2018年の山と道の『HIKE / LIFE / COMMUNITY(以下HLC)』の旅が終わりました。
昨年は全国24ヶ所を廻り、多くの日本各地のハイカーやお客様と交流させていただきましたが、今年は5カ所と規模を縮小し、そのぶん訪れた各地で出会った人々と、より深く交流することを主眼に置いた旅を行ないました。
その前半編となる岩手のKnottyと那須のLunettesでのHLCはすでに山と道JOUUNALSでもお伝えしましたが、今回はその後半編となる松山のT-mountain、京都の山食音、鎌倉の山と道でそれぞれ行われたイベントの模様をレポートします。
また、記事末にはHLCのプロジェクトリーダーを務める豊嶋秀樹と夏目彰のインタビューも掲載、2018年を振り返りつつ、2019年のHLCを展望します。
HIKE LIFE COMMUNITY 2018 スケジュール
愛媛県松山市 T-mountain
(2018年11月17日)
落胆からのスタート
空港の到着ロビーに出ると、土産物屋の前に「みかんジュースの蛇口」が!
11月16日、岩手のKnotty、那須のLunettesと続いてきた2018年のHIKE / LIFE / COMMUNITY(HLC)の旅は本州を飛び出し、愛媛県松山市のT-mountainにやってきました。
空港を出ると空気が東京よりも心なしか暖かく、本州から海を隔てた「異国」にやってきた気持ちが昂まります。
ともあれ、今年のHLCでは各地で各会場のお店の常連さんや関係者を募って地元のトレイルをハイキングすることをプログラムに組み込んでいたのですが、事前に聞いていた松山での参加者はわずか3人! さらに松山市内のT-mountainを訪れると、店主の菅野哲さんから参加者は菅野さん含めて2名になったと聞き、軽く落胆する一同でしたが(毎回、地元の方と地元のトレイルを歩くことをとても楽しみにしていたのです)、まあ、それはそれ。人数が少ないなら少ないで、多いときとはまた別の体験ができるからいいじゃないか。
松山市のなかでも松山城の麓という中心部に位置するT-mountainに一歩足を踏みれると、まずその商品点数の多さに驚きました。ハンガーにも通常の1.5倍ほどはウェアがかかっているのではないでしょうか。アウトドアショップの数が少ない四国だからこそお客さんに直接商品を手に取って見てもらいたいという、菅野さんの心意気を感じます。
かつて大手アウトドアショップで働かれていた菅野さんが2013年に開かれたT-mountainは、大手が扱わない製品を取り扱うことをモットーに、トレイルランやULハイキング、クライミングなどに特化したマニアックな品揃えで、県外からも人が訪れるといいます。お店を続けるうちに、意外と地元の人も地元の山の魅力を知らないことに気づき、現在は地元の人に地元の山の魅力や楽しみ方を提案することに力を入れているとか。
いつも笑顔を絶やさない菅野さんはいかにも「面白くて頼れるアニキ」といった雰囲気で、「こんな人がいるアウトドアショップが地元にあったらいいな」と思いました。T-mountainは、そんな菅野さんのお店なのです。
夜は道後温泉に浸かり、菅野さんのアテンドでキジ料理をいただき(なかでもキジのたたきは夏目彰が「いままで食べた肉でいちばんおいしい!」と言うほどの味でした)、翌日のハイキングとイベントに備えました。
皿ヶ嶺へのハイキング
翌日は当初、四国最高峰の石鎚山を登る予定でしたが、天気予報があまり優れなかったため予定を変更、松山市内からもクルマで30分ほどの皿ヶ嶺に向かいました。
この皿ヶ嶺は松山市民にとっても「市民の森」的な存在で、四季折々たくさんの人が訪れるものの整備されすぎてなく、そこが良いところ、と菅野さん。クルマから見えた石鎚山は雲の中でしたが皿ヶ嶺上空は快晴で、唯一のハイキング参加者となった水口さんを交えて意気揚々と歩き始めます。
なだらかなつづら折りのトレイルを登って稜線に出ると雰囲気が変わり、竜神平という広い笹の平野に出ました。小さな山小屋もあって宴会ハイクにはぴったりな場所で、いつかここでHLCのイベントなんかもできたら良さそうだと思いました。
竜神平でしばし休憩ののち皿ヶ嶺の頂上を踏み、下山。心配した天気は結局最後まで快晴で、穏やかな秋のハイキングを終えました。
四国の山は広くて深い
松山市内に帰ってきたあとはそれぞれ市内を観光したり思い思いに過ごし、トークイベントの会場となる松山市内の「3rd Floor」というイベントスペースに向かいました。
トークイベントの参加者も今回のHLCでいちばん少ない12人ほどで、イベントの集客としては寂しいものでしたが、まあ、それはそれ。別にHLCは多くの人を集めることを目的にしているわけではなく、そこで出会えた人とどれだけ関係を築けるかが主題なのです(強がりではありません!)。
実際、今年のHLCではトーク中も会場にマイクを回して参加者にも積極的に発言していただいているのですが、この日は人数が少ないぶん皆さんリラックスしてご自身の山の経験や楽しみ方についてお話ししていただけました。
印象的だったのは、皆さん口々に四国の山の広さや深さを語っていたこと。一見、地味な印象を持ちがちな四国の山々ですが、遊びきれないほど様々なフィールドがあるのだとか。また、一度県外に出て戻ってきて、改めて地元の自然の魅力を感じたという方も多くいました。
その後の懇親会でも愛媛と香川の県民性や山容の違いなど、地元ならではのお話を多く聞き、人数は少なかったもののそのぶん濃密な、楽しい時間を過ごさせていただきました。毎回のトークイベントでも豊嶋秀樹が「ここに来ていただいた方はすでにHLCの一味ですから」と言っているように、山と道としてはHLCに関わっていただいた方はもはや「仲間」であると勝手に考えています。あとから振り返った時に、この日を起点に何かが起こったと言えたらいいな。いや、そうしなければならない。なんてことを話した松山の夜でした。
京都府京都市 山食音
(2018年11月23日)
その翌週、京都でのHLCは山と道の拠点のひとつである京都市の山食音(やましょくおん)で行われました。
恒例のローカルトレイルでのハイキングは勝手知ったる京都ということもあり、スペシャル版として京都府と滋賀県の県境に位置する比良の山中でオーバーナイトハイクする予定を組んでいたのですが、筆者は痛恨のダブルブッキング! 山食音でのイベントのみの参加になってしまいました。そこで、ここはハイクに参加した山と道で生産管理などを担当するスタッフ中川のレポートでお送りします。
山と道スタッフ中川の比良オーバーナイトハイク・レポート
「カリカリの宴会装備で京都駅湖西線ホームの蕎麦屋前に13時集合ね!」とだけ聞いて現地に着くと「ここでよいの? どこ行くの?」という表情と笑顔が入り混ざった面々が集まってきて手の平を重ね合わせる。
山食音の電気くん(東岳志さん)、HLCアンバサダーの中川キンニク先輩、 滋賀一周ラウンドトレイル作りに尽力しているナリタさん、元名古屋の久屋南ランニングサークルのメンバーで現在は関西在住の古谷さん、PLAY WALLETでお馴染みのMINIMALIGHTの羽地さん、元パンケーキ店店長で近々ご自分の店を京都にオープン予定の荘村さん、山と道のイベントスタッフをよくしていただくイッセイさん、HLCプロジェクトリーダーの豊嶋さん、山と道の夏目と中川(自分)、総勢10名で分厚い雲が歴史的建造物にのしかかる古都を抜け出した。
しばらく電車に揺られると、比良駅に着くころには雲の切れ間からの光が琵琶湖と対岸の山々にスポットライトを当て始めた。
比良降ろし(比良山地から琵琶湖に吹き降ろす強風)に心地良さを感じながら、どっちつかずの天気雨のなか歩き始めると、突然間近に太い虹が現れ出迎えてくれた。
道具や遊び方など色々な話に刺激を受け合いながら進む一行。キャンプ予定地から望む琵琶湖畔の風景はとても素晴らしかったが、風と雨は強まるいっぽうで、風を避けるためせせらぎのある森にテント村を設営した。
樹々に浮かぶ空は黒い雲が瞬く間に流される強風で、農ポリ宴会幕に乗せたランプが飛び跳ねるなか、時おり顔を見せるまばゆい満月が一同の気分を盛り上げてくれた。各々のフェイバリット・フード&ドリンクを回し食べ、回し飲むうちに時は過ぎ、月は輝きを増し空高くへと登って行った。
その月明かりの明るさに、思わず近くの尾根まで駆け出す一同。他に誰もいないことをいいことに、雄叫びをあげながら月夜の山を疾走する中年集団は、さぞ異様だったに違いない。日が変わり、ムーンライトRUNの余韻に浸りながらシェルターで眠りにつくころ、雨ではない質感が幕を覆い始めた。
明るくなり表へ顔を出すと、昨夜とは違う白い森が広がっていた。比良山地の初雪だという。意気揚々と雪を踏みしめ、武奈ヶ岳山頂にMustard色の扇を開くオジサン園児たち。
名残りを惜しみながら下れば初雪は何処とやら、麓の温泉とサウナで仕上げ、紅葉でごったがえす古都へと戻る。思いつく限りのシュチュエーションを余すことなく見せてくれた比良山地に感謝しかなかった。
(文/写真:中川爵宏)
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そんなことはつゆ知らず、昼に別件の仕事を終えた筆者・三田は夕方4時に京都へと到着しました。新幹線を降りた途端、東京とは段違いの寒さに驚きましたが、山の上では初雪だったんですね。
京都駅から幅広い国籍の観光客で満員の市バスで揺られ、河原町今出川の山食音に着くと、夏目・豊嶋始めスタッフはプロジェクターや椅子の準備を、東岳志さんら山食音スタッフは懇親会で供する食事の準備に追われていました。
好きなものを好きと言い続ける
山食音は東さんと山と道が共同運営する店で、東さんが作るミールスを中心とした南インド料理食堂としての顔と、山と道の製品を売る道具店としての顔と、今回のHLCのようなことを行うイベントスペースとしての顔を持ちます。かつ山食音としても店舗やフィールドに出てのイベントを数多く行っており、さらに東さんはサウンドエンジニアとして様々なアーティストの録音を受け持っているという、説明すればするほどわけがわからなくなるけどユニークな活動を行なっているのが東さんと山食音なのです。
京都でのHLCはこの東さんと、関西地区のHLCアンバサダーを務めていただく「きんにくん」こと中川裕司さんを交えたトークになりました。中川さんは自身もストールなどを作る会社を営むかたわらパタゴニアの大阪ストアでも週に数日お店に立つという異色の人物で、ファストパッキングを得意としてハードコアな山行をいくつもこなす、関西のトレイルランナーやハイカーのコミュニティのキーパーソンです。
さすがの京都では多くの方にご参加頂き、それほど広くない山食音の店内はすぐに立錐の余地がないほどの人で埋まりました。トークはいつも通り、「HIKE」「LIFE」「COMMUNITY」というキーワードを軸にその日のハイキングの感想などを交えながら進むのですが、京都ならではの山の楽しみ方として東さんが挙げていた大文字山の話には共感を覚えました。
東さん曰く、同じ山を登っても違うトレイルで登れば感じ方は全く違うものなので、DJがトラック(曲)とトラックを繋いでムードをコントロールするように、山でもあるトラック(トレイル)からあるトラックに繋げて歩くことで、感じ方やムードをコントロールできると。そのフィールドに持ってこいなのが大文字山で、整備が進んでいるためトレイルが縦横無尽にあり、その日の気分に合わせて様々なルートを選択でき、何度登っても飽きることがないのだとか。
今年のHLCでは「HIKE」「LIFE」「COMMUNITY」の三つのキーワードに沿って話をしているのですが、後半に「COMMUNITY」の話になったときに、東さんはこれまでコミュニティーというものをどちらかというと毛嫌いして遠ざけていたけれど、山食音を運営するうちにここに自然とコミュニティーらしきものが生まれ、その一員であることの良さを感じるようになったといいました。また、今の時代は好きなものを好きだと言い続けていればそれを好きな人と繋がって、コミュニティーは自然とできるとも。
「ハイク=歩くこと」が「ライフ=生活・人生」の中心にある人同士のゆるやかな「コミュニティー=共同体・つながり」を作ることを目的としているこのHLCの活動にとっても、それはひとつの筋道ではないかと考えました。
トーク後の懇親会も、例によって大いに盛り上がりました。山食音の常連さんも多く、オープンから2年あまりで東さんが作ってきた山食音のコミュニティーやムードを、改めて感じる京都の夜でした。
神奈川県鎌倉市山と道
(2018年12月2日)
鎌倉ウラヤマハイキング
9月の終わりに始まって全国4カ所を回ったHLCも12月になり、山と道の地元である鎌倉に帰ってきました。
鎌倉でももちろんデイハイクを企画したのですが、参加人数は過去最高の24名。山と道スタッフと関係者、ごく近しい友人やこれから山と道に関わっていただく予定の方々、そして今回HLCで回った各地のアンバサダーの方々に集まっていただき、歩きながら現在の山と道のムードを共有できればといった主旨のハイキングになりました。
ルートを考えた夏目は何度も実際に歩いて試行を重ね、「完璧なルートができた!」とホクホク顔でしたが、早朝の鎌倉での待ち合わせにホスト自ら遅刻するという安定の失態を見せてくれました。
ともあれ、スタートとなった鎌倉宮からいきなり険しいトレイルに分け入り、住宅街の裏の尾根道を抜け、と思えばいきなり深い谷間に入り、ゴルフ場を抜けて巨大な廃墟ビルをのぞき、閑静な住宅街を歩いて鶴岡八幡宮をお参りし、また山道を歩いて丘の上に登り、遠く鎌倉の街と海を望んだ今回のトレイルは、なるほど海と山と街と、人と文化と歴史が近い鎌倉という土地でしか味わえないハイキングであったと思わされます。個人的にも山と道関係者のみで、しかも24人もの大人数で歩くことはかなり新鮮な体験で、山と道の成長と広がりを感じました。
ハイキング終点の長谷貯水池のベンチとテーブルのある高台でお弁当を食べたあと、ハイキング参加者は温泉に行ったり、街に一杯ひっかけに行ったりめいめい過ごし、夕方に山と道のファクトリーショップのすぐ近くにあり、これまでも何度もイベントを行なっている大町会館に集まりました。
【スタッフ中村(新人/PCTスルーハイカー)が作成した当日のハイキングの動画です】
山と道のコミュニティー
鎌倉でも多くの方にお越し頂き、トークはゲストは入れず豊島・夏目のみの登壇でしたが、今回のHLCで回った各地のアンバサダーの方々も会場にいましたし、恒例のハイキング参加者によるマイクリレーも20名以上に渡り、賑やかな会になりました。
そしていつも通りトークは「HIKE」「LIFE」と進んで「COMMUNITY」の話になり、鎌倉の話になりました。夏目は10年ほど前に鎌倉に引っ越してきて、それまであまり感じていなかったコミュニティーというものを初めて意識したといいます。友達が友達を繋いで、どんどん広がっていくような感覚、そしてその一員になっている感覚は、東京にいた時は感じたことがなかったと(実際、今回のHLC鎌倉でも懇親会のケータリングは「オイチイチ」と「パラダイスアレー」、ビール販売は「ヨロッコビール」と、公私共に山と道と関係が深い鎌倉の顔役のような存在が務めてくれました)。そして現在は、夫婦ふたりで始まった山と道にも関わる人が増え、いつのまにかひとつのコミュニティーになってきたと。
そのとき、著者もハッとしたのです。そういえば自分も山と道のコミュニティーに属している気分が、なんとなくあります。それを「人間関係」や「仕事関係」といえばそれもその通りですが、もっと広くてゆるくて境界線が曖昧な、でもはっきりとそこにあることを感じるような、つながりのある集団です。
そしてそこに属していることは、悪い気分ではありません。むしろそんなコミュニティーを心のどこかに感じていることは、この一筋縄ではいかない人生をサバイブしていくための大きな糧になるように思います。そんなコミュニティーを、趣味関係でも仕事関係でも地縁でも、人はいくつも持っていたほうがいいし、そんなコミュニティー同士が繋がっていったら、なお楽しくなるかもしれない。
つまり、このHLCがやろうとしていることは、そういうことなのだと筆者は思っています。山や自然で遊ぶことを共通項とする人々が繋がっていくこと、そしてそんな繋がりのコミュニティがまた、別のコミュニティと繋がっていくこと。そんな繋がりが日本中に広がっていったら、我々の住むこの社会やそこで営まる暮らしは、もっと豊かになるかもしれません。
夢みたいな話ですが、8年前に山と道が始まったときは、誰もいまのような山と道になることを想像もできなかったと思います。同じように、もしもこれから先もHLCを5年、10年と続けていったとき、何がどうなっているかは誰にもわかりません。
その後の懇親会も大いに盛り上がり、筆者も久しぶりに記憶が曖昧になるほどお酒を飲みました。なので、正直それからのその夜のことはあまり覚えていません。すみません。ともあれ、筆者も山と道スタッフもアンバサダーの方々も、「これから先、何か面白いことが起こっていきそうだぞ」という気持ちは共有できていると思っています。
2019年のHLCはパートナーショップである岩手のKnotty、那須のLunettes、松山のT-mountain、京都の山食音と各地のアンバサダーを中心に、フィールドプログラムなども交えてより積極的な活動を行なっていきます。また、拠点となるパートナーショップも今後さらに増やしていく予定です。
HLCは皆さんのご参加をいつでもお待ちしています!
豊嶋秀樹 × 夏目彰
HLCの2018年とこれから
こうして幕を閉じた2018年の『HIKE / LIFE / COMMUNITY』ですが、なぜ今年はこのような形となり、2019年はどんな活動してくのか? プロジェクトリーダーを務める豊嶋秀樹と山と道の夏目彰が鎌倉でのHLC終了後に振り返りました。
ーー昨年は全国24箇所で行われたHLCでしたが、今年は5箇所の開催になりました。今年のHLCはなぜこのような形になったのでしょうか?
豊嶋 2017年に日本全国を旅をして、日本って縦長の島国にいろんな自然や環境があって、いろんな人たちが住んでいて、いろんなライフスタイルがあって、山との関わり方があって、そこには人の繋がり………コミュニティーがあるってことが、結構実感できたんです。でも、それぞれの土地に面白い人がいるのに、そことそこはあまり繋がってないなって。だったら、西と東と北と南の面白い人が繋がっていく場づくりをする、そういう状況を作ることを次のHLCプロジェクトの目標にしてもよいのではないかと思ったんです。でも、そういうのって一気にできることじゃないし、フォーマットを用意したからって機械的にできることでもない。結局、人と人が繋がるっていうことでしかないから、僕らもそれを急いで大きな規模でやるのではなく、小さくてもひとつひとつの関わり合いの密度を深めていこうと思ったんです。
夏目 あと、もうひとつの側面として、全国を回って各地で山の楽しみ方とかルールとか、山との寄り添い方が違うんだっていうことがわかったんですけど、ULハイキングのスタイルや考え方が実は全く浸透していなかったなっていうのが、結構ショックだったんですよね。自分が山道具を作りながら伝えたかったメッセージや思想や考え方が実はほとんど伝わっていないんだなって。だから、それを実践して体験できる場を作りたいって思いました。その第一歩として、まずは豊嶋さんのいうように人と人との繋がりが大事だから、まずはそこから始めてみようと。
豊嶋 なので、今回はすでに山と道と繋がっていたり取引先だったりという人たちにアンバサダーという形で立ってもらって、その人が持っているコミュニティーに僕たちを繋げてもらう、それがファーストステップかなと思って。そこで各地でローカルの人たちと一緒に山を歩くことで、そのコミュニティーと一回繋がろうと。で、やってみると、実際に山を歩くってことは自分たちにとってすごく有効な手段だなってことを実感できたよね。
夏目 みんなでハイキングするのがこんなに楽しいんだってことが発見だった。やる前は20人以上のハイキングなんて楽しいのかって若干の不安があったんだけど、山好きが集まってわいわいハイキングするだけですごく楽しいし、結束力も高まった。人と人が繋がるのがこんなに簡単なのかってハイキングでよくわかった。それが実感できたことがいちばん大きかったかも。
豊嶋 今回がファーストステップだとしたら、この先に進むには僕たちも彼らを信用しなくちゃならないし、向こうにも信用してもらえるような関係を作っていかなければいけないわけで、それには手間もかかれば時間もかかる。お互いの価値観や理想を共有できることも大前提だけど、一方的にどちらかが何かを与えるんじゃなくて、刺激を与えあったり、何らかの交換が成り立つような関係性になれたらいいなと思ってますけど。
夏目 例えば松山のT-mountainのコミュニティーが、盛岡のKnottyのコミュニティーに遊びに行くとか、knottyのコミュニティーが松山や京都、那須に遊びに行くとか、お客さんを交換し合うみたいな繋がりができたら、すごく刺激的だし、ドキドキするよね。そういうことをできそうだってことも今回感じられたし。HLCの名称は豊嶋さんがつけてくれたんだけど、正直、僕はコミュニティーって言葉にピンと来ていなかったんですよ。自分が何かのコミュニティーに属しているっていう実感もあまりなかったから。でも、旅を続けて、各地のいろんなコミュニティを見ていくなかで、自分も鎌倉のコミュニティーの一員なんだってことをすごく意識するようになった。やっぱり、人と人の繋がりって大事なんだって。当たり前なんだけど。