンだらけの道だって、全部全部尊い。イヴァイロとマレックと一緒に街へ下りて一緒にスーパーへ行き、キャンプをした日がもう懐かしい。
*ヨーロッパの山小屋ではコース料理が普通
枕を膨らませるマレックと私
ゴーッという音とともにダイナミックに流れていく川を見ていると、地球は生きているし大地は今この一瞬も動き続けている。都会にいると感じづらい感覚。今も山は呼吸し生き生きと活動している。現代のデジタル社会にはない、人間がコントロールできない、地球の生命力。水、山、風、空の力。大地は生きている。
便利な社会の外側にある生き生きとした大きな力。
都会にいても仕事をしていても山にいてもどこにいても、地球のどこかではこんな自然があるんだと想像できる自分でいたい。
人への優しさも想像力。イライラしている人には私の知らない何かしらの理由があるのかもしれへんもんね。誰にでも優しくいれること。器の広さは想像力の大きさ。
心を豊かに穏やかにする想像力を忘れないようにしよう。
これまでいろいろ旅していろんな人と出会っていろんな景色を見て、自分がやってきたことが今の私に繋がっている。全ては1本の線で繋がっている。経験の積み重ねが未来の自分を作り、知ることで将来の選択肢や考えが広がる。お金や物はなくなるけど経験はなくならないし、この経験が自分の未来に繋がって出会う人を変えて、人生を変えて、さらにカラフルな未来に連れていってくれると信じている。
心が震える体験と刺激が、自分の凝り固まっていた心の澱のようなものを洗い流し、日々の無駄な思考や形なき心の重い荷物を削ぎ落としていってくれた。自然に対する感覚がシャープになり、心が柔らかく軽くなって帰ってこれた。
歩く前の私と歩き終わった後の私は確実に違う。自信を持って言える。スイスで取り戻した、言葉では表現できない自分の中の研ぎ澄まされた感覚を忘れないように。
やっぱり好きだ。長く歩くのが大好きだ。
【完】
GEAR LIST
BASE WEIGHT* : 4.128kg
*水・食料・燃料以外の装備を詰めたバックパックの総重量
YouTube
永井とスタッフJKが旅の模様をYouTubeでも振り返りました。