以前、この山と道JOURNALSに記載した『ウルトラライト・パッキングのすすめ』という記事をご存知ですか? ULハイキングにおける軽量化メソッドを紹介したものなのですが、実は2020年の公開にも関わらず、今だにこの山と道JOURNALSの月間閲覧数トップ5に入るほどの人気記事になっています。
特に私、JOURNALS編集長・三田の実際のUL装備を詳細に紹介した後編はよく読まれているのですが、ともあれ5年前の記事ですので、そろそろアップデートしたいところ。というわけで今回は山と道材木座店長の前原秀則を召喚し、彼の考える現在のスタンダードなUL装備のパッキング例を紹介してもらうことにしました。
以前の記事と同じく、装備の一点一点から何をどこに、どのようにパッキングしているかまでを詳細に紹介していますので、これからULハイキングの入り口に立とうとしている人や、いまひとつパッキングがうまくいかないという人はぜひ参考にしてみてください。
今回は山と道材木座の店長でもある僕、前原秀則が自分の持っている道具の中から、ULビギナーでも参考にしやすいスタンダードなULハイキング装備を紹介したいと思います。
最近のULハイキングの浸透は凄まじいもので、北アルプスにでも行こうものならULスタイルを見ない日はない程になっている今日この頃。テント泊ハイクも「軽快に歩きた〜い」と思っていても、本当に衣食住の全ての道具が小さなULバックパックに入るのか心配な方も多いはず。そんなULハイキングを始めたいけれど、足踏みしている方に送る今回の企画。全て読み終えると一歩踏み出したくなること間違いなしです。
「すでに知ってるよ」という方には物足りない内容かもしれませんが、そこは初心に立ち帰る気持ちでぬるっと優しい目で見ていただけると嬉しいです。
山と道材木座店長の前原秀則です。山と道入社以来の数年で、すっかり貫禄ある見た目になりました(笑)。皆からはヒデちゃんと呼ばれてます。
装備の軽量化 ≠ 快適?
「装備の軽量化 ≠ 快適」と思われがちなので、まずは説明させてください。
僕らは荷物を軽くするために我慢比べをしたいわけでもないし、軽さを競っているわけでもありません。軽量なこと自体が歩くことを快適にするのと、心が満たされるラインを知ればあれもこれも持っていくことをせずとも満足できるのがわかっているので、荷物を少なくしています。それでもハイキングを最大限楽しんでいます。
道具で満たされることが便利ではないと思っていますし、せっかく都会から離れて自然に飛び込んだのに、背負う物が多いと楽しめるものも楽しめません。それよりも気の赴くままに自然を感じられることほど贅沢なことはないと思っています。
今回紹介する装備は、7月上旬〜9月下旬の夏山シーズンにアルプスや八ヶ岳のような標高2,000m以上のキャンプ地(夜間の最低気温が0°C〜10°Cほど)に宿泊することを想定した装備です。水・食料・燃料などの消耗品を除いた装備の重量であるベースウェイトは、気温が低くなる場合に防寒具を調整するくらいで、何泊になっても基本的に持っていくものも変わりません。
今回の装備一式
GEAR LIST
BASE WEIGHT: 4.2kg
まず、レイヤリングについて
夏山シーズンのハイキングでは、短パン&シャツスタイルが僕の定番です。肌にあたる下着やTシャツは、天然のエアコンと呼ばれるくらい高い調温・調湿機能をもったメリノウールのウェアを着用しています。メリノウールは汗が臭いにくいのもポイントです。
レイヤリングで大事にしていることは、環境や持っている道具に合わせたウェアを身につけること。荷物が軽いから休憩時間を少なく速く歩くことができるし、外気が冷えてきても速く歩いていれば身体は熱くなります。また、荷物が軽いと荷物にふられて転んだり、足をぶつけるリスクも少ないため、このレイヤリングができると思っています。
山と道の100% Merino Light Crew Neck PocketとUL Shirtの組み合わせ。山と道のUL Shirtは、稜線の日差しや風を防いでくれて、かつ超軽量で濡れても乾きやすくシンプルな見た目なので、ハイキング中も下山後も活躍します。
冬山以外は雨でも履いているメレルのトレイルグローブ7。メッシュ素材のため濡れても乾きやすいのと、薄手のソールながらもミッドソールが入っているので、足裏の負担が少ないです。
バックパックについて
僕のメインのバックパックは山と道のMINI2で、背面長が長いLサイズを使用しています。容量は28-38Lで484g(背面パッド込の実測値)。フレームが入っていないフレームレスのバッグパックで、持ってみると見た目以上に軽く感じます。大きなフロントポケットが特徴で、濡れたテントや雨天時にすぐ使用するレインウェアなどを入れられたり便利な反面、ここに荷物を入れすぎるとパッキングのバランスが悪くなるので注意が必要です。
テント泊装備全てをパッキングしたMINI2。バランスが良いパッキングのバックパックは立つらしい。
ULバックパックの象徴とも言えるような(最近は変わりつつあるかもしれませんが)100%上半身荷重のバックパックなので、ヒップベルトがしっかりしているバックパックのように腰荷重はできません。とはいえ、消耗品も含んだ重量であるパックウェイトが7ー8kgまで軽量化されているULハイカーにとっては必要十分で、S字のショルダーストラップやメッシュの柔らかい背面がピタッと上半身にフィットして身体の一部になってくれるので、荷物がブレず軽快にハイキングができます。
このあと、各種道具を紹介していくのですが、素材の進化、メーカーの努力によって道具ひとつひとつが軽くなったり、コンパクトになっているので、これから道具を揃える方は無理せずとも十分30Lクラスでテント泊登山が可能になっていると思います。
メインの気室に入れるもの
それでは、メイン気室に入れるものから順番に紹介します。
まずは、就寝時に使う山と道のUL Pad 15+ 100cm(Sサイズ)をフレーム代わりとして、MINI2の内側に添わせるように入れています。金属フレームがついているバックパックでは不要なことかもしれませんが、フレームレスのバックパックは上手にパッキングしないと、背中にクッカーなどの硬いものが当たってしまったり、そもそも骨格の部分(フレーム)がないのでなんとなく背負い心地が決まらない感じがします。
スリーピングマットが2重になっている部分が背中にくると、当たりが悪くなったり暑くなるのでフロントポケット側に。
そこでクローズドセルマットをフレーム代わりにすることで、バックパックに芯ができて、かつ、道具自体も守ってくれます。また、UL Pad 15+はスリーピングマットとしても優秀で、113g(Sサイズ)と超軽量ながらも断熱の値であるR値は2.0で、グリーンシーズンであれば底冷えもほとんど心配ないと思います。寒さに強い僕は雪山でも単体で使用しています。
次にパックライナーを入れていきます。MINI2は完全防水のバックパックではないため防水のライナーとして使います。外側を覆うザックカバーも良いのですが、MINI2は背面がメッシュのため雨が背中を伝って濡れてしまう可能性があります。そこで中身から防水できるパックライナーが役立ちます。
ナイロン製の防水パックライナーもありますが、山と道ではバックパックを販売する時に付属するビニール袋を単体でパックライナーとしても販売していて、僕もこれを使っています。防水性能はこれでも十分で、ナイロン製のパックライナーよりも安価で重量の面でも有利なのと、テント場で不要な荷物をまとめて入れておける大きな袋としても使えるので、シンプルな道具ながらも使い勝手はすごく良いです。
パックライナーは必要な長さにカットするとより軽量化できます。
ここまででパッキングする準備が整いました。
バックパックの下段に入れるもの
メイン気室にパッキングする順番として、僕は行動中に使う可能性が低いものから順番に入れていきます。
まずはダウンの寝袋。軽量だけど嵩張るし行動中にほぼ使わないものの代表格。寝袋が濡れたら撤退を考えても良いと個人的には思うくらい濡らしたくないアイテムですが、パックライナー自体が大きな防水のスタッフサックとなるため、寝袋収納ケースに入れずにそのままパッキングしていきます。また腰骨上部に柔らかい寝袋が来るので当たりが良くなるのと、軽いものがバックパック下部にいくので背負い心地も良くなります。
ダウンジャケットはダウン量180gでバフバフなロフト感のマウンテンイクイップメントのクラウドセーター。寝袋を上半身に巻くことでテント場での保温着の代わりになるので、ダウンジャケットは持っていかないことも。寝袋は廃盤のゼログラムのトゥオルミSULスリーピングバッグ。464gの重量ながらも下限マイナス7.5℃のスペック。
また、テント場で使用するダウンジャケットや山と道のLight Alpha Tightsも寝袋の中に入れて一緒に収納しています。こうすることで、寝袋を取り出すだけで就寝用具も一緒に全て出せるわけです(Light Alpha Tightsは通気性と保温性のバランスが良く蒸れにくいので行動中も着用し続けることができるのですが、僕はショーツのみのスタイルが好きなので今回は就寝用具としています)。
寝袋は足側からの方が空気が抜けるので入れやすく、その後に就寝着も入れやすくなります。まずは軽量でロフトのあるダウンジャケットを入れます。
Light Alpha Tightsの他にも、Alpha Socksや枕も寝袋に入れます。
寝袋の上には、ソックスやパンツ、ベースレイヤーなどの着替えを入れたジップロックを入れます。僕は夏でも防寒着としても使えるように100% Merino Light Hoodyのようなロングスリーブタイプを着替えとして持っていきます。パックライナー内に入れるので、防水のスタッフサックじゃなくても良いのですが、なんだかんだ軽いのと中身が見えるのでジップロックを使用しています。また、僕はテント場でしかモバイルバッテリーを使わないので、なくさないように充電ケーブルと一緒にこの中に入れることが多く、小分けの袋的な意味もあります。
着替えとモバイルバッテリーはジップロックにひとまとめに。
着替えは100% Merino Hoodyと靴下、パンツのみ。メリノウールは防臭性が高いので、泊数が増えても着替えの量は変わりません。
ここまででパックライナーを閉じます。バックパック内の全ての道具をパックライナーに入れるパターンもあると思いますが、バックパック、パックライナー、スタッフサックと展開する工数が増えてしまうので、濡れたら致命的なもののみ入れることを個人的にはおすすめします。
バックパックの中段に入れるもの
では、次にストーブやクッカーなどのクッキングシステムや食料が入った山と道のStuff Pack XLです。ULスタイルで歩いていると、軽快で気持ちよく、そのまま行けるところまで歩きたくなるもの。昼食は行動食で済ましてしまうことが多くなり、調理をするのはテント場のみで行動中にバックパックから取り出すことはほとんどありません。
食事系のものは食料・クッカー・ストーブなどをすべてひとつにまとめることがおすすめで、テント場で友人のテントの近くまで移動して宴会する時などにも便利です。
調理器具はワンダーラストイクイップメントのグリースポット&コジーキットとエバニューのTi アルコールストーブに加えて、折りたたみスポークやチタンのカップも持っています。
グリースポットは2人でも余裕で対応できる大容量(900ml)のクッカーで、ULハイキング的には必要十分以上に思われるかもしれないのですが、個人的には食べられればなんでも良い訳ではなく、食事もハイキングの楽しみのひとつとして考えているので、様々なメニューに対応できるこのサイズ感は譲れないのです。
Stuff Pack XLの中に入っているもの。これ以外に食料も入れます。アルコールストーブや風防は全てクッカー内に収納してコンパクトになります。
今回の装備ではアルコールストーブですが、長期縦走になった場合は必要な燃料が多くなるので、ガスストーブの方がいい場合もあります。固形燃料にもネイチャーストーブにもそれぞれメリット、デメリットがあるので、どの道具にも共通しますが一概に「これが絶対いい!」というものはありません。
バックパックの上段に入れるもの
バックパック上部には、行動中に使う可能性があるものやテント場に着いたらすぐに使用するものを入れます。
「テント場」というくらいなので、真っ先にやることはテントの設営(笑)。そのため僕はバックパックのメイン気室のいちばん上にテントを入れています。タープや自立式テントなどいろいろなタイプがありますが、居住空間も広く、耐候性も比較的高いフロアレスシェルターがまずは取り回しやすいのではと思います。これも先ほどのバーナー同様にそれぞれに長所短所があるため、天候や気温、設営場所によっても使い分けることが大事です。
テントはライトウェイのピラミッドデュオ。フロアレスで、非常にコンパクトに収納できます。一般的なダブルウォールのドームテントはここまで小さくならないので、MINI2のような30Lクラスのバックパックでテント泊するには厳しいかも。
ふたりでも快適に寝れる広さのピラミッドデュオはガイライン込みで446g。ピラミッド型でシンプルで、4隅をペグダウンするだけで設営できる。
グランドシートはSOLのエマージェンシーシートを自分サイズにカットしたものです。名前の通りエマージェンシーシートとしても使えるので、ひとつで2役となり荷物も減るわけです。これもテントを収納するスタッフサックに入れておきます。
バックパック内の最上部には山と道のActive Pulloverを入れます。ベースレイヤーとしては暑い場合は軽量な保温行動着として使用するので、冷え込んだ時にさっと取り出しやすい場所に入れておきます。雨が降ったら濡れてしまうんじゃないかという声もあるかと思いますが、MINI2は雨水が内部に侵入するまでに30分ほどかかることが多く、稜線の場合だとすぐに羽織る可能性が高いのと、暑くなりそうな樹林帯ではそもそも雨の影響は少ないので、この位置にActive Pulloverを入れるのがしっくりきています。
バックパックのトップには寒くなったらさっと羽織れるものを入れています。
ここまでがバックパック内部のパッキングで、次はフロントポケットに入れるものを紹介していきます。
フロントポケットに入れるもの
先述の通り、山と道のMINI2のフロントポケットはマチがあり、大型で本当に色々なものが入ります。その反面、モノを入れすぎてパッキングのバランスが悪くなってしまうことも。身体重心に近いところ、身体の高い位置で背負うという基本セオリーに乗っ取ると、フロントポケットに入れるものは軽いものが正解です。加えて、バックパック内部にアクセスせず、すぐに使いたいもの(緊急性の高いものなど)を入れています。
まずは、山と道のUL All-weather HoodyとUL All-weather Pants。「全天候型行動着」の名を持つUL All-weatherシリーズは、降りしきる雨も稜線の風の時もさまざまなシチュエーションで着用するため、いちばん取りやすい場所に入れておきます。縦長にしてパッキングしているのもポイントで、縦に入れることでサッと取り出しやすくしています。合わせて山と道のUL Mittensも入れています。
山と道のUL All-weather HoodyとUL All-weather Pants、UL Mittens。超軽量で防水性、防風性、通気性も備える優れもの。
そしてエマージェンシーキットも僕はすぐに取り出せるようフロントポケット入れています。出血などの怪我をした時にバックパックの奥底に入っていたらゾッとしませんか? スタンダードなULハイキング装備と言っておきながら僕はアルミ缶に入れているのですが(笑)、皆さんにおすすめはジップロックに入れておくこと。透明で中身が見えるのと高い防水性、軽さ、そして何よりも安いのがいいですね。また、「使い方がわからないのにテーピングは持っていないか?」「必要以上に持っていないか」など、中身は自分が使いこなせるものだけにすることが大事です。トイレットペーパーも同じく芯を抜いてジップロックに入れています。
縦に収納したUL All-weatherシリーズ以外にフロントポケットに入れるもの。
エマージェンシーキットはひとまとめに。缶はバレンタインデーに妻からもらった思い出の品で、意外と湿気にも強いらしい。
ヘッドライトはペツルの小型ライトのビンディを使用しています。夜間行動は行わないので、テント場で身の回りを照らすことができればいいと思っていますし、もし夜間に歩くことになっても十分な明るさだと思っています。暗くなってからすぐに装着したいので、フロントポケットにあるキーループに取り付けています。
他にも手ぬぐいもフロントポケットに入れています。
サイドポケットに入れるもの
最後はサイドポケットです。MINI2のサイドポケットは、ショルダーストラップを緩めれば簡単にアクセスできるので、こちらも行動中に使用するものを入れておきます。個人的には、フロントポケットに入っているものより行動中によく取り出すものがおすすめ。僕は、ウォーターキャリー、トレッキングポール、行動食を入れています。
ウォーターキャリーにはペットボトル(1L)2本を両サイドのポケットに入れます。片方に常にソーヤーの浄水器を取り付けており、浄水が必要な場面でもすぐに使えるようにしています。ペットボトルはシンプルで強度もあり、そして何より軽量なので水を運ぶためだけならこれで十分です。
行動食もその日に必要な分だけジップロックに入れています。
これで、テント泊装備全てのパッキングは終了です。ご覧の通り30L前後でもULハイキング装備であれば、十分収納できるのです。
後ろからの写真。これに食料が入ったとしても十分バックパック内に収納できる。
最後に、自分なりの道具選びのポイントとしては
- 自分にとって必要で使える道具だけを持つ
- ポイントを決めてメリハリをつける
- シンプルなものを選ぶ
ハイキングのスタイルはハイカーの数だけ千差万別で、同じく選ぶ道具もひとつとして同じものはありません。もちろん、気候や外気、体温の個人差によって防寒具の類は変わるのと、個人の趣向によってその人に必要な道具は変わります。
とはいえ、荷物を軽量化することで、自然に溶け込みやすくなったり歩くことそのものが快適で楽しくなることはみんな同じはず。
今回、スタンダードなULハイキング装備とは言っていますが、これが「正解」だとは全くもって思ってはおりません。自然のことも、道具のことも、はたまた自分のことも深く知ることで装備が洗練されていき、最高のハイキングのための心強い仲間になってくれるでしょう。
みなさんがこの記事を読んで、テント泊ハイキングをUL装備で行く一助になれば、大変嬉しく思います。
YouTube
記事の内容を前原と編集長三田が動画でも振り返りました。