物作りを取り巻く
環境について聞こう
interview with unisteps
2024.02.29

山と道なりの環境や社会に対するアクションである「捨てない物作り」プロジェクト。このプロジェクトを進めるにあたり、世界の物作りと環境問題の関係についての現状を知るべきだと考えました。

そこで、ファッション産業の健全化を目指すグローバルキャンペーンFASHION REVOLUTIONの日本事務局を務める一般社団法人unisteps共同代表の竹村伊央さんを「山と道大仏研究所」にお招きし、代表の夏目彰・由美子が話をお聞きしました。

サステナブルの現状やファッション産業が抱える構造的な問題、消費者としての環境への向き合い方や山と道のような小さい企業だからこそできることなど、対話は現在と未来への示唆に富むものとなりました。より良き環境への取り組みやサステナビリティについて、皆さんの考えるヒントになれば幸いです。

構成/文:渡邊卓郎
写真:三田正明

取材は2024年の1月16日、山と道大仏研究所で行いました。

サステナブルな物作りとは

夏目彰(以下:夏目) 僕たちは「捨てない物作り」というテーマに向きあって製品の開発や生産や販売を行っているのですが、山と道として向かっている方向がそもそも正しいのだろうかという漠然とした疑問がありました。竹村さんには物作りを取り巻くサステナブル*の現状をお聞きできればと思っています。unistepsさんが作成した資料「インフォグラフィックまとめ」を拝見したのですが、僕が思っている以上にサステナブルな活動が発展していて、世界が少しずつ変わりつつあるということを実感しました。現在の状況についてはどのように捉えているのでしょうか?

*英語で「持続可能な」という意味を持つサステナブル。環境や社会、経済の問題を解決しつつ未来の世代にもよい状態を繋いでいくという思考。

竹村伊央(以下:竹村) ここ10年ほどで、ファッション産業が環境に与える影響に関する調査研究が進み、国際機関などでも問題視されるようになりました。それに伴い、ファッション産業に関わる人々の問題意識が高まっていると思います。業界全体が何かしら行動しなければいけないという意識にはなっていますね。最近は、グリーンウォッシュ*が問題視されています。広告ではサステナビリティに関する取り組みを喧伝していても、事業全体としては逆行していることもあり、消費者を混乱させてしまうのでもっと厳しく取り締まろうという風潮があります。

*環境に配慮していないのだが、環境に配慮した取り組みをしているように見せかけること。

夏目 サステナブルへの取り組みが増えているという今の状況自体はよいものとしてとらえていいのでしょうか?

竹村 そうですね。サステナブルに対する意識自体は高まっていてよい傾向だとは思います。でも、グリーンウォッシュの問題も出てきていますので厳しくしないと飽和するというか、サステナブルの意味が曖昧になってしまったり、間違った情報が伝えられていってしまうと取り返しがつかないので、そこを規制しましょうという流れになっているような気がします。

夏目 国や地域でもサステナブルに対する関心度は変わりますよね。

竹村 それは大いにあると思います。日本で言えば東京は意識が高いけれど、一歩地方に出たら状況はまるで変わります。同じ内容を話しても受け取り方が大きく異なります。

竹村伊央 一般社団法人unisteps co-founder / ファッションスタイリスト。1982年名古屋市生まれ。2002年に渡英。ファッションの大学及び大学院を卒業後、英国発アップサイクルブランドに勤務しながらスタイリストとしてエシカルなファッションスタイリングを雑誌等で発表。 2010年帰国後、2012年にエシカルファッション推進団体:ETHICAL FASHION JAPAN(EFJ)を設立し個人活動をスタート。2016年よりFASHION REVOLUTION日本支部長に就任。2020年仲間と一緒に一般社団法人unistepsを設立。

夏目由美子(以下:由美子) サステナブルな物作りというと、リサイクル素材を使う以外にどんな方法があるのでしょうか?

竹村 まず何よりも価格や生産量など生産のあり方を適正にすることが重要だと思います。とても難しいことかと思いますが適量生産と、長く使われることを考えて物を作ること。ものを作るならオーガニックやリサイクル素材など環境配慮された素材を使いましょうよ、という流れかと思います。

夏目 単純にリサイクルされた素材を使えばいいのか、そしてカーボンニュートラル*をすれば大量に生産していいのか、ということを考えるとどこか腑に落ちないものがあるんです。様々な情報を見ていくと、たくさんの衣料品が廃棄されていることを知ったりしますし、大量に作り続けること自体が問題だと感じます。この状況について教えていただきたいです。

*二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量と森林などによる吸収量を均衝させることで環境に与える負荷の影響を実質ゼロにすること。実現するためにできることは環境負荷の少ない素材やエネルギーを選ぶこと、リサイクルやリペアをしやすい商品の製造、適量生産と購入、リサイクルやアップサイクルが考えられる。

竹村 服の廃棄問題には3段階あると思っています。ひとつは、作ったものが世に出ずに廃棄されること。もうひとつが、売れ残ったものが2次流通に渡ってそこで廃棄されること。そして、消費者に渡った後に消費者が捨てるという3段階です。この、どの部分に対してアプローチするかを考えていかないと、わかりづらくなってしまうと思います。フランスでは「売れ残りを焼却処分してはいけない」という国の規制がありますが、ちゃんとできているかと言ったら、まだまだという段階です。とはいえ、欧米を筆頭にして捨てるということに対しての意識とかは高いし、なんとかしなければいけないというのがファッション業界の各社が模索をしている段階なのだと思います。

山と道代表の夏目彰。

夏目 ファンの方が買えない状況はすごく悲しいんです。だから、どうしても買いたい方のために生産の前にお客様から受注を取る予約販売というシステムを作りました。受注からお届けまでは1年近くかかるのでお客様にはちょっと難しいお願いなのかもしれないですけど、予約販売によって本当に欲しいものが手に入る状況ができましたし、かつ、ある程度適正な生産数も把握することができるようになりました。なので、この仕組みは続けたいと思っています。

竹村 ファッションだと1年後だとトレンドが変わっていて、ちょっとずれてしまうという問題もあるので、アウトドアの製品ゆえに成り立つ話かなと思いました。でも、予約販売を経て自分の元に届いた時には、プレゼントのようでいいですね。

夏目 そうですね。ファッションとはやはり文脈が違いますね。僕たちが作っているのは道具なんです。ものすごい時間をかけて自分たちの最高だと思うところまで突き詰めた上で製品化していて、だからこそほぼ廃番がないんですよ。そうやってずっと作って売り続けているからお客様も安心して1年前に予約してくれているようです。そういう信頼性のある関係はできていると感じています。僕は世の中に他にあるものは作りたくないんです。他に製品があるならそれを買えばいいし、世界にないから自分たちで作りたい。そして、自分たちが実際に山を歩いて欲しいものを作るというスタンスでやっています。中途半端なものだったら山も楽しくないですしね。自分たちが使いたいと思う最高のものを作りたいんです。

竹村 製品になる前にテストが長いかと思いますがどれくらい時間がかかるんですか?

夏目 物によりけりですけど平均して3〜4年。いちばん長いもので7年かかっています。ゆっくりと物作りを行っています。最近発売した雪山用の製品でAll-weather Alpha Jacketというのがあって、本当は2年前に発売しようと思っていたんですけど、テストで気になる点があって発売を延期してさらに修正したり。そんなふうに毎週山に行ってテストをして、直して、また山に行ってということを延々繰り返しています。

竹村 7年! 驚きました。世の中のメーカーでは毎年、1年や半年とかで新しいモデルが出てくることがあるじゃないですか。そうなると、前のモデルが型落ちになっちゃうのがもったいないなとも思っていたんです。そこまで時間をかけて生み出される物なんですね。

数メートルの余り生地も無駄にしない物作り

夏目 僕たちは企画から生産までの間に生じる残反もなるべく捨てずに、どうにか製品化しようと考えています。今回の「捨てない物作り」の企画では、残っている生地を製品にする試みをしていますが、生地によっては数メートルしか残っていないものもあり、色によっては2点しか生産できない製品もありました。ここまで小ロットで多品種の生産は断られるのが普通だと思うのですが、今回、僕たちの日本の協力工場のおかげで、製品化することができました。この取り組みは非効率で、企業としては利益は生まないことはよくわかっているのですが、やらなければいけないことだとスタッフみんなに理解してもらえました。企画から生産の無駄をなくすだけでなく、協力工場やサプライヤーとの良い関係性を築いていなければ形にすることはできなかったと思います。

竹村 すごいですね! 2点だけ作ってくれる工場があるんですね。消費者目線で言えば、目の前にある商品からしか情報を得られないため、商品の背景を知れることで値段や数量にも納得するのではないでしょうか。サプライヤーさんとの関係性が大切ですよね。とある会社さんでは、廃棄率は1〜2%ということですが、分母が何万枚・何十万枚という時にはそれでも大きな規模の廃棄になってしまいます。ビジネスを大きく仕組み化していく中で”誤差”として見過ごされてしまうこともある中で、物作りの背景の伝え方はすごく難しいことだと思いますけど、数メートルの余りもきちんとものづくりに活かす姿勢は信頼性が上がることだと思います。

夏目 ありがとうございます。僕たちは修理もすごく大切に捉えていて、これまで依頼された修理すべてにできる限り応えてきました。僕たちは修理を通じて、製品の問題点を把握し、お客様とコミュニケーションをとっています。でも、正直、修理は大変で、修理工賃以上に手間がかかります。お客様とのコミュニケーションも簡単ではありません。大変だからこそ修理とどう向き合っていくのか、今後も大きな課題だと感じています。例えば10年以上前のものって、特に化学繊維の寿命があるんですよね。どうしても劣化していく。劣化した部分を全部新しい生地にして直すことはできるんですけど、まるで違う顔になってしまうのでそれでいいのかな? と思ってしまうのと、その手間隙をかけるのが本当にいいことなのかと考えてしまいます。

竹村 「お直し」と聞くと、元通りにするのが一般的なのが私はすごく嫌で、私がお直しする時も全く別のものに変えちゃったりとかするんですよ。変わっていくのは全然いいと思うんです。そういう価値観が広まってほしいなとも思います。

対談後、修理部の北島も加わり竹村さんに修理品の数々を見ていただきました。

MINIのフロントポケットのファスナーを修理例。現在はこのX-pac LS42の素材は使用していないため、お客様の希望で別の似た生地で当て布をし、さらに遊び心も加えて修理しました。

夏目 なるほど。あと、製品がいよいよ寿命を終えた時にどうするべきなのかも考えてしまいます。

竹村 ある会社では廃棄される衣服や繊維を回収して無害化して肥料にして、その肥料を使って野菜を育てて販売するという仕組みを開発しています。あと、誰にも渡せない服に関しては回収してポリエステル繊維から再生ポリエステルを生み出す取り組みをしているところがありますね。BRINGさんなどが有名です。

夏目 僕たちも極力、循環できるような形を目指したいと思っています。とはいえ、僕たちはアウトドアメーカーなので製品の機能性が最も重要だと考えています。機能性が落ちることで下手したら人は死んでしまいますからね。今向き合っていることに撥水剤の問題があります。欧米ではフライパンのテフロン加工などにも使われるフッ素が環境にも人体にも悪影響があるということでどんどん使われなくなっていますが、撥水剤にはフッ素が使われていることが多いんです。それでC0というフッ素フリーの撥水剤が出てきていろんなメーカーが採用したのですが、C0は手の油が着いただけで撥水性能が落ちてしまいます。だから僕たちはC0の撥水剤ではなく、特に深刻な有害物質であるPFOA(有機フッ素化合物)を含まず、人体への害が少ないとされるC6と呼ばれる撥水加工を使うようにしているのです。実用性や実情を無視してサステナブルであることがいちばん、という考え方に少し息苦しさを感じていますがどう思われますか?

竹村 だからこそ、実用性を持った上で、自然環境や人体へ害を及ぼさない素材や加工の開発に投資したり、参画したりするアパレル企業さんも増えていますね。実用性や美しさは追求して然るべきですし、一方で何か害を生んでしまうことを知ったのだとしたら、それを減らしたり無くしたりする方法を考えたい、そういった思いを持つメーカーさんと技術を持つ研究者が協働をしていくことから未来の可能性が広がっていくと思います。私はサステナブルなブランドだから服を買うということをやっていた時期があるんですね。でも、そうなるとデザインや色が自分のいちばんじゃないのでテンションが上がらなくなってきて、これはちょっと違うなって思ったんです。サステナブルの取り組みを選択することは、絶対にやらないといけないことだし、推進するべきことだとは思いますが、今はやはり自分が絶対に好きなものを買おうと思っています。

由美子 大切にしたいものをしっかりと選んで買う。そして過剰に買わないということですよね。

竹村 そうですね。unistepsのスタッフの中でよく言ってるのは、値段を見てしまうと判断がブレるので値段は最後に見ようと。自分がピンと来たものをまず選んで、そして、どういう素材が使われているかとか、着心地とかっていうのがあって、最後の最後に値段を見て、買えるか買えないかをジャッジするみたいな。100パーセント好きなものだけにしようって話をしています。

夏目 うちのスタッフが言っていてハッとしたんですけど、 山と道と関わってからタンスの量が半分以下になったそうなんです。うちの製品は山で使えるけれど街でも使えてシャツとかはフォーマル的にも使える。それで物がどんどん減っていって結果的にタンスの量が減ったんですと。意識していませんでしたが、そういう話を聞くと、環境に対しても貢献はできているかもしれないと思いました。

竹村 服でも何でも、たくさんないといけないと思っているけれどそうじゃないんですよね。

小さな企業だからこそできること

夏目 石油製品についてご意見をお聞きしたいです。人によっては極端に石油系製品が悪だという人がいるかと思いますが、僕たちは石油系の素材で製品を作っていて、絶対必要な存在ということもあり、その風潮には少し抵抗を感じてしまっています。

竹村 石油は枯渇資源なので特にバージンの(リサイクル素材を使わない)石油由来製品を作ることは世界的に慎重になる傾向がありますね。また、洗濯時のマイクロプラスチックの課題*も大きいと思います。ただ、天然繊維だからいいかと言うと、例えばコットンの生産過程ではものすごい量の水が必要なんです。また、化学肥料や農薬の投入量も多く、土壌や水質汚染、農家さんの健康被害も懸念されています。このように、天然製品だから絶対に良いと言ってしまうのは間違っていると思います。現在、アウトドア製品だけじゃなく洋服の約60%がポリエステル素材ということを考えると、それらを資源と捉え、役目を終えた後に集めてまた再利用化するという仕組みを構築していければと良いと思います。

*洗濯時に合成繊維の衣類からマイクロプラスチックファイバーが抜け落ちて排水される。

夏目 大きな企業ができることと、僕たちのような小さな企業ができることは全く違うような気がしています。例えば大きな企業だと、株主に対する情報の公開性であったりとか、社会的にも影響力が大きいからこそ、社会全般に対して何かやらないといけないことがあると思います。でも、僕らみたいな小さな企業はそもそもできることが限られているというのと、何を大事にするかを考えた時にまずは関係者やお客様、コミュニティを大事にしないといけないなと思っています。

今回の「捨てない物作り」プロジェクトに向けて作成したアートワーク。Illustration: KOH BODY

竹村 今取り組まれていることがとても素晴らしいなと思います。大きな企業って生産量も大きいですし、提携先も多いので、インパクトがものすごく大きいんですね。例えば売り上げを1パーセントでも環境の方に使うだけでも、すごく大きな影響が出るので、大企業はやはりそこは責任を持って製品作りとか発信をすべきだと思います。unistepsでやっているファッショレボリューションというグローバルキャンペーンがあるんですけど、その中で「ファッション透明性インデックス」という指標があって、世界の250の主要ブランドを対象にして企業の透明性を順位として評価していくものなんですけど、そこに小さいブランドを混ぜて話しちゃうと、全然議論が成り立たないので、 売り上げが大きい企業と小さい企業は問題を分けて話すべきだと思います。

夏目 僕たちは今後どんな形でやっていくとより良くなっていきますかね。

竹村 小さいブランドさんはずっとやられてることだと思うんですけど、お客様との距離が近いことがすごく強みだと思うんですね。個人的な意見ではありますが、販売員の方ってとても大切な存在だと思うんです。ただ、特に大きな企業になると、販売員の方が会社組織の中でいちばん下部の存在になってしまっていたり、会社のものづくりのことやサステナビリティに関する取り組みについて情報が行き渡っていなかったりします。お客さんにいちばん近く、直接情報や思いを伝えられる存在なのに、それってすごくもったいないですよね。小さい企業はそういうコミュニケーションこそがすごく大事だと思っています。私も山と道さんのお店に行ったことがありますが、販売員さんが製品について詳しくて、コミュニケーションをよく取られていますよね。店舗のスタッフがきちんと情報を持って、お客さんとのコミュニケーションから何かが生まれ、自分たちのビジネスに繋がっていくっていうことができるといいですよね。

夏目 ありがとうございます。竹村さんが言われたように、ショップのコミュニケーションスタッフがすごく大事だと思っています。今話したようなことや循環の話まではコミュニケーションスタッフにまでは共有できていないから、さらに勉強をして、スタッフ皆で共有し、お客様にも伝えることができたらもっと良くなっていけるのかなと思いました。

対談を終えて

山と道を設立してから、常に意味のある製品を作りたい、意義のある会社を作りたいと考えてこれまでやってきました。世界の物作りがサステナブルにシフトしていく状況を横目で見つつ、リサイクル素材を使いながらも大量生産や大量消費が加速していく流れに違和感を感じてきたのも事実です。

ですが、2023年に行ったドイツのミュンヘンで開かれる世界最大規模のアウトドア展示会『ISPO』で、リサイクル素材を使うだけでなく、生地を使い切ることや、無駄を省いた生産、裁断クズのリサイクルなど、サステナブルな物作りに対してのより本質的な議論がはじまってきていることを感じました。

そこで、今回の企画「捨てない物作り」を通して現状を深く知りたいと思い、unistepsの竹村さんとの対談を企画したのですが、対談を終えてみて、製品の循環のサイクル、透明性、素材の選択など、自分たちなりにやれることや小さな企業でも取り組めることがまだまだあるはずだと深く考えるいいきっかけになりました。竹村さんありがとうございました。 (山と道代表 夏目彰)

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