誰にでもある、思い出の道具やどうしても捨てられない道具、ずっと使い続けている道具。
この『HIKERS’ CLASSICS』は、山と道がいつも刺激を受けているハイカーやランナー、アスリートの方々に、それぞれの「クラシック(古典・名作)」と呼べる山道具を語っていただくリレー連載ですが、数回に渡って『山と道HLC』のアンバサダーを勤めていただいている方々のCLASSICSを紹介していきます。
山と道HLCアンバサダー第3弾となる今回の寄稿者は、10代の頃ダンスとブラックカルチャーに魅了されニューヨークに渡り、帰国後は故郷の岩手県でマウンテンランニング、バッグカントリースキー、クライミングなど、オールシーズンの自然を遊ぶアウトドアショップ『knotty』の上野裕樹さんです。
音楽の持つグルーヴ感を感じながら、様々なアクティビティで山に入る上野さんのCLASSICSとは?
NOTE
自然の中で遊ぶことから音楽とダンスへ
幼少期の頃から、家族で登山やスキーをしていた。小学校での冬の体育授業はスキー。遠足もスキー遠足だった。生まれ育った岩手では当たり前のことだ。
中学3年の時、TV番組のダンス甲子園を見てから自然で遊ぶことより、音楽とダンスに興味を持つようになった。MTVやボーリング場で海外アーティストのプロモーションビデオを見ては、CDやレコードを聴きあさった。ブラックミュージックとダンスにどっぷりと浸かり、日本だけでは物足りなくなりアメリカへ渡った。
1999年、当時のニューヨークは全てが刺激的だった。足を踏み入れるのも怖いエリアがまだまだあった頃で、昼はダンススクール、夜はクラブで踊り明かした。仲間と一緒でも、ひとりでも楽しむことができる最高の場所だった。言葉が伝わらなくても音楽とダンスが人と人を繋げてくれる、このグルーヴ感に感動し、本場ニューヨークのダンスカルチャーの深さを実感することができた。
街や公園にはバスケットゴールや筋トレ器具、ランニングやスケートボードをする人、日常の中にあたりまえのようにスポーツがあり、ライフスタイルとスポーツとの壁がないことを知った。その中でもインラインスケートをしていた黒人が一際かっこよく、自分もすぐに購入し、街を滑った。
綺麗な街並みを、好きな音楽を聴きながら滑ってると色々なイマジネーションが湧いた。音楽とスポーツが自分の中でリンクしはじめたのはこの頃からだと思う。
山と音楽のグルーヴ
帰国後、ライフスタイルとスポーツに近いところに身を置こうと、登山専門店に就職した。たまたま流れていた何かのブランドのプロモーションビデオに使われていた音楽が、大好きなアーティストだった。その映像と音を頭の中でコネクトさせながら山に入って、音楽に合わせて走ったり、スキーでは理想のライン取りが浮かんで滑ることができた。気づくと音楽とともに登山、クライミング、沢登り、トレイルランニング、バックカントリースキーと、オールシーズンの山に向かっていた。
四季がはっきりしている岩手。夏はシューズで歩いていたトレイルも、冬には雪が積もりスキーやスノーシューで歩くようになる。同じ山でも季節が変わることで、感じることも変わる。登頂する達成感、岩に向き合う集中力、イメージ通りのライン取りで滑れた時の爽快感、山の景色や空気、リスクマネージメントも大きく変わる。
山を共にする仲間、身につけるウェア、持っていくギアの選択、その時々でいかに自然と調和できるか? それらが融合した時、音楽が持つグルーヴを山でも感じることができた。
仕事でも山道具に囲まれる日々。自分の性格上、新しいギアは試さずにいられない。名品に出会えた時の感動が、また山へと引き寄せる。年齢を重ねるごとに、感じることも変わっていくだろう。これからも続く山人生で、どんなグルーヴを感じられるだろうか?
自分もまだ知らない、友やギアに出会い、新しい遊びを見つけた子供のようにな、新たな気持ちで山に向かえることができれば最高だと思っている。
今回のセレクトは四季で山遊びが変わる東北感のある道具を選択しました。音楽が持つグルーヴ感と仲間たちと山で過ごす時間もそれと似ている。