先日公開し好評をいただいている『ウルトラライト・パッキングのすすめ 山と道材木座店長 前原秀則編』に続き、今回は同じく山と道材木座スタッフの苑田大士(通称:おーじ)のパッキングを紹介します。
現代ULのスタンダードとも言えるパッキング例を紹介した前原編とは変わり、今回はスタッフの中でも特に軽量化にこだわるおーじのカリッカリに削ったSUL(Super Ultralight)なパッキング。
たった16Lのデイパックに食料、水、燃料といった消耗品を除いた装備のベースウェイト1.9kg(一般的なUL装備の基準はベースウェイト4.5kg以下)という、もはやSULを超えたクレイジーULともいえるパッキングですが、季節や行き先を選び、自身の経験や知識の上で装備を選べば、こんなことも可能なのだという一例としてご覧ください。
前原編と同じく、それぞれの装備のポイントや何をどのようにパッキングしているかまで詳細に紹介していますので、さらに思い切った軽量化をしてみたいという人は、ぜひごチェックしてみてください。
前回は山と道材木座店長の前原が考えるスタンダードなULハイキング装備とそのパッキングを紹介しましたが、今回は山と道材木座スタッフの僕、苑田大士(通称:おーじ)が、さらに軽量化に特化したカリッカリのULハイキング装備を紹介します。
ULハイキングの軽量化を突き詰めるとどうなるのか? さらに快適に歩くためにはどんな装備やスタイルがあるのか? あくまでも僕個人の一例として参考にしていただければと思います。
山と道材木座スタッフのおーじです。普段はお店での接客の他、HLC鎌倉の活動でも講師役を務めています。
なぜ軽量化するのか?
今回の装備とパッキングを紹介する前に、僕がハイキングをする目的と軽量化をする理由をお伝えしたいと思います。
まず、僕がハイキングをする目的は「自然の中を歩きたい」というシンプルなものです。そして、軽量化をする理由は「長い距離を快適に歩きたいから」です。つまり僕は、歩くことそのものを楽しむために軽量化を実践しています。
皆さんはどうでしょうか? 「重いよりは軽い方が良い」と漠然と考えているのではないでしょうか。目的と理由が明確になれば、自分にとっての軽量化のポイントが自ずと見えてくるはずです。
例えば、ハイキングのいちばんの目的が「山の上でおいしいご飯を調理して食べたい」ということであれば、調理器具や調味料をひと通り持っていく必要があり、そのぶん荷物が重くなることが予想されますよね? その目的に対して創意工夫をすれば、軽量化の方法、方向性が見えてくるはずです。それがあなたの軽量化への近道になると僕は考えています。
今回は、5月の京都一周トレイル84km(最低気温10℃〜最高気温25℃)をファストパッキングスタイルで2泊3日で歩くことを想定した装備をご紹介します。
今回の装備一式
GEAR LIST
BASE WEIGHT: 1.9kg
行動中のレイヤリングについて
僕はできるだけ着替えを持っていきたくないのでレイヤリングはシンプルです。ベースレイヤーと下着は強力な防臭効果のあるメリノウール素材を着て、基本的に山行中はずっとこれを着続けます。なので特に着替えは持ちませんが、山行中はメリノの防臭効果のおかげでそれほど不快に感じませんし、軽量化の大きなポイントにもなります。
暑がりなのでボトムスはショーツやスカートを穿いて、トップスは適度に通気・防風性のあるシャツを好んで着用しています。春夏秋の低山や、7月下旬〜10月上旬の夏山シーズンにアルプスや八ヶ岳のような標高2,000m以上の山でもこのスタイルです。すれ違うハイカーに「寒くないんですか?」と聞かれることがよくありますが、荷物が軽いことで速く歩けて身体への運動負荷が高い状態になるので寒くはありません。逆に暑いくらいです(笑)。停滞したときにも風と低い気温にも対応できる装備を持っているので安心してください。
トップスはベースレイヤーに運動量が多いので通気性もあり消臭性と速乾性も兼ね備えた山と道のDF Mesh Merino Sleeveless。穴がたくさん開いているけど山なので気にしません(笑)。シャツはUL Shirtを着ていて、行動中は脱ぎ着することが多く、あえて大きめのXLを選んで羽織りのように使っています。ショーツは今回のように運動量が多い時はやはりLight 5-Pocket Shortsが調子良いです。
シューズはビボベアフットのトラッカーサンダルを愛用しています。ベアフットシューズしか履かない僕にとって、待ち望んでいた一足。雨に濡れても乾きやすい素材で蒸れにくく、軽くてサンダルみたいに履けるのが良い。雪山以外はこれで十分なのではと思っています。ただ小石や小枝などが、かかとから入りやすいのがちょっと残念。
バックパックについて
僕が最も山で使うバックパックは山と道のMINI2のMサイズですが、テント泊で2泊3日の標高1,000mくらいの山に行く場合には、KSウルトラライトギアのKSデイパックを使っています。このバックパックは名前の通り日帰り用ですが、容量が16Lと絶妙なので気に入っています。
装備をすべて詰めた状態のKSデイパック。「こんなに小さくて本当に全部入ってるの?」と思われるかもしれませんが、最後まで読んでみてください。入ってます!
KSデイパックにはフレームがなく、ショルダーベルトもクッション性がないためペラペラで、ヒップベルトもついていません。どちらかというとトレイルランニング用のバックパックのような作りです。先ほどもお伝えした通り、これはファストパッキングスタイルでのハイキングに合わせた選択なので、これからULハイキングを始める方は、参考程度に見ていただければと思います。今回はバックパックのベースウェイト(水・食料・燃料等の消耗品を除いた重量)を2kg以下、パックウェイト(水・食料・燃料等の消耗品を含む総重量)も4kg以下に抑えたからこそのチョイスです。荷物がシンプルで少ないため、パッキングはとても簡単だし早いです。テント場の撤収から歩き出すまで5分もかかりません(笑)。
ここからは、まず使用しているギアとそれを選んだ理由を紹介していきます。
就寝用具について
まず、歩く場所、気候、天候、気温域、トレイルの状況を事前に情報収集し、それに基づいて持っていくギアを選びます。これはどの山行の際にも必ず行います。そうでなければ、持っていくギアを適切に選ぶことができません。
では就寝具から紹介します。今回は長い雨に降られなければカウボーイスタイル(テントなしで野宿すること)で就寝する予定なので、寝袋とテントにはマウンテンローレルデザインのeVentソウルビビィと、シートゥサミットのウルトラシルナノタープポンチョを選びました。
両者方とも純粋な寝袋とテントではなく、eVentソウルビビィはビビィ(テントなしの単体でも使えるように防水性や機密性を高めたシュラフカバーのようなもの)でウルトラシルナノタープポンチョはその名の通りタープにもなるポンチョなのですが、ここでのポイントのひとつ目は、タープポンチョがテントとしても雨具としても使えることです。ULハイキングスタイルのハイカーが荷物が少ない理由のひとつには、ひとつのギアで2役または3役こなせる工夫やアイデアを持っていることもあります。
ウルトラシルナノタープポンチョとeVentソウルビビィを展開した状態。ビビィには頭の部分に簡易的なフレームが入っていて、上から吊るすとすっぽり中に入っても顔の前にスペースが生まれます。タープは耐候性が低いぶん、それをeVent製で防水使用のビビィでカバーしています。雨が降らなそうならタープは張らずにビビィだけで寝ます。
ただし、これは、今回は樹林帯をメインに歩くための選択です。森林限界を突破する稜線帯を歩くトレイルでは、雨風をまともに受ける可能性が高いため、レインポンチョは選びません。その場合は、雨風を足元まで防ぐことのできるウェアを上下で持っていきます。
ウルトラシルナノタープポンチョをレインポンチョとして使うとこんな感じです。若干長いのでポンチョとしての使い勝手はいまいちですが、一人二役の非常にULハイキングらしいギアで気に入ってます。
この流れから、ポンチョに付けるガイラインの話もしたいと思います。ポンチョは雨の場合に着用する可能性があるため、ガイラインを事前に取り付けておくことができません。一方、タープとして使用する際にはガイラインが必要です。こんなとき、皆さんは毎回結びますか? 何かの器具で取り付けますか? 取り付けるとしたら、やはり手っ取り早い方法はカラビナですよね。しかし、カラビナが最低5個必要だとしたら、軽くて小さいカラビナもあるけど意外と操作性が悪いのです。そこで、以前HLC鎌倉に参加してくれたひとりのULハイカーが別の用途で使っていたもののアイデアを拝借させていただきました。それはこれ! 繰り返し使える短い結束バンド!
なかなかインパクトの薄いギアですが(笑)、これがアウトレバー方式で操作性も良く、実はいろんな場面で使える優れものなのです! 結束バンドについてはこれだけで終わりそうなので、次に進みます。
さて、次はテント・寝袋以外の就寝ギアを紹介します。先ほど紹介したeVentソウルビビィの中にはウェスタンマウンテニアリングのホットサックVBLを仕込んでいます。「VBL」とは「ベイパーバリアーライナー」の略で、透湿性のないコーティングされたリップストップナイロンが身体から放射される体熱を反射する……つまり、湿気を外に逃さずにあえて蒸れた状態にすることで保温性をキープする仕様になっています。
eVentソウルビビィの中に内側に金色のコーティングが貼られたホットサックVBLを仕込んでいます。
この、ライナーに透湿性のないホットサックVBLを使うこともまた今回のダウンの寝袋やウェアを持たないギア選びのポイントになっています。「透湿性がないってことは結露してしまうんじゃない?」と思われるかもしれません。そうです。結露します。いいんです。結露させましょう。先にも述べたように、湿度を上げて寝袋内の温度を上げようという手法です。ですが、そのぶん就寝時にも着用する保温着には気を使わなければなりません。
そしてスリーピングマットは、今回はカリッカリなので山と道のMinimalist Padだけです。これだけで寝られる人は多くないでしょう(笑)。長さが100cmなので足元まではカバーできません。実際、今回の5月の京都一周トレイルでも足元は寒かったので、マットの上に収まるように176cmの40代のおっさんが小さく丸まって寝ました(笑)。
就寝具一式。寝袋のブースターとなるウェスタンマウンテニアリングのホットサックVBL(左上)とタープと雨具を兼ねるシートゥサミットのウルトラシルナノタープポンチョ(左下)、寝袋代わりのマウンテンローレルデザインのeVentソウルビビィ(中)と、マットは山と道のMinimalist Pad。ソウルビビィは嵩張って見えますが簡易的なフレームが入っているのでコンプレッションできないためで、バックパックに押し込むとそれほど嵩張りません。
保温着について
VBLを就寝時の保温性確保のために積極使用するため、保温着には優れた速乾性能を持ち、また濡れたとしても一定の保温力を維持するポーラテック・アルファダイレクトを使った山と道のAlpha SocksとLight Alpha Tights、最近のいちばんのお気に入りのActive Pulloverを選んでいます。これがダウン素材だと濡れてロフトが減り、保温性が著しく低下するのでこの手法には効果的ではありません。
今回のように最低気温が10度くらいなら、僕はこのくらいの服装で過ごせます。
山と道のAlpha Socks、Light Alpha Tights、Active Pullover。超軽量で高通気、速乾性にも優れ、風を遮れば保温性も高く、状況によっては行動着としても保温着としても活躍。
クッキングシステムについて
次にクッキングシステムを紹介します。基本的にソロで歩く時は湯を沸かして食べるものしか持っていかないので、こんな感じのギアになります。
まず、ストーブは超コスパと超軽量、超コンパクトでお馴染みのBRSの3000Tを使用しています。このただでさえ小さくて軽い(28g!)3000Tに、僕はEクッカーという12gのガスが入る世界最小のガス缶を組み合わせています。このEクッカーのガス缶は廃版なのでガスを自分で詰め替えて*使用していますが、1泊2日ぶんのお湯を沸かすにはこれだけで十分です。最近では短い山行にはこれ一択になっています。
*OD缶のガス詰め替えは違法ですが、容量1d以下は高圧ガス保安法の第三条より適用除外となっており、これに相当するEクッカーも法の適用外と考え、苑田個人の判断で詰め替え使用しています。
Eクッカーはアウトドア用ストーブとは径が合わないので、アダプター(真ん中)をかませる必要があります。Eストーブやアダプターに関しては『山と道スタッフの推し道具2023 山と道材木座編②』 でも紹介していますので、興味ある方はご覧ください。
次に、クッカーです。以前はアルミ製のグリースポット(900cc)を使用していましたが、最近はひとり分の料理のお湯を沸かすのに500ccが自分にはちょうどいい量だと気づきました。そこで、日本ではまだ未発売のトランギアのポットマイクロ0.5Lを見つけました。蓋込みで94gとチタン製クッカーと比べると超軽量ではありませんが、デザインがかわいいので気に入っています。蓋に湯気穴があるのと、クッカーの内側に計量メモリがついているのもポイント高いです。
カトラリーは、トライテンシルのミニを使用していますが、クッカーに収まらないため、少し短く切ったものを使っています。
ストーブ、ガス缶、カトラリーがすべてクッカーの中に収まります。隙間にはカタカタと音が鳴らないようクッキングペーパーを入れています。
パッキングの順番
では、いよいよこれらの道具をバックパックに詰めていきましょう。
まず、山と道のパックライナーを切って短くしたものをバックパックに入れ、そこにeVentソウルビビィを入れます。ソウルビビィは防水なのでパックライナーは不要かもしれませんが、汗で濡れて臭くなる可能性があるため、僕は安全策として入れています。次に、eVentソウルビビィの中にホットサックVBLを入れます。この際、eVentソウルビビィの頭部のアーチ部分に内蔵されているワイヤーが背中に当たって背負い心地が悪くならないように注意して押し込みます。
山と道のPack Liner(という名の厚手のビニール袋)の上部を切ってバックパックの大きさに合わせています。
まずパックライナーを入れ、続いてeVentソウルビビィの中にホットサックVBLを広げたまま入れていきます。
そして、腰まわりの快適性を確保するために背面側の腰に当たるあたりに保温着のActive Pulloverを入れていきます。これは非常に重要なポイントです。
次に、テント場で使うモバイルバッテリー関連をパッキングします。モバイルバッテリーも山行に合ったmAhを持って行きます。僕が使用しているiPhone 12 Proのバッテリー容量が2,815mAhなので、今回は1.3回程度の充電ができる4,000mAhを選びました。中華系ですが超軽量で61gという特徴があります。これも背中に当たると不快なので、パッキングする際には注意が必要ですね。
パックライナーの中に入れるのはここまでです。
カードサイズのモバイルバッテリー。ケーブルは必要最低限の長さ。
クッカーの中にバーナー、ガス缶、カトラリーをキッチンペーパーと一緒に入れ、DCF素材で防水のスタッフバックにクッキングシステムと食料を入れて、バックパックの上部に収納します。
食料関連は火器や食器や食材までひとまとめにしておくと食事の時やパッキングがラクです。
今回はナイトハイクを長時間行うことも予想していますので、ヘッドライトとしてメインにナイトコアのNU25 ULを、サブにペツルのビンディを持っていきます。これらをすぐに取り出しやすい位置に収納しておくのがポイントです。
NU25 ULは遠くを照らすスポットライトと足元を照らせるフラッドライトのデュアルビームを備えているのでナイトハイクには重宝します。今回はビンディはサブですが普段使いとしてはまだまだ主力選手。
ヘッドライトはバックパック上部についているフックにいつでもすぐに取り出せるようかけておきます。
次に収納するのはテント/雨具のウルトラシルナノタープポンチョです。雨が降ったらすぐに羽織ったり、テント場での設営がスムーズに行えるよう、取り出しやすいバックパックのいちばん上に入れます。
そしてトレッキングポールはマウンテンキングのトレイルブレイズ3セクションを使用していますが、これは基本的にテントの設営と非常事態にしか使わないので、バックパックの背中の端の片方へ入れています。1本だけでもバックパックの形状を維持してくれるので、フレームの代わりになっている気がします。
メインの荷室はこれで終わりです。フロントのメッシュポケットにはエマージェンシーキットと虫除けを入れ、サイドポケットにはペットボトルと行動食を入れて、最後に山と道MINIの背面パッドとして内蔵されている通常版より幅の狭いMinimalist Padをフロントのバンジーコードに取り付けて、パッキングが完了します。
エマージェンシーキットはすぐに取り出せるようバックパックのフロントポケットに入れます。
エマージェンシーキットには用途別にカットしたキネシオテープと応急処置の説明書、ダクトテープ、胃薬と鎮痛剤と持病薬、爪切り、歯ブラシ、コンディショニングのリカバリーのための無添加のサプリ、精製水を含んだ綿、絆創膏、綿棒と薄いゴム手袋、細引き、メガネが壊れた時のための使い捨てコンタクト、雨天時にカメラに被せるシャワーキャップが入っています。
最後に両サイドに500mlのペットボトル2本と、フロントのMinimalist Padと、汗っかきなので手拭いを取り付けて完成! マットが取り付けられるよう、バックパックの上部にはバンジーコードを追加しています。
軽量化のポイント
最後に、僕のULハイキングをするための道具選びのポイントをお伝えします。
- 基礎体力と多少の筋力をつけること
- 自分を理解した上で道具の機能と使い方を理解すること
- 風と気温と断熱について知識を高めること
冒頭にもお伝えした通り、今回の装備は5月中旬の京都一周トレイルを早く、長い時間、長い距離を快適に歩くためのスタイルです。我慢比べの装備と捉える方もいると思いますが、僕にとってはそうではありません。これまでの自分の山行や道具の経験を理解した上で、使いこなせるスキルと工夫、そして自分自身の体力で様々な状況に対応できる装備の選び方をしています。なので、僕にとっては快適で十分な装備になっています。この装備で歩いた京都一周トレイルも当初は2泊3日の予定でしたが、結果的に1泊2日で歩ききることができました。そんなことができるのも思いきった軽量化のおかげです。
もちろん、「スリーピングマットは違うものを持ってくればよかった」「次のこの温度域だったらこの保温着はいらなかった」など毎回反省点はありますが、その繰り返しで自分自身に合った道具選びの最適解を見つけることができます。
道具はあくまで道具です。その道具を使いこなすのも自分自身です。自分を磨いて山を快適に歩き、楽しみましょう!
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記事の内容を苑田と編集長三田が動画でも振り返りました。